商品・サービスの事例から学ぶ、各欲求を満たすためのポイント

では、マズローが提唱したそれぞれの欲求を満たすには、どのような商品・サービスを提供すれば良いのだろうか。ここからはそのヒントをつかむために、各欲求を満たす商品・サービスの事例や、経営者が押さえておきたいポイントを紹介していく。

1.生理的欲求を満たす商品・サービスの事例

生理的欲求を満たす商品・サービスの事例としては、衣食住に関するものが多く見られる。例えば、自力での生活が難しい高齢者を受け入れている老人ホームは、その代表的な例と言えるだろう。

一見すると飲食店も生理的欲求を満たすように思えるが、飲食店に訪れるほとんどの人は味や見た目などの付加価値を求めている。つまり、生きるために来店しているわけではないので、飲食店経営は生理的欲求を満たす事業には含まれない。

前述したが、現代の日本は最低限の生活が保障されており、ほとんどの人の生理的欲求は満たされている。そのため、生理的欲求をターゲットにするのであれば、海外市場にも目を向ける必要がある。

2.安全欲求を満たす商品・サービスの事例

終身雇用制度の崩壊や年金制度に対する不安の影響で、最近では安全欲求を満たす商品・サービスが増えてきている。代表的なものとしては老後資金を積み立てられるiDeCoや、私的年金などの類が挙げられる。

また、防災グッズやサプリメント、健康増進に役立つアプリなども安全欲求を満たす商品・サービスの代表例だ。最近では「WalkCoin」や「トリマ」のように、歩いてポイントを貯められる健康アプリも珍しくなくなった。

これらの商品・サービスは大きなニーズを獲得しているが、安全欲求の種類によってはすでに満たされている人も多い。例えば、普段から命の危険にさらされる生活を送っている日本人は少ないので、国内で生活の安全性を高める商品・サービスを提供しても、大きなニーズにはつながらないかもしれない。

したがって、安全欲求を狙って事業を展開する場合は、ターゲットを具体的な欲求まで絞り込むことがポイントになる。

3.社会的欲求を満たす商品・サービスの事例

社会的欲求を満たす商品・サービスとしては、「Twitter」や「Facebook」をはじめとしたSNSが挙げられる。また、結婚相談所などの婚活サービス全般や、人脈を広げられるシェアハウスなども代表的な商品・サービスだろう。

そのほか、ペットと共生できる賃貸物件やイベントの開催など、社会的欲求を満たす商品・サービスはすでにありふれている。したがって、単に社会的欲求を満たせるような事業を始めただけでは、多くのニーズを獲得することは難しい。

特に近年では、海外のサービスを積極的に利用する日本人も増えてきているため、国内で事業展開をする場合であっても広範囲における市場分析・競合分析が必要だ。

4.承認欲求を満たす商品・サービスの事例

現代の日本には、以下のように承認欲求を狙った商品・サービスが非常に多く存在している。

マズローの欲求5段階説とは? マーケティングへの活用方法や参考になる事例集

上記のほか、身体を鍛えられるジムや高級ブランド店、他社の質問に回答できるQ&Aサイトなども承認欲求を満たすサービスだ。

承認欲求を満たす商品・サービスは幅広い層からの需要につながるが、社会的欲求と同じく競合が多い。また、経営者にとってはビジネスの選択肢が多い欲求なので、具体的なターゲットの絞り込みと、徹底した市場分析の両方が必須になる。

5.自己実現欲求を満たす商品・サービスの事例

自己実現欲求を満たす商品・サービスとしては、主に以下のものが挙げられる。

・自身のライフプランを相談できるサービス
・就職活動・社会復帰をサポートするサービス
・理想の身体を目指せるジム
・人生観に関する動画メディア
など

自己実現欲求の強い人は、時間や労力を犠牲にしてでも上記のような商品・サービスを利用する傾向がある。なかには、目的のために手段を選ばない人もいるので、質が良ければ高額な商品・サービスを提供してもニーズにつながるかもしれない。

したがって、自己実現欲求を満たす事業を始める際には、多くのコストを費やしてでも商品・サービスの質を高めることがポイントになる。