会社が経理の際に作成した証憑はかさばるため、決算書や税金の申告書が完成した後はすぐにでも書類を処分したいだろう。しかし、諸官庁に提出した後であっても調査が入ったり、処理の検証が必要になったりする。今回は、証憑の意味や種類をおさらいしつつ、書類の保存について法律ごとに解説する。
目次
証憑書類の保存は必要?
証憑とは一般的に取引の成立を示す書類を意味し、読み方は「しょうひょう」だ。
種類の例は、売り上げに関する書類(請求書や領収書)、給与に関する書類(給与支払明細表やタイムカード)、仕入れに関する書類(発注書や納品書)などだ。
会社が会計を行った場合の証憑は、法律で一定期間の保存が求められている。関係者や税務署などが検証しやすいようにするためだ。
事業者が計算書類や税金の申告書を作成した場合、会社法と税法の立場から書類の保存が必要となる。また、書類の保存の必要性はどちらの法律でも同じだが、会社法では、会社の株主や債権者が必要なときに閲覧し、会計書類を検証できるように、税法では、税務署等が申告内容を検証できるように証憑の保存が求められる。
会社法における証憑書類の保存
会社法においては会計帳簿や計算書類を保存しておく必要がある。
会計帳簿について
会社法では、会社が作成する会計帳簿について以下のように規定している。
(会計帳簿の作成及び保存)
第四百三十二条 2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
会社法では、会計帳簿について閉鎖のときから10年間の保存が求められているのだ。
会計帳簿とは何か気になるところだが、会社法だけでは判断できないので、手がかりになるのが、会社計算規則第59条3項などである
第五十九条 3 法第四百三十五条第二項の規定により作成すべき各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書は、当該事業年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならない。
会計帳簿は、株式会社が作成する計算書類や附属明細書の基礎となる存在だと考えられる。
具体例を挙げれば、総勘定元帳や補助元帳、仕訳帳、固定資産台帳、現金出納帳などが相当するだろう。
また、「閉鎖」の時点とはいつなのだろうか。会計帳簿の閉鎖は、これ以上その年における会計帳簿の記載がない状態をさすと考えられる。具体的には、遅くとも株主総会などで決算書が承認されたときだろう。
条文では、事業に関する「重要な資料」についても、10年間の保存を求めているが、重要な資料について具体例がない。
考えうる資料を挙げれば、少なくとも契約書は該当すると思われる。拡大解釈となるかもしれないが、金額の大きい領収書類や通帳類も該当すると考えてよいだろう。
計算書類について
会社法では、計算書類の保存について以下のように定められている。
第四百三十五条 4 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。)
計算書類は作成時から10年間の保存が求められている。
また、株式会社は少なくとも貸借対照表を公表する義務があり、5年間備え置いて株主や債権者の閲覧に応じる必要がある。保存の理由は情報公開のためだといえるだろう。
実務上では、法律の定めに関係なく永久保存としている場合が多い。
法人税法における証憑書類の保存
法人税法では、帳簿類や書類について申告書の申告期限翌日から7年間の保存が必要とされている。保存すべき証憑の範囲は会社法の場合よりも広い点に注意が必要だ。
帳簿類について
帳簿類は、総勘定元帳や仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがある。
これらは取引の記録を目的として、決算書や申告書を作成するための資料を指すと思われる。
書類について
書類は、貸借対照表や損益計算書といった決算書類をはじめ、注文書や契約書、領収書、預金通帳などの証憑類が挙げられる。
申告書について
法人税法では、申告書の保存期限について特に定めがない。しかし、実務上では永久保存としている場合が多い。
会社解散時において、期限切れ欠損金を用いて利益を消滅させられるため、その金額を把握させる意図もある。
青色申告について
通常、証憑の保存期間は7年間である。しかし、青色申告を行っている場合、赤字を出した年の保存期間は以下の通りだ。
欠損金の繰越期間が9年や10年に延長され、欠損金の繰越ができる年数に応じて保存期間も延長された。
消費税法における証憑書類の保存
消費税法でも、証憑の保存が求められる。現在の制度とインボイス制度導入後に分けて解説していこう。
現在の制度
まず、消費税法では帳簿の保存が求められており、保存期間は、消費税申告書の提出期限から7年間だ。
作成する帳簿類は、消費税法に定められた事項さえ書いていれば、消費税用の帳簿を作成する必要はない。法人税や所得税の申告を目的に作られた帳簿であっても差し支えない。
また、帳簿以外に書類の保存も求められている。令和元年の消費税法改正以降は「区分記載請求書」を消費税申告書の提出期限から7年間保存しなければならない。
なお、6年目以降は片方のみでよいとされているが、実際は両方とも保存するケースが多い。
インボイス制度導入後
インボイス制度導入後については、購入側は従前と同じでインボイス(適格請求書)の保存と一定の帳簿を保存する必要がある。ちなみにインボイスとは、販売側が購入側に適用税率や消費税額などを伝える書類だ。
販売側もインボイスの控えを保存しなければならない。保存期間は、課税期間末日の翌日から2ヶ月を経過した日を起点として7年間となっている。
なお、保存方法は紙の控えのみならず、電磁的記録で作成された文書の保存でも差し支えない。
証憑書類の電子化保存
昨今、在宅勤務の広がりを受けて、ペーパーレス化が推奨されつつあるが、会社法では、最初から決算書などの電子化保存が認められていた。しかし、税法では紙による保存が原則であり、電子化保存を行うとき税務署または国税庁の承認が求められるのでその点には留意しておこう。
申請期限や必要書類
税法では、証憑の電子化保存を行う場合、3ヶ月前までに税務署または国税庁に対して申請を行う。
なお、これらの書類はシステムベンダーにあらかじめ用意してもらえることもある。
紙による保存の必要性
仮に税務署や国税庁から電子保存の承認を得られたら、紙による書類の保存は不要となるのだろうか。答えはノーだ。
電子保存の承認には範囲がある。たとえば、証憑だけ承認されたり、帳簿のみ承認されたり、全体で承認されたりするため、一概にすべての証憑や書類について電子保存が承認されるとは限らない。全体のコストや保存スペースを考えて証憑の電子化を検討するとよいだろう。
証憑書類の保存期間一覧表
以上、法律が求める証憑の保存について対象や期間などを説明した。法律によって要求が異なるため、作成すべき証憑の書類内容や保存期間が大幅に違う点には注意したい。
あらためて法律上と実務上に分けておおよそ整理すると以下の通りだ。
法律上では10年間の保存で事足りるケースが多いが、実際はそれ以上保存するケースが多いように見受けられる。電子保存も含めて、実務を進める際に認識を誤らないよう、正しく把握しておこう。
文・中川崇(公認会計士・税理士)