DHC会長ヘイトスピーチの末路 自治体も連携解消へ
(画像=Nagahisa_Design/stock.adobe.com)

化粧品会社ディーエイチシー(DHC)が、会長名で公式サイトに在日コリアンを差別する文章を掲載していた問題は、2020年末に波紋を広げた。その後、この問題はどのような顛末をたどったのだろうか。

DHCヘイトスピーチ問題の始まり

DHCの吉田嘉明会長が公式サイトに差別文章を掲載していた問題は、在日コリアンへのヘイトスピーチだとして、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のTwitterやFacebook上などで批判の声が相次いだ。

Twitterでは、「#差別企業DHCの商品は買いません」という不買運動のハッシュタグをつけた投稿が目立ち、トレンドで上位に入るほどだった。この文章が掲載されたのが2020年11月で、その翌月の12月にはこの文章の存在が広く知られたことで、テレビや新聞などでも盛んに報じられるようになった。

ちなみに、以下が掲載されていた文章の一部だ。

「サントリーのCMに起用されているタレントは、どういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です」

再びヘイト文章を掲載、「ヘイト広告」も打とうとした

批判が上がっても、DHCの吉田会長は文章を削除することはなかった。それどころか、2021年4月には、再び在日コリアンに対するヘイト文章を掲載した。この行動の理由は、企業のヘイト問題について報じたNHKに対する反発であるとされている。

このときに掲載した文章では、政界や財界、法曹界、マスコミ界を「コリアン系」が牛耳っているとし、マスコミに対しては「街角インタビューさえコリアン系を選んでいる」「(なぜ分かるかといえば)何よりも後頭部の絶壁ですぐに見分けが付く」などと批判している。

この文章を掲載したあとも、多くの批判がDHCに寄せられた。それに懲りもせず、2021年5月にはまた新たな文章を発表し、さらには、DHCがこのような趣旨に似た内容の広告をテレビや新聞で打とうとしていたことも明らかになった。

吉田会長は以前からこうしたコリアン系に対する差別・偏見を持っていたことが各社の報道で明らかになった。吉田氏はDHCの創業者で、現在は会長でありCEO(最高経営責任者)でもある。権力を持つ経営者に対し社内では反対している社員も声を上げづらい状況にあったことから、掲載を強行したと思われる。

文章は削除したが、自治体側から連携解消の動き

批判が上がっても決して折れることはなかった吉田会長だが、事態は動く。2021年5月末に、在日コリアンを差別する文章が公式サイトから削除されたのだ。報道によれば、不適切な表現があったことをDHC側は認め、発言を撤回する形をとったという。

しかし、差別文章の掲載をやめたことでこの問題がすぐ収束したわけではなかった。茨城県下妻市は6月、過去にDHCと結んだ連携協定の解消を発表している。両者は市民の減量事業で連携してきた経緯がある。

実は、こういった動きは下妻市だけにとどまらない。DHCと協定を結んでいた自治体のうち、宮城県石巻市や千葉県横芝光町、神奈川県平塚市、高知県南国市、熊本県合志市なども、協定の解消もしくは凍結の方向で動いているようだ。

報道によると、自治体からは「掲載は遺憾」「文章は不適切」「人種差別発言は容認できない」といった声があがっているという。

対策法制定から5年、DHCの今後の姿勢は?

これらのDHCに関する問題は同社のブランドイメージを下げ、業績にも少なからず影響が出てくるものと思われる。ただし、DHCは上場企業ではないため、四半期ごとに業績が発表されているわけではない。現時点では、影響がどの程度あったか外部からはわからない。

しかし、同社は毎年、決算公告を官報に掲載している。2019年8月~2020年7月期の決算公告は2020年11月に掲載されており、2020年8月~2021年7月の決算公告は、2021年11月ごろに掲載される可能性が高い。その2期の売上高や営業利益の推移を比べれば、影響が見えてくる可能性はある。

いずれにしても、日本国内ではヘイトスピーチを厳しく制限する流れとなっている。ヘイトスピーチ対策法が2016年6月に施行され、今年6月には施行から5年が経った。現時点では罰則などはないが、自治体によっては条例を制定して対策に乗り出しているケースもある。
DHCならびに吉田会長の今後の動向に注目が集まっている。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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