カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)によって発行されているデジタル通貨「バコン」の国内ユーザー数が増加していることがわかった。日経のアジア系メディア・Nikkei Asiaが報じた。
デジタル通貨バコンはスマートフォンアプリを使い、電話番号またはQRコードで店舗への支払いや個人間・企業間の送金ができる決済システムだ。ユーザーの銀行口座に裏付けされたバコンは、スマートフォンアプリで容易に使えるため若者を中心に利用が拡大している。
バコンは、カンボジア国立銀行が2020年10月、CBDCに近い「準CBDC」と位置付けて発行した。同国の法定通貨リエルおよび米ドルに対応した小口スマホ決済に必要な末端のウォレットにいたるインフラを国・中央銀行が提供している。
Nikkei Asiaは、カンボジア国立銀行総括局長でバコンのプロジェクトを率いるChea Serey氏を取材。同氏はバコンのモバイルアプリユーザーが約590万人(同国の人口は約1670万人)いることを明らかにした。
また、2021年上半期には約140万件の取引が記録され、金額にして約5億ドル(約550億円)に達したことも公表した。
こうした状況にSerey氏は「非常に満足しています」と述べ、「人々が決済に置いてデジタルな媒体の使用に切り替えるための状況が熟してきました」と語り、さらなる普及を目指している模様だ。
カンボジアにおけるバコンプロジェクトの背景には、リエルの使用を促すという大きな理由がある。
カンボジアは二重通貨制を採用しており、米ドルが広く流通している。これは1980年代から90年代にかけてカンボジアの内戦や情勢不安の中で、米国の介入とともにリエルよりも、経済的には米ドルでの取引が急増したことに起因する。
Serey氏は、復興期にはドルの恩恵を受けていたことは認めつつも、カンボジアが徐々に経済成長を遂げていることもあり、「米ドル依存から脱却する時が、そろそろ近づいて来ている」と語った。同氏は、自国通貨の使用を増やすことで、中央銀行が通貨供給量とその流通をコントロールするなど、独立した金融政策を維持することがカンボジア経済にとって大切だと強調した。
ただ、現時点ではすぐに米ドル中心の経済から自国通貨中心の経済に切り替えることはできないとも語った。カンボジアでリエルを中心とした経済活動のためには、いまだ不安定な要素が残る同国の経済事情を挙げ「為替レートやインフレ率を安定させることや、経済成長の見通しなどの課題がある」と述べた。
そのためSerey氏は、現状のバコンの使命として「自国通貨の使用率を高めること」に注力しているという。しかし今後、長期的にはバコンを国内で浸透させ「自国通貨のみを使用すること」だとし、マレーシア最大の銀行であるメイバンクや、タイの中央銀行とバコンを使ったクロスボーダー取引も検討しているとした。
バコンは、日本のブロックチェーン関連企業ソラミツとカンボジア国立銀行が共同で開発した通貨としても知られている。同通貨はソラミツが開発したブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」を活用しており、特徴として決済手数料が無料であること、高速取引が可能であることなどが挙げられる。(提供:月刊暗号資産)