本記事は、仲亀彩氏の著書『リピート率80% 心をつかむ接客術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
嫌われていたら、覚えてもらう 絶好のチャンス
今回は、最初の印象が悪い場合にも、挽回のチャンスはあるというお話です。
「いらっしゃいませ」と私がお客様を迎えた瞬間、お客様から、「え?! 女性のシェフ? 男性のシェフに変えて欲しい」と言われたことが残念ながら幾度もあります。何万円もする食事に、自分より遥かに若い女性に焼いてもらいたくないと思われた結果だと思います。何もさせてもらえないまま、拒否されてしまった苦い経験です。
これは、ある意味では仕方のないことだと思います。お客様の価値観や経験は、お客様のもの。それを決める物差しを我々は持っていません。たとえば、マッサージ店で働いている女性がいて、彼女の指圧の力は強いとしましょう。それでも、お客様が来店し、力の強い人を希望する時、多くの場合は男性が選ばれるでしょう。そのような、自分ではどうしようもないことが、世の中にはあります。
しかし、最初の印象が悪い場合でも、お客様から担当を変えて欲しいと言われるまでは、いつも自分にチャンスがあります。
私の場合は、鉄板焼の女性シェフということもあり、まだまだ世の中では珍しいため、今までにいろいろなことがありました。
以前は、本当に100人のお客様がいたら100回「女性なんだね、珍しいね」と言われていました。それはいい意味でも悪い意味でも、です。私はたとえ最初の印象が悪くても、何食わぬ顔で焼き始めます。逃げられなかったし、逃げたくないという思いもありました。当時は悪い印象を払拭するため、自分の技術を上げ、経験を積み、自信をつけることで、折れそうになる心を奮い立たせていました。
最初に怪訝そうな顔をしているお客様でも、私の技術と接客を体験してもらうと、途中で表情や空気感が変わることがあります。そうなると、私はしめしめと思います。マイナスの印象からスタートしているため、後はもう上がるだけだからです。さらに、マイナスからプラスへの感情の振れ幅が大きいので、お客様に強い印象を残します。
最初の印象が悪いと、それだけで印象が強い場合が多いです。特に私の場合、男性社会の中の女性シェフなので、見た目にも覚えやすく、お客様の記憶に残りやすい。そしてマイナスからのスタートで、技術や接客で喜んでいただいてプラスに転じると、インパクトが強い。したがって、最初は怪訝そうなお客様が、指名をしてくれるように変わることはよくあります。
あなたが、このお客様に嫌われているかもしれないと思ったら、その時が次に選ばれるチャンスです。負けないで、最後まであなたの信じた接客を貫いてください。
そこでお客様の笑顔が生まれたらあなたの勝ちです。きっと次回、指名で帰ってきてくれるでしょう。
Point 嫌われていると思ったら、次に選んでもらう絶好のチャンス
いいサービスを見つけたら、すぐにまねる
私は、日頃行くお店でサービスを受けた際、「これいいな」「あのサービスがすごかったな」と思ったら、すぐに自分の接客に落とし込むようにしています。
まず、どんな風なサービスだったかをメモします。そしてそれを見ながら、自分だったらどういう風にしたらいいかというのを考えます。
メモには、自分が勉強になったことを書いてください。自分ができていないこと、マネしたいなと思うことを書きます。
私が先日受けた素晴らしいサービスのメモを例に挙げます。
【メモ】 接客の女神のようなおばあさん 「もう少しお時間いただきます」 「ありがとうございます! どうぞ」 些細な声がけ
70代後半くらいの女性が、駅のトイレを掃除していました。その人の仕事は主に掃除ですが、私が受けたのは一流の接客でした。というのも、掃除の綺麗さもそうですが、その人はお客様に声をかけながら掃除をしていたのです。ゴミを拾いながら「もう少しお時間をいただきます」。掃除が終わった後は待っている方に対して、「(お待ちいただいて)ありがとうございます! どうぞ」。
そんな声かけをするトイレ掃除の人を見たのは、生まれて初めてです。曇りのない美しい笑顔でした。私は、電車に乗る前にこれをメモし、仕事に向かいました。
このメモによって私がしたことは、自分のお客様への声かけをもう一度見直すことでした。言わなくてもいいかと自分で曖昧にしていたことも、それからは言うように気をつけています。些細なことも、お客様(受け取り手)がどう思うかはわかりません。それが、自分が言わない理由にはならないと思うようになりました。
たとえば、これまで私は、お客様との会話中に細かい齟齬があっても、話の途中で確認することはあまりしてきませんでした。しかしこの気付きによって、お客様にきちんと確認するようになり、誤解が生まれづらくなりました。それにより、お客様との関係性がより深まり、お客様の信頼も確かなものに変わりました。私の出勤日を電話で店に確認してから来てくれるような、そんなお客様もいらっしゃいます。
このように、いいと思った接客を忘れないうちにメモし、自分の接客に落とし込み、実行に移すようにすると、自分の接客が日々ブラッシュアップされます。
常に自分の接客を修正していくことで、どんどんよくなっていきます。
自分がサービスを受ける機会はすべてが学びの場です。誰に教えてもらうわけではなくても、我々の日常は学びに溢れているのです。
Point いいサービスを見つけたら自分の接客に落とし込む
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