富裕層や高所得者の代名詞とも言えるドクター(医師)。一見、資産管理において大きな悩みはないようにも見える。しかし、開業医と勤務医では大きく資産構成が異なるものの、いずれにせよ「ドクターならではの悩み」を抱えていることが多い。今回は、「ドクター(医師)の資産管理戦略」と題して、ドクターの資産管理や家計管理について考えていこう。
第1回はドクターの収入事情について見ていこう。著書に『ドクターのためのお金の増やし方実践法』があり、ドクターのマネー相談件数は1,000件以上という「ドクターに特化したファイナンシャル・プランナー」の岡崎謙二氏に話を聞いた。(聞き手:菅野陽平)
コロナ感染拡大によって、収入減に見舞われているドクターたち
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、大幅な収入減に見舞われたドクターが多い」(岡崎氏)という。毎日のようにエッセンシャルワーカーの奮闘が報道されており、むしろ業務量が増えて収入が上がっているようなイメージすらあるが、収入が減っているとは、どういうことなのだろうか。
実は、コロナ禍において売上を落としている病院が多い。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が2021年6月3日に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第4四半期)」によると、医療機関の2020年度の医業利益は、全病院で2019年度比マイナス4.3%、コロナ患者受け入れなしの病院でマイナス1.9%、コロナ患者受け入れありの病院でマイナス4.6%と悪化している。
外出自粛や感染予防の観点から、通常の診療を受ける人が減り、売上を低下させている病院が多くなっている。コロナ患者を受け入れたほうがマイナス幅は大きく、経営は悪化しやすいことが読み取れる。売上が減るのだから、当然、人件費であるドクターの収入にも減少圧力がかかるというわけだ。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が2021年2月16日に公表した同調査の2020年度第3四半期版によると、コロナ受け入れ病院の4割強が冬の賞与を減額支給した。経営悪化とリンクするように、ボーナス(賞与)が削減されている。
また、「ドクターは在籍している医療機関以外でも非常勤(アルバイト)をしていることが多い。時給の相場は1万円以上で、それで高給を保っている」(岡崎氏)ため、病院経営が悪化すると、そのようなアルバイト枠が削減されやすい。そのため、コロナ感染拡大後は、大きく収入を落としたドクターが多かったようだ。
ドクターの収入を押し下げる構造的課題
ドクターを取り巻く環境悪化はこれだけではない。「もし新型コロナウイルスの影響がなかったとしても、日本は急速に少子高齢化が進むので、政府の税収減少などにより、診療報酬は減少していくと思われる」と岡崎氏は指摘する。
診療報酬とは、患者が保険証を提示して医師などから受ける医療行為に対して、保険制度から支払われる料金のことだ。多くの患者は、医療費の3割を自己負担し、残りの7割は保険制度から支払われている。
病院(クリニック)において、医療スタッフの人件費、医薬品・医療材料の購入費、施設を維持・管理していく費用などは、この診療報酬のなかから賄われている。診療報酬はいわば病院の売上の源であり、ドクターの人件費もこのなかから支払われているため、診療報酬に減少圧力がかかれば、ドクターの収入にも減少圧力がかかるというわけだ。
「実際、2020年度の診療報酬はマイナス0.46%の引き下げとなった。今後も診療報酬が増加することはあまり期待できない。これは多くのドクター自身も予想していることであり、ドクターを取り巻く環境はますます厳しくなってくることが予想される」(岡崎氏)
これは新型コロナウイルスが蔓延する前から叫ばれていた構造的課題だ。そこにコロナ対策で大規模な財政出動を行ったため、日本の財政はさらに厳しくなったと言える。政府としては、「できる限り診療報酬は引き下げていきたい」という気持ちがさらに強くなっていても不思議はない。日本医師会の政治力が強いため、すぐには引き下がらないという意見もあるが、中長期的には減少する可能性が高いようだ。
勤務医の平均年収は1,500万円前後
ドクターと言えば高所得者というイメージが強い。「2006年に廃止された高額納税者公示制度があったときは、上位の多くは開業医だった」(岡崎氏)というが、今日ではどれくらいの給与水準なのだろうか。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会が発表している「第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」に医療関係者の平均年収の統計が載っている。それによると、一般病院(医療法人)に務めるドクターの年収は1,640万円、国立病院であっても1,431万円だ。所属している医療機関によって多少異なるが、「一般的な勤務医の平均年収は1,500万円前後」と言えるだろう。
ちなみに一般病院(医療法人)の病院長になると、年収は3,042万円まで跳ね上がる。「病院長=医療法人のオーナー」とは限らないが、開業医の場合は「例えば内科で100人くらい患者が来ると年商1億円、手残り所得は2,500万円くらいのイメージ」(岡崎氏)という。
日本全体の平均年収から考えれば、たとえ勤務医であっても、ドクターはかなりの高収入であることが分かる。しかし、「私はこれまで1,000件以上のドクターと面談してきたが、高収入であっても、お金の悩みや将来の不安がつきない人は多い」(岡崎氏)という。第2回では、ドクターの資産管理のポイントについて紹介していこう。
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