自社のブランディングに失敗したくない中小企業の経営者も多いだろう。ブランディングはビジネスシーンでよく使われる言葉だ。しかし、意味を正確に理解していない方もいるかもしれない。今回は、企業ブランディングの目的やメリット、進め方、主要会社の事例などを解説していく。
目次
企業ブランディングとは?
企業ブランディングとは、企業がステークホルダーに認知してもらいたい社会的イメージをさす。企業ブランディングは、製品や事業、企業理念、従業員の行動など、さまざまな要素で成り立つ。
似たような概念に製品ブランディングがあるが、原則として消費者に向けたブランディングだ。その点、企業ブランディングは消費者だけでなく、株主や従業員、取引先、地域社会など、ステークホルダー全体に発信する。
企業ブランディングの目的
企業ブランディングの目的は、他社との違いを明確にし、自社の製品やサービスを優先的に利用してもらい、業績を向上させることだ。
企業ブランディングが成功し、自社に対してロイヤリティや共感性が高まると、競合他社との価格競争や品質競争から抜け出しやすくなる。結果として、自社の製品やサービスが選ばれる可能性が高くなるだろう。
中小企業の企業ブランディング
ブランディングというと、大規模な広告を出して知名度を高めたり、商品パッケージや店舗デザインに高級感を持たせたりする戦略をイメージしてしまうかもしれない。
しかし重要なのは、顧客もしくは見込客に他社と異なる価値を見出してもらうことだ。
中小企業だと、大企業のようにテレビコマーシャルを流したり、大規模な広告施策を打ったりすることは難しいかもしれない。
小規模な企業が企業ブランディングを高める際は、既存顧客や開拓したい業界に集中して施策を打ち、ターゲットを絞って資金や時間を効率よく使うことが重要だ。
企業ブランディングによって生まれる6つのメリット
企業ブランディングが高まることによって、企業にはさまざまなメリットが生じる。ここからは、企業ブランディングのメリットを6つ解説していく。
メリット1.未進出の分野を開拓しやすい
企業ブランディングが高まると、製品ブランディングまで一緒に高まることもある。企業ブランディングによる信頼度や機能性などのイメージは、製品のイメージにも直結しやすい。
たとえば、未進出の分野で新製品を展開したとしよう。一般的に消費者は、口コミや評価が集まるまで様子をみるだろう。
しかし、高い企業ブランディングを有していれば、消費者は「あの企業の製品であれば間違いない!」という考えになりやすい。
メリット2.マーケティング効果が向上
製造元の素性がわからなければ、製品を安心して購入できないだろう。
その点、企業ブランドのイメージが固まれば、製造元に対する不安や疑問が和らぎ、製品を検討してもらえる機会も増えやすくなる。
また、企業ブランディングが高まることで、製品やサービスを強く宣伝しなくても消費者側から選んでくれるようになる。
企業ブランディングが高まるまでは一定の費用がかかるものの、それ以降は広告費の削減効果も期待できる。
メリット3.従業員のモチベーションアップ
企業ブランディングは、従業員のモチベーションにも影響を与える。
ステークホルダーから企業ブランディングが高く評価されていると、従業員は自社への愛着や誇り、業務へのやりがいを感じる。従業員のモチベーションが向上すれば、結果として良い業績につながりやすい。
メリット4.採用活動の促進
企業ブランディングが成功すれば、採用活動の促進にもつながる。
ステークホルダーから企業ブランディングが高く評価されていると、評判を聞きつけた人が就職先や転職先に選ぶ確率が高まる。結果として、採用活動がうまく進みやすくなるだろう。
就職活動や転職活動では、待遇面だけでなく社風や企業理念も判断材料になるケースが多い。
企業ブランディングが高まっていれば、そのブランディングに共感した人が集まってくる。企業側と就職希望者のミスマッチが減り、離職率を下げる効果も期待できる。
メリット5.組織文化が統一される
企業ブランディングを高めることは、組織文化の統一にもつながる。
末端の従業員やアルバイトにまで組織文化が浸透すれば、一体感のある強力な組織になることが多い。
また、強固な共通認識が形成されるので、組織としての発信や行動にブレがなくなる。
メリット6.資金調達しやすくなる
資金調達でも企業ブランディングが鍵を握る。
企業ブランディングが高まることによって、事業や理念への理解者や賛同者が増加し、資金調達をしやすくなる。
ベンチャー企業がエンジェル投資家から資金を集めたり、上場企業が広く一般投資家から株式を公募したりする場合、事業の成長性だけでなく理念を含めた企業ブランディングが重要だ。
企業ブランディングを進めるときの5ステップ
企業ブランディングの進め方を模索している方もいるだろう。企業ブランディングの進め方を解説していく。
ステップ1.現状把握
企業ブランディングを考える際、最初に取り組むべきことは現状の把握だ。自社が取り扱っている商品やサービス、対象顧客、流通経路、競合の動向、企業の全体像などを確認しよう。
ステークホルダーからの評価や市場でのポジションなどを客観的に把握することも重要だ。そのうえで押し出すべきことを絞り、企業ブランディングの方向性を決定しよう。
ステップ2.ブランド定義
現状把握を行うと、他社にはない自社の強みが見えてくる。その強みをベースにブランドの定義を決めていく。
ブランドの定義は、企業の存在価値や社会的意義を伝えるための軸となる。一時的な流行や経営者の趣味嗜好で決めてはいけない。老舗企業とベンチャー企業、地域密着企業などでアピールポイントが違う。自社の魅力を素直に打ち出すブランドを定義しよう。
ステップ3.戦略の立案
ブランドを定義したら、ブランド戦略を立案していく。
具体的には、ブランド名や製品パッケージ、webサイトなどを制作し、伝え方まで考える。ロゴやデザインについては、利用ガイドラインを定めておくのがおすすめだ。
ステップ4.運用
ブランド戦略が確立したら運用していく。
単に広告を打ったり、商品を販売したりするだけではない。経営者から末端の従業員まで、ブランド定義に沿った行動が求められる。
そのために経営者は、ブランド定義をわかりやすく頻繁に、全従業員に伝えていかなければならない。
ステップ5.検証
ブランド戦略の運用効果を検証する。
企業ブランディングは、ステークホルダーが共感して初めて成立する。したがって、発信した企業ブランドがステークホルダーに受け入れられたのか、アンケートや市場調査などで随時チェックしなければならない。
一般的に短期間の運用では、企業ブランディングの確立は難しい。粘り強く企業ブランドを根付かせていく気概が必要だ。
ユーザーのニーズは時代によって移り変わっていくため、定期的にアピール方法を変更していく必要もあるだろう。
企業ブランディングの事例3つ
実際に企業ブランディングの成功事例をみていこう。Appleやトヨタ自動車、スターバックスなど、主要会社の事例を紹介する。
事例1.Apple
iPhoneの開発で知られ、現代人の生活に深く浸透しているのがApple社だ。
Appleと聞くと、スタイリッシュなデザインで機能性や操作性が高いというイメージを持つ人が多いだろう。
Appleは徹底した消費者目線でユーザビリティにこだわり、シンプルで統一感のあるデザインをコンセプトに各製品を販売している。
この企業ブランディングがあるため、iPhoneやiPad、Apple Watchなどの各製品が広く親しまれているのだろう。
もちろん、新製品のクオリティも高い。Apple製品への期待が高まる好循環が生まれている。
事例2.トヨタ自動車
日本トップクラスの時価総額を誇るのがトヨタ自動車である。トヨタ自動車と聞くと「高品質」「常に改善している」「実質剛健」というイメージを持つのではないだろうか。
トヨタ自動車の自動車生産方式である「リーン生産方式」「JIT(ジャスト・イン・タイム)方式」は世界中で研究されている。最短時間の効率的な製造を目的とした生産管理システムだ。
長年にわたり改善を積み上げ、ステークホルダーに発信し続けることで、トヨタは日本が誇る製造業の第一人者として評価されるまでになった。
事例3.スターバックス
スターバックスも独特の企業ブランディングで成功した企業だ。オシャレで心地よい空間が浮かぶような企業ブランディングが構築され、多くのステークホルダーに受け入れられている。
コーヒーの提供がメイン事業ではあるが、家庭と職場に次ぐ第三の場所(Third Place)を提供するという理念も有名だ。
その理念は、店舗で働くアルバイトにまで浸透しており、企業全体のホスピタリティ向上につながっている。
企業ブランディングで業績を向上!
企業ブランディングを高めることでさまざまなメリットが得られ、結果として業績も良くなっていくと予想される。
ただし、企業ブランディングは一朝一夕で構築できるものではない。粘り強く継続して取り組みを進めていこう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)