グローバルに展開するプライベートバンクのお客様の投資特性には国や地域毎に大きな違いがある。その影響もあって毎月行われるプロダクト・チームのグローバル会議では「え? 貴国ではそんな感じなの?」といった議論がよく交わされた。何故なら、売れ筋となっている商品が全然違うからだ。

例えば、プライベートバンク発祥の地である欧州の主力商品は国際分散投資に対応した商品。決してパッシブ運用だけが持て囃されている訳ではなく、またバランス型投資信託でもない。主流は一任勘定型、でも手数料率は低い。ただ一件当たりの預かり資産規模が日本と比べるとゼロの数が1つ2つは確実に多い。香港やシンガポールなどのアジアでは超富裕層に華僑系の方が多いからか、実は驚くほどに荒っぽい商品が好まれていた。日本で流行りの「パッシブ運用で長期投資」という考え方はその180度反対側にあるかも知れない。例えばまず殆どの場合でレバレッジが掛かっている。すなわち「借入」がセットだということで、プライベートバンクはその与信能力が問われる。10億円の資金があれば、10億円借りて合計20億円としてポジションを作るのが普通で、短期決戦型が好まれていた。商品自体の手数料は安いが、金利収入と併せてプライベートバンクのビジネスとしては悪くない感じだった。米国で売れ筋の商品は欧州と似ていたが、筆者の知る限り手数料率は欧州よりも高かった。何故ならプライベートバンカー(以下、バンカー)の報酬が高いからだ。色々とお国柄があるもので、毎月のプロダクト・チームの会議は非常に楽しみなイベントでもあった。

「それでも日本ではお客様に利益は出るのか?」

仕組債,メリット
(画像=いおるな / pixta, ZUU online)

翻って日本はどう見られていたのか、というと、一言で言えば「非常に変わった興味深い存在」というのが日本代表を務めていた筆者の実感だった。まず手数料率についてだが、多少の濃淡はあるが総じてグローバル比較では高い。これは商品の収益性の話をする時に必ず他国のヘッドから質問されたからよく分かる。そこで類似商品について日本の業界水準の話をすると「You are so lucky!」などと揶揄され、「それでも日本ではお客様(超富裕層)に利益は出るのか?」といつも質問されたものだ。結局は手数料率に独自のキャップを強いられるのだが、キャンペーン目的以外で手数料率を引き下げたり、キャップをしたりする感覚は新鮮でもあった。

グローバルに会社として本来注力したい方向性は欧州で行われている投資スタイルの提供、すなわちお客様それぞれの投資特性に合わせた国際分散投資のポートフォリオ運用。それを一任勘定としてテーラーメイドでご提供する。バンカーの仕事はお客様への定期的な投資環境のアップデートと運用状況の説明がメインになる。手数料率は総じて高くなくても、預かり資産規模が大きければプライベートバンクとしての収益性にも問題はなく、何よりお客様との取引が安定的に長期間続けられるので、結果としてWin-Winの関係構築ができるという考え方だ。その推進が各国のプロダクト・ヘッドには求められるのだが、同時に収益責任も負っているので、各国の実情に合わせて上述のように違いが出るのはある意味では仕方がないことでもあった。

日本の超富裕層に「仕組債」が人気な訳

その中で日本特有の人気商品にいわゆる「仕組債」がある。筆者も投信会社の社長から転じてプライベートバンク・ビジネスに身を投じた当初は驚いたのだが、「日本の超富裕層向け人気の商品」の代表格は実は「仕組債」だ。ただ理屈で考えてみれば、日本で「超富裕層向けの資産運用」をアドバイスしようと思ったら、日本のプライベートバンクができることは仕組債がひとつの最適なソリューションであることも確かである。