携帯大手3社の現在と5年前の状況は、全く異なっていると言っていい。現在は各社ともに格安のオンライン専用プランを打ち出し、料金の安さが業績を圧迫し始めている。特に、NTTドコモは「ahamo」の滑り出しが好調なだけに、収入減の影響が大きい。
携帯電話業界への菅政権の圧力
まず、携帯電話業界の現状を簡単におさらいしておこう。
オンライン専用の格安プランを最初に打ち出したのはNTTドコモで、発表したのは2020年12月のことだった。NTTドコモがこの格安プランを打ち出した背景には、菅政権からの圧力があった。菅政権は重要政策の1つとして、携帯電話料金の値下げを掲げていたからだ。
はじめにNTTドコモがahamo(アハモ)を格安プランとして展開し、その後、ソフトバンクとKDDIもNTTドコモの動きに追随する。2021年2月、ソフトバンクが「LINEMO」(ラインモ)を、KDDIが「povo」(ポヴォ)をそれぞれ発表した。
いずれのサービスも2021年3月から提供が開始され、月間データ容量が20GBのプランを2,000円台の料金で利用できるようにした。
ユーザーにとっては喜ばしいが、携帯電話会社側は涙目
ちなみに、日本のスマートフォンの利用料金は、欧州と比べると高い水準となっていた。
総務省が2020年6月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」によれば、データ通信容量が月20GBのプランは、東京では月平均6,877円だったのに比べ、ロンドン(イギリス)では月平均2,700円、パリ(フランス)では月平均2,055円だ。
つまりユーザー目線で見ると、携帯大手3社がオンライン専用の格安プランを打ち出したことは非常に歓迎すべきことであると言える。一方で携帯電話会社から見れば、収益減となるため、決して喜べることではない。
例えば、月6,000円のプランを契約していたユーザーが月2,000円台のプランに変更したら、当然売上は減る。事実、3社ともこのようなことに懸念を示しているが、前述の通り、菅政権からの要請もあり、泣く泣く格安プランを打ち出さざるを得なかったのが実情だ。
最も厳しい状況にあるのが、ahamoが好調なNTTドコモ
要は、オンライン専用の格安プランへの切り替えが進めば進むほど、その携帯電話会社にとって傷が深くなる構図になっている。中でも、特に厳しい状況に陥っているのがNTTドコモだ。
3社のオンライン専用プランの現時点でのおおよその契約数を比較すると、NTTドコモのahamoが約180万契約、KDDIのpovoが約100万契約、ソフトバンクのLINEMOが50万契約未満となっている。
これらの数字は各社が最近明らかにしたもので、NTTドコモが突出して契約数が多いことが分かる。つまり、このことはNTTドコモがオンライン専用の格安プランで最もダメージを受けていることを示している。
NTTドコモは、ahamo展開による売上減を2,500億円以上と見積もっている。一方、ソフトバンクとKDDIのそれぞれの売上減は600億円程度にとどまるとみられる。「頼むからもうプランを乗り換えないでくれ…」。NTTドコモの経営陣の悲鳴が聞こえてくるようだ。
スマートライフ事業の拡大で売上減をカバーする狙い
このまま携帯電話事業の売上減の状況が続くと、NTTドコモの業績は先細りになるばかりである。しかし、同社の経営陣も黙っているわけではない。ahamo展開による売上減をカバーしようと、スマートライフ事業の拡大に本格的に乗り出し始めた。
NTTドコモのスマートライフ事業は、「コンテンツ・ライフスタイルサービス」と「金融・決済サービス」に分類され、それぞれ現時点で展開している事業は以下の通りだ。
コンテンツ・ライフスタイルサービス
・dTV
・dヒッツ
・dマガジン
・dショッピング
・dヘルスケア
など
金融・決済サービス
・dカード
・dカードGOLD
・iD
・d払い
・Fintech
など
中でも特に力を入れる計画なのが、映像配信サービスである「dTV」と、毎日の歩数がdポイントになる「dヘルスケア」のようだ。また、キャッシュレス化が進む中、「d払い」も今後の成長が大きく見込める。
ちなみに、2021年4~6月期における売上高は、9,041億円の通信事業に比べて、スマートライフ関連事業は2,655億円となっており、3分の1以下である。今後、スマートライフ関連事業の強化でこの差が縮まっていくのか、注目が集まりそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)