中国、「経済絶好調」は大ウソ? 苦悩にあえぐ中小企業の実態
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バイデン政権発足から7ヵ月が経過した現在、米中関係は改善の兆しが見えるどころか、世界を巻き込んだ「新冷戦」に発展しつつある。これまでの経過を振り返ると共に、今後の両国の関係とそれを取り巻く環境、日本の行く末にはどのような展開が予想されるのだろうか。

米、米中貿易政策見直しなど中国にさらなる圧力

トランプ政権下、貿易戦争という形で戦いの火蓋を切った米中対立は、中国企業の米市場締め出し、香港における民主化デモ、新彊ウイグル自治区におけるジェノサイド(大量虐殺)、台湾問題、南シナ海領有権問題など、何度も衝突を繰り返しつつ国際問題へと発展した。

就任以前から、トランプ政権の対中強硬姿勢を継承する意思を公にしていたバイデン大統領は、G7(Group of Seven/フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダで構成)やEU(欧州連合)に団結を呼びかけ、対中包囲網をより強化する方針を貫く構えだ。

2021年6月に開催されたG7首脳会談後には、人権問題やサプライチェーンの脱中国依存、新型コロナウイルス起源の追加調査などを盾に、一丸となって対中包囲網を強化する意向を表明した。

直近では8月下旬、カマラ・ハリス米副大統領が中国の近隣諸国に対する「虐待行為」を改めて批判した。5月に、ベトナムが領有権を主張するホアンサ諸島周辺地域を含む南シナ海において、中国が発令した漁獲禁止を巡り、「海事安全保障の強化など中国に圧力をかける必要がある」と主張した。

一方、米通商代表キャサリン・タイ氏は米国商工会議所中国センター諮問委員会および米中ビジネス評議会で、「米国の企業と労働者を弱体化させる、中国の不公正な貿易政策と非市場慣行に対処する」手段として、「米中貿易政策を包括的に見直している」ことを明らかにした。政治的緊張にも関わらず両国間の貿易は成長し続けているが、何らかの制裁措置を講じてくさびを打ち込む意図が見える。

CNNが入手した税関データによると、2021年1~7月にわたり、中国から米国への輸出量は前年同期から36.9%増加、輸入量は50.4%増加している。中国の対米貿易黒字は7月にさらに増え、354億2,000万ドル(約3兆 8,976億円)に達した。

米中対立、最大の焦点は「人権」と「台湾」問題

現時点で両国の対立を激化させている最大の焦点は、新彊ウイグル自治区におけるジェノサイドと台湾問題だろう。

イスラム教少数民族ウイグル族に対する強制労働や避妊・堕胎強制、国内に85ヵ所以上存在するとされる収容所での性的虐待など、中国新彊ウイグル自治区で繰り広げられている人権を無視した行為に、国際批判が高まっている。新彊ウイグル自治区で生産された製品の輸入を留保するなど米国はいち早く制裁措置を講じ、他国にも圧力をかけるよう呼びかけた。

これに並行して、中国からの正式な独立を望む台湾と『1つの中国』原則を曲げない中国の対立でも米国の介入が加速したことで、両国の関係はさらに緊迫した。米国はトランプ政権以降、台湾への武器売買を加速させており、軍事演習も実施している。米台は武装準備をあくまで中国からの防衛手段である点を主張しているが、中国がそれを無条件に受け入れて納得するわけがない。

台湾統一の手段として武力行使の可能性を否定しない中国と、中国の侵略から台湾を守る手段として武力行使の可能性を否定しない米国の間で、軍事衝突の危機が懸念される程に張り詰めている状況だ。

露、北朝鮮など「独裁国」と足場固める中国

中国は、米国が日本や欧州を取り込み一丸となって圧力をかけてくるやり方を「内政干渉」と見なし、即座に猛反発を開始した。

敵がスクラムを組んで自国を攻撃してくるのであればといわんばかりに、2021年3月、17カ国・地域が「国連憲章を守る友好グループ」を設立した。参加しているのはロシアや北朝鮮、ベネズエラ、パレスチナ、イランなど、いずれもジオポリティカル(地政学)問題を抱えている独裁色の濃い国ばかりだ。

内政不干渉や紛争の平和的解決などを尊重する姿勢を育み、「国連憲章の普及と有効性を維持、促進、擁護するよう努める」ことを設立の意図としている。トランプ政権時代の「アメリカ・ファースト」、バイデン政権の多国間主義政策への移行に共闘することが設立の真意だろう。

こうなると米VS中露という構図が嫌でも浮上するが、各国それぞれの思惑が複雑に絡み合っている事情を考慮すると、独裁色の濃い国同士が足並みを揃えることは容易ではないはずだ。しかし、対中政策で一枚岩になりきれていないのは、米国とそれを取り巻く国々も似たようなものだ。それぞれ貿易やビジネスの重要パートナーである中国と、真っ向から対決することに対するためらいが感じられる。

重い腰を上げた日本だが…

米中関係は日本にとっても他人事ではない。長年にわたり、中立の立場を維持してきた日本だが、米国からの圧力と国際世論に背中を押され、ついに重い腰を上げざるを得ない状況に追い込まれた。

4月に台湾問題に触れた「日米共同声明」が発表されるやいなや、中国は日本に警告を発した。日米共同声明に台湾問題が盛り込まれるのは、日中国交正常化(1972年)以来約50年 ぶりだったことから、日本の「決意」はなおさら注目を集めた。

日本の動きを受け、中国は日本が米国に加担して「内政干渉」を継続した場合、「必要なすべての措置をとる」とけん制した。「措置」とは「米中台間の武力行使の巻き添えになることを意味するのではないか」と懸念されている反面、「各国の利害関係を考慮すると軍事衝突が現実となる可能性は低い」との見方もある。

日本としては地理的にも近接しており、重要な貿易・ビジネス相手国である中国の逆鱗に触れるのは極力避けたいというのが本音だろう。米国に賛同してはいるものの、率先して対中に圧力をかけるといった行為は控えつつ、米中の動きを見守るという姿勢ではないだろうか。

米中新冷戦がさらなる混乱と分断を世界にもたらす?

中国外務省は8月、「米国が地域問題に干渉し、(世界)平和を崩壊させた」と憤りを露わにし、「多国間主義の名の下で形成された一方的な“疑似多国間主義”、世界的に認められた国際法に取って代わるためにいくつかの国が策定した“規則”、およびあらゆる形態の“新しい冷戦”とイデオロギーの対立に断固として反対する」と改めて宣言した。宣戦布告である。

コロナ禍で混乱に陥った世界は、米中新冷戦を巡りさらなる混乱と分断に見舞われるのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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