本記事は、尾原和啓氏、宮田裕章氏、山口周氏の著書『DX進化論 つながりがリブートされた世界の先』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

幸福
(画像=PIXTA)

トランスフォームで生き抜く未来とは

私たちの暮らしが大きく変わるにつれて、これから先の、未来を占う指標の1つと言えるのが、「トランスフォームで生き抜いていく」ことです。その場合のトランスフォームには、多様な要素を含みます。

事実、コロナ禍がもたらした社会的・環境的な変化と、テクノロジーがもたらした個人的・文化的な変革によって、「移住と観光」という、物理的な場所としてのトランスフォームがこれからの生き方を象徴する大きなキーワードとなっています。

私自身、いろいろな地域、プロジェクトに関わっています。言わば、「大阪の宮田」「静岡の宮田」「新潟の宮田」という感じでしょうか。しかも、そのいずれの出身でもないことに現代社会の実像を見ることができます。

ただ私にとっては、どの場所でのどんな活動にも、できる限り精一杯かかわりたいと考えています。それは「本業か副業か」のような議論にも似ているのですが、どちらがどちらというより、相乗効果のような、相互に意味を持つ〝つながり〟があると思われるからです。

この場合のつながりには、当然ながら人と人とのつながりも含まれます。テクノロジーの進化と普及によって加速する、多様な関わりと多層型ネットワークの中において、私が重要だと考えるのは、取りこぼされてしまった人や立場の弱い人にどう寄り添うか、ということです。

私の著書『データ立国論』でも言及していますが、これから始まる「データ共鳴社会(データによって可視化された多元的価値によって、人々が響き合いながらともに構成する社会)」では、貨幣という一元的な価値ではなく、信用や環境への貢献度などの共有価値が1つの基準となります。

それはすなわち、経済合理性という単一の軸から抜け出し、ひとりひとりの「何を大切にするか」という、多元的な豊かさを社会の中で作り上げていくことに他なりません。それは、個々人がどのような価値に貢献するのかを主体的に選択する社会でもあります。

もちろん、自分で選択できることによって、いわゆる「強者の論理」になってしまうことも懸念されるという側面はあります。自己責任や個人主義などの背景に、「強者は弱者を支配してもいい」「生まれや育ちによる差を認めない」という発想があるとすれば、たとえ自分で選択できたとしても、ひとりひとりに寄り添う社会とは言えないでしょう。

だからこそ、データによって多様な価値を可視化し、その可視化された価値を追い求める個々人に対応するかたちで、社会システムを構築していく必要があります。データやAIの利点は、平均値や多数決ではなく、まさに個々人の特徴を把握したうえで必要なサービスや体験を届けられることにあるのです。

その先にあるのが、これまでの社会が目指してきた「最大多数の最大幸福」ではなく、新しい価値観としての「最大〝多様〟の最大幸福」です。それはまさしく、ひとりひとりに寄り添うサービスを提供することが重要と考える社会のあり方と言えるでしょう。

貨幣以外の多様な価値を可視化し、それによって社会を駆動すること。ひとりひとりの多様なニーズを把握し、満たしていくこと。こうした考え方を踏まえて、医療から環境、教育など、経済以外の分野も含む社会課題の解決につなげていくことが求められています。

DXの本質から考えると、「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉の意味からも想像されるように、デジタルの力で変化・変革を実現する、というのがその本旨となります。当然そこには、「より良く変わっていく」という意味も含まれているでしょう。

DXという言葉の発祥は2004年とされていますが、その言葉を提唱したスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授は、「ICTの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という意味を提示しています。

また日本においては、経済産業省がまとめたガイドラインにて、次(※)のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

このような定義は企業経営やビジネスに偏っている向きもありますが、個々人の生き方や働き方にまで解釈を広げると、データやデジタル技術の活用によって多元的な価値観を後押しし、より多面的な豊かさを享受できる、まさにトランスフォームで生き抜いていく未来が見えてきます。

こうした発想は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の先にある、未来の姿を示しています。

2016年から2030年の国際目標として掲げられているSDGsは、各国政府が地球の持続可能性について説明責任を負うことに加えて、経済活動を行っている各企業にも、同様の説明責任を求めています。

SDGsは途上国も含めた世界全体の開発目標であるため、「いのちを消さない」ことを最優先の目標として掲げています。そのため、内容的には踏み込んでいるものの、日本を含む先進国はさらに「いのち輝く」という視点にまで追求するべきです。

そこで、ポストSDGsとして私が提案したいのが「持続可能な共有価値(Sustainable Shared Values)」です。そこには、SDGsが目指す目標に加え、「生きがいを支える健康」や「楽しさの先にある健康」なども含まれています。

私たちがテクノロジーによって実現するべきなのは、強者の論理によって物事が決まり、進められていくのではなく、多様な価値観が尊重され、個々人が自分で暮らしを選択していける未来の社会です。

そしてその傍らには、その人が何を大事にしているかに、寄り添いながら支えているコミュニティ、つまり〝つながり〟があるのです。それがあってはじめて、理想的な連関性を生みながら、持続可能な社会が形成されていくはずです。

では、インターネットを中心とした仮想空間が広がり続ける中、つながりにまつわる、どのような新しいムーブメントがあるのでしょうか。また、トランスフォームで生き抜く未来とは、どのようなコミュニティによって成り立ち、そこではどのようなコミュニケーションが行われているのでしょうか。

(※) 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドラインVer.1.0)」2018年12月

DX進化論
尾原 和啓
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート(2回)、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。著書に『アフターデジタル』(共著、日経BP)、『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎 NewsPicks book)、『プロセスエコノミー』(幻冬舎)など多数。山口周氏との共著に『仮想空間シフト』(MdN新書)がある。
宮田 裕章
1978 年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。専門はデータサイエンス、科学方法論。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。2015年より現職。専門医制度と連携した NCD、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーのほか、厚生労働省 保健医療2035 策定懇談会構成員、厚生労働省 データヘルス改革推進本部アドバイザリーボードメンバーなど。著書に『共鳴する未来』(河出新書)、『データ立国論』(PHP 新書)がある。
山口 周
1970 年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリーヘイグループ等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発に従事。現在、株式会社ライプニッツ代表、株式会社中川政七商店、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』(光文社新書)でビジネス書大賞 2018 準大賞、HRアワード2018 最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『自由になるための技術』 リベラルアーツ(講談社)などがある。

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