本記事は、尾原和啓氏、宮田裕章氏、山口周氏の著書『DX進化論 つながりがリブートされた世界の先』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

可能性
(画像=PIXTA)

人が人らしく暮らすために、本当に必要なことは何か

人が人らしく暮らしていくために、本当に必要なことは何か。世の中が大きく変革していく今、世界が向かっていく先を見据えながら、私たちは、改めてそのことについて考えていく必要があります。

簡略化して述べると、かつて社会は、いわゆる「王権神授説」からはじまり、価値観および利害の相違と反乱や戦争を含む歴史を経て、ようやくお互いの契約によって権利と義務を作ることができました。

こうして近代国家が成立し、その中で国家の役割も規定されてきたのですが、テクノロジーの進化に比例してきたわけではなく、むしろ物理空間に依存するかたちで存在しているのが実情です。そこでは、テクノロジーの進化が十分に反映されていません。

つまり、私たちを取り巻く国家や社会制度というものは、生まれた場所や住んでいる地域に紐づいて存在してきたと言えます。その実相は、インターネットがもたらした仮想空間が多大な広がりを見せてからも、大きくは変わっていないのです。

他方で、尾原さんと山口さんの共著『仮想空間シフト』でも述べられているように、さまざまなレイヤーを、それこそバーチャルを使いながら、多様なものとして選ぶことができるような環境も存在しはじめています。

そのように考えると、私たちは国家が用意したセットメニューだけを選ぶのではなく、「自分は社会に対してどう影響力を行使するのか」「自分はどのようなことにどれだけのお金を使うのか」などについて、多様な価値観を軸に自ら選択していくべきではないでしょうか。

一方で、データやテクノロジーを活用することによって多様な価値観のもとに自ら選択していける社会では、データの扱い方が課題になります。個々人のデータがどう監視され、どのように活用されるのかを、社会全体で問わなければならないためです。

そのときに問題となるのが、データ・ガバナンスです。とくにコロナ禍の状況において考えてみると、中国、台湾、香港、韓国などは、携帯電話のGPSを活用して位置情報を取得し、感染経路を追跡しています。

ただ台湾では、専門家や関係者が、導入プロセスやその目的を国民に対して丁寧に説明していたのに対し、中国や韓国ではかなり強権的にデータ運用を進めています。他方でシンガポールでは、感染者との接触機会を検出する「コンタクトトレーシング(接触追跡)」のアプリを活用したものの、ユーザー同士の積極記録を保存し、感染者にそれを提出してもらう仕組みであったため、普及する前に感染が拡大しています。

このようなデータ・ガバナンスと民主主義のあり方に、正解はありません。日本のように、十分な議論を経ないままAPIを採用している国もあります。さらに、国境を越えたデータ活用をふまえると、データ・ガバナンスの問題はさらに複雑化していきます。

そこで必要になるのが、私も携わっている、国とも一般企業とも違う「データコモンズ」のような機関です。コモンズによって、国家や巨大プラットフォーマーとは異なる場所からデータを利活用するという発想です。

そのような機関を活用することによって、個人のウェルビーイングや社会課題に対応するオプションが増えていきます。言うなれば、多様な機関や組織、プレイヤーたちが多層的に問題解決にあたり、人々の多様な生き方を支援するアプローチが可能となるのです。

当然のことながら、場合によっては国やプラットフォーマー、あるいはコモンズにも一切データを置かないことも許容されるべきです。その結果として、新型コロナウイルスのような感染症であれば移動制限なども受けることになるのでしょうが、それも1つの選択であり、社会契約の一種です。

個々人の選択が社会や世界に影響し、それが自分にも跳ね返ってくる。そこには、意識的な選択だけでなく、無意識の選択も含まれます。

事実、資産寿命を延ばすために何をすればいいのかを検討し、たとえ自分が認知症になったとしても自分の投資行動、つまり「どういうところに、どれだけのお金を使いたいか」をAIが学習した上で、資産寿命を延ばす仕組みづくりなども行われています。

それはすなわち、人間の認知機能をAIが代替することにほかなりませんが、それだけでなく、判断できるところは自分でしてそうでないところはAIに任せるなど、これまで無意識の中で絡め取られていた部分を可視化し、調整することも可能となっているのです。

そこから想像されるのは、データによって可視化されてこなかったものを可視化しながら調整する中において、相互に影響を及ぼし合い、状況に応じてAIやエージェントを使うことを前提とした、進化した民主主義。そしてその可能性です。

それは私が描くデータ共鳴社会にもつながるのですが、一方で、データによって「人が人らしく暮らす」と言うと、データによる監視社会を想像する人もいるでしょう。たしかに中国の「社会信用スコア」などは、政府主導のデータ運用として危惧されています。

他方でこうも考えられます。個人の権利を尊重したかたちでトラストのあるデータ運用が、イデオロギーの壁を超えて議論されているのだ、と。それは日本の場合、民主主義を軸にしながら資本主義をアップグレードする試みと言えるかもしれません。

その先にあるのは、言わば「多層型民主主義」のようなものでしょうか。

つまり、個人とコミュニティ、あるいは個人と社会とが、相互に作用しながらダイナミックな共同性を生み出しています。そこでは、一定のものではなく、公・共・私の掛け合わせによる多元的な社会契約が基本となります。

DX進化論
尾原 和啓
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート(2回)、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。著書に『アフターデジタル』(共著、日経BP)、『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎 NewsPicks book)、『プロセスエコノミー』(幻冬舎)など多数。山口周氏との共著に『仮想空間シフト』(MdN新書)がある。
宮田 裕章
1978 年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。専門はデータサイエンス、科学方法論。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。2015年より現職。専門医制度と連携した NCD、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーのほか、厚生労働省 保健医療2035 策定懇談会構成員、厚生労働省 データヘルス改革推進本部アドバイザリーボードメンバーなど。著書に『共鳴する未来』(河出新書)、『データ立国論』(PHP 新書)がある。
山口 周
1970 年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリーヘイグループ等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発に従事。現在、株式会社ライプニッツ代表、株式会社中川政七商店、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』(光文社新書)でビジネス書大賞 2018 準大賞、HRアワード2018 最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『自由になるための技術』 リベラルアーツ(講談社)などがある。

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