サラリーマン社長に大きな期待ができない理由とは?メリットとリスクも解説
(画像=琢也栂/stock.adobe.com)

「サラリーマン社長には大きな業績拡大の期待ができない」という声がある。もちろん、サラリーマン社長のなかにも優秀な人はいるだろうが、なぜ、このような声があがってしまうのだろか。

そこで今回は、サラリーマン社長の特徴や、サラリーマン社長に大きな期待ができない理由、サラリーマン社長のメリットとリスクなどについて解説していく。

目次

  1. サラリーマン社長とは何か
  2. サラリーマン社長に大きな期待ができない3つの理由
    1. 1.「自分の任期をつつがなく過ごせば良い」という意識が働きやすい
    2. 2.サラリーマン社長は問題を先送りしやすい
    3. 3.サラリーマン社長は短期志向になりやすい
  3. サラリーマン社長のメリットとは?
  4. サラリーマン社長のリスクとは?
  5. 「企業の中期的な成長」と「自身の経済的利益」が一致していないことが問題

サラリーマン社長とは何か

「サラリーマン社長」とは、一言で言うとその名の通り、雇われた社長のことだ。

具体的には、会社の経営権を持っておらず、オーナーではない、もしくは創業家一族出身ではない社長を指すことが多い。

株式会社においては、発行株数の何パーセントを保有しているかによって、「どれくらい強く会社の経営権を持っているか」が決まる。原則として、発行株数(議決権数)の過半数(51パーセント以上)を保有すれば、他の株主に過半数を握られることがないため、株主総会における普通決議を単独で成立させることができ、その会社を支配できていると言える。

議決権数の3分の2(67%以上)にあたる株数を確保すれば、より重要な問題を株主総会で決議する特別決議を単独で成立させることができるため、より会社支配が強固なものになる。もちろん、議決権数の100%を保有すれば何の問題も生じない。

サラリーマン社長の保有株式数は、議決権数の51%にはるかに届かない数であることが多く、それゆえに会社の経営権を持っていないことが一般的だ。しかし、特に上場会社の場合、創業家一族出身の社長であっても、議決権数の51%を保有していないことは多い。

例えば、日本最大の時価総額を誇るトヨタ自動車の社長は、創業家一族の豊田章男(とよだ あきお)氏だが、トヨタ自動車の大株主欄トップ10を見ると、少なくとも同氏の個人名は見当たらない。同氏ほどの超富裕層ともなれば、さまざまな形で株式を保有していることも予想されるが、少なくとも51%は保有していないであろう。

サラリーマン社長に大きな期待ができない3つの理由

一般的に「サラリーマン社長には大きな業績拡大の期待ができない」という声が多い。言い換えれば、会社の経営権を保有しているオーナー社長や、創業家一族出身社長のほうが、業績拡大の期待ができるのはなぜだろうか。

あくまで一般論にはなるが、以下のような理由が考えられる。

1.「自分の任期をつつがなく過ごせば良い」という意識が働きやすい

サラリーマン社長の場合、「自分の任期をつつがなく過ごせば良い」という意識が働きやすい。これに関しては、サラリーマン社長とオーナー社長の経済的利益の違いについて理解する必要がある。

前述のように、サラリーマン社長は自社株をあまり保有していないことが一般的だ。一方、オーナー社長は当然ながら、多くの自社株を保有している。そして、業績を拡大させれば、基本的には自社株の価値は増大する。つまり、身を粉にして企業経営に取り組み、業績拡大を導いた先にある「自社株の価値増大による経済的利益」は、サラリーマン社長より、オーナー社長のほうが圧倒的に大きいということだ。

現実的には稀ではあるものの、極端に言えば、自社株を1株も保有していない者がサラリーマン社長に就任する可能性もある。この場合、業績拡大に邁進してもサラリーマン社長に経済的利益は発生せず、それならば「可もなく不可もなく、つつがなく任期を全うして、役員報酬と退職金を受け取り、再就職先を探したほうが良い」となりかねない。

会社の支配権を持っていない創業家一族出身社長であっても、サラリーマン社長に比べると多くの自社株の保有していることが一般的だ。創業家一族出身という立場を鑑みても、オーナー社長に近いマインドを持っていると言えるだろう。

上記のような事態を防ぐため、ストックオプション制度などを用意して、「企業の中期的な成長」と「サラリーマン社長の経済的利益」の方向を一致させようと努力する会社もある。しかし、オーナー社長と同じマインドを持つこと(持たせること)はかなり難しいと言える。

なお、ソフトバンクはこのような問題を解決しようと、サラリーマン社長である宮川潤一氏に「ソフトバンク株200億円分の購入資金」を貸し付けることを決めた。宮川氏は公式プレスリリースにて「私個人として当社株式を保有することで、事業環境がいかに変化しようとも乗り越えていくという決意と、当社事業の成長を望む強い気持ちをステークホルダーの皆さまと共有したいと思っています」と発表した。

これにより、同氏のソフトバンク株保有割合は従来の0.01%から0.30%へ増加するという。ソフトバンク自体が巨大な時価総額を誇る上場会社であるため、200億円の買付であっても保有割合がそれほど増えるわけではないが、「企業の中期的な成長」と「サラリーマン社長の経済的利益」の方向を一致させようとする試みの実例と言えるだろう。

2.サラリーマン社長は問題を先送りしやすい

上記とも関連しているが、サラリーマン社長は問題を先送りしやすい。自分の任期を無事に過ごせば良いという意識が働きやすいため、経営課題や経営改革に対して果敢にチャレンジし、失敗して評価を落とすよりも、安全策を採用して「そこそこの結果」を求めにいきやすいということだ。

その結果、間違った選択をしているとは言えないかもしれないが、経営課題や経営改革に対する抜本的な対策が取られないまま、次の社長にバトンタッチすることになり、問題が先送りされてしまう。バトンを受けた社長もサラリーマン社長であれば、同様のことが発生し、再び次の社長が就任するまで問題が先送りされる可能性がある。

このように、サラリーマン社長が続く企業は、問題が先送りされやすく、結果として中長期的な企業価値が損なわれる可能性がある。

3.サラリーマン社長は短期志向になりやすい

一般的に、サラリーマン社長はオーナー社長に比べて任期が短く、数年で交代し続けることも少なくない。前述のように、サラリーマン社長は保身に走りやすいため、自分の任期後に花開く施策は打ちづらく、短期志向になりやすい。

例えば、10年後に花開く予定の事業への先行投資を行う場合、あと1年で交代予定のサラリーマン社長と、10年後も経営を続けているつもりのオーナー社長では、先行投資への熱意や判断そのものが大きく変わってくるはずだ。先行投資を行うということは、一時的には業績が悪化する可能性が高い。

あと1年で交代予定のサラリーマン社長であれば、「自分の退任時期に悪い業績を出すことは避けたい。設備投資で業績悪化を招くなら、むしろ事業の選択と集中で効率化を図り、業績を押し上げたい」と思うことだろう。サラリーマン社長は10年先の未来よりも1年先の未来を重視しやすい、つまり短期志向になりやすいというわけだ。

サラリーマン社長のメリットとは?

それでは、サラリーマン社長のメリットはどのようなことが挙げられるのだろうか。ここでいうメリットとは、サラリーマン社長から見たメリットのことを指す。例えば、以下のようなことが挙げられる。

まずは、自社株の保有比率が低いため、オーナー社長に比べて、業績悪化や倒産したときに自分の資産が影響を被る可能性が低いということだ。業績悪化を招いても、ペナルティとして自分の貯金を没収されることはない。ただし、社長在任時に業績悪化や倒産を招いてしまうと、自身の評判に傷が付き、いわゆる人的資産は毀損してしまうことだろう。

また、サラリーマン社長は在任時に結果を出せば、さらに良い条件でヘッドハンティングされる可能性がある。これはオーナー社長にはほとんど起こり得ない、サラリーマン社長ならではのメリットだろう。サラリーマン社長のなかには、複数の会社を社長として渡り歩く、いわゆる「プロ経営者」と呼ばれる人もいる。

サラリーマン社長のリスクとは?

それでは、サラリーマン社長のリスクはどのようなことが挙げられるのだろうか。

まずは、会社の経営権を保有していないため、株主の動向次第では任期満了を待たずに解任される可能性がある。一般的に、業績を向上させている社長は株主からの人気が高く、解任される可能性は低いと言えるが、業績を悪化させてしまった際は、解任される可能性が高まると言えるだろう。

また、会社の経営権を保有していないことから、自分で収入を決められないということもデメリットだ。そのため、責任と収入が見合ってないという状況に陥る可能性も否定できない。なお、会社規模が大きくなれば、ガバナンス体制も強化されるため、オーナー社長であっても自分の好きなように収入を決めることができるというわけではない。

「企業の中期的な成長」と「自身の経済的利益」が一致していないことが問題

ここまで、サラリーマン社長とは何か、サラリーマン社長に大きな期待ができない理由、サラリーマン社長のメリットとリスクなどについて解説してきた。

「サラリーマン社長」とは雇われた社長のことであり、オーナー社長や創業家一族出身社長に比べ、自社株の保有比率が低いことが多い。そのため、「企業の中期的な成長」と「自身の経済的利益」が一致していないことが多く、問題を先送りしやすく、短期志向になる傾向だ。

中小企業経営者においては、ほとんどがオーナー社長であろうが、外部から経営者を招く際は、できる限り「企業の中期的な成長」と「その人の経済的利益」を一致させる施策を用意し、気持ちよく活躍してもらうことが重要だ。

文・菅野

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