真鍋淑郎氏が2021年のノーベル物理学賞を受賞したことで、日本国籍者のノーベル受賞者は合計28人となった。総合分野の受賞者数世界7位の快挙である。
一方、国際舞台で他国と対等に張り合えるだけの科学技術力を有しているはずの韓国は、歴代の受賞者がわずか1人と極端に少なく、国内でもその原因を特定する動きが見られる。韓国がノーベル賞受賞者を輩出できないのは一体なぜなのか。
ノーベル賞大国 トップ10
ノーベル賞は、文学や生理学、平和、物理学、化学、経済科学などの分野において、人類への卓越した貢献が認められた人物に贈られる名誉高き賞だ。1901年から2021年10月7日現在までに、受賞者数が圧倒的に多いのは米国で日本の13.5倍を誇る。
技術力、論文、予算 いずれも高水準の韓国
韓国からノーベル賞受賞者が生まれない原因については、これまで繰り返し議論されてきた。唯一の受賞者は2000年に南北首脳会議を初めて実現させた功績を讃えられ、平和賞を受賞した金大中(キム・デジュン)元大統領だけだ。科学技術や医学、文学などのアカデミックな分野における受賞者はいない。
2020年は、韓国研究財団が独自の分析に基づいて十数人の候補者を絞り込むなど期待が高まったものの、実際の受賞者はゼロと惨敗した。2021年はノミネートすらされなかった。
韓国の科学技術や学術の水準は決して低くない。学術論文の引用数などを評価した「SCImagoジャーナルランキング」では世界13位、世界経済フォーラムの「科学技術競争力ランキング」では世界6位など高水準を維持している。
研究予算が少ないわけでもない。キム・チャンジュン米韓財団のジェイ・キム会長は2015年のコリアンタイムス紙の寄稿の中で、研究開発予算の規模では世界1、2位の米中に勝てないが、GDPに対する研究開発予算の比率は4%と、米国のほぼ2倍に匹敵していた点を指摘している。
また、コロナ禍の2020年に国内の大手企業100社が研究開発に投じた費用は総額49兆ウォン(約4兆5,872億円)以上と、過去最高を記録している。政府と企業による研究投資は、OECD(経済協力開発機構)加盟国中5位の89兆ウォン(約8兆3,315億円)にのぼる。
アジア圏の受賞者数が全体を占める割合が欧米と比べて圧倒的に少ないという事実を考慮しても、これらのデータを見る限り何とも腑に落ちない状況だ。ちなみに、日本に次いでアジア2位のノーベル賞大国、中国は12人、3位のインドは9人を輩出している。
専門家が指摘する「ノーベル賞をとれない原因」
それではなぜ、韓国はこれほどまでにノーベル賞と縁遠いのか。
韓国科学技術院のキム・ウォンジュン教授は、「ノーベル賞関連の科学技術インフラが脆弱である」ことを、直接的な原因に挙げている。
具体的には、「学者が自由に研究できる環境が整っていない」「失敗を意に介さず忍耐強く研究するファンディング制度が不十分」「誰も挑戦しようとしない研究分野への投資や基礎科学に対して、十分な投資が確保されていない」などだ。他にも、研究員一人当りの研究開発費が先進国の水準より低く、多様性が重視されているにも関わらず、女性研究員が占める割合が低い点なども指摘されている。
この点に関しては、前述のキム会長も過去に指摘している。同会長いわく、韓国政府の関心は短期的な研究成果にのみ集中しており、3年間に成果が見られない場合は予算が削減されたりプロジェクトが解散したりするという。
要するに、ノーベル賞大国と比べると研究や学術を極めるための基盤が整備されておらず、冒険心や多様性、忍耐力などイノベーションに必須の要素に欠けるといったところだろうか。
中国に追い抜かされた日本も油断大敵?
とはいうものの、アジア圏トップである日本も、最近は学術論文の数・質、研究予算ともに中国に追い抜かされるなど、足元が揺らいでいる状況だ。科学技術政策の実態に詳しい一部の関係者からは、「今後はノーベル賞を期待できない」といった悲観的な嘆きも出ている。
文部科学省科学技術・学術政策研究所が、主要国の科学技術に関する活動をさまざまな角度から分析・評価した報告書「科学技術指標」では、年々影響力に陰りが見られる。1997~98年のランキングでは論文数が2位、論文の質が4位だったのに対し、2021年版ではそれぞれ4位、10位と過去最低の順位に後退した。論文の質は、以前は圏外だったインドにも追い抜かれた。
国の研究予算が横ばいである上に、バブル崩壊以降は多数の民間企業が研究投資から撤退するなど、存在感を増す中国とは対照的だ。
課題クリアがノーベル賞への近道?
韓国にとって大きな期待材料の一つは、研究投資が拡大している点だろう。研究投資が渇枯している環境では、ノーベル賞受賞に重要な要素であるイノベーションは生まれにくい。時間をかけて自国が抱える課題を一つ一つクリアしていくことが、未来のノーベル賞大国への唯一の近道なのかもしれない。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)