本記事は、山本敏行氏、戸村光氏の著書『投資家と起業家』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
シリコンバレーでエンジェル投資が盛んな理由
第2のシリコンバレーが生まれない理由
シリコンバレーにいたときは日本から政府関係者、大企業、スタートアップ、学生などが毎日のように来ていました。たとえばとある不動産会社は自分たちが所有している不動産をシリコンバレーのようにしたいと相談にきました。
しかし、「シリコンバレーをつくる」と言ってお金や場所を用意したとしても、実際はなかなか難しいのです。シリコンバレーにはシリコンバレーが生まれた背景があります。
政策面でいうと、今やスタートアップ支援はどこの国でもやっています。移民による多様性という視点で見ても、アメリカ以外にも移民の多い国はたくさんあります。人口の面で見ても、シリコンバレーの人口はたかだか300万人。シリコンバレーがスタートアップが集まる今のシリコンバレーになったのは、政策でも移民でも人口でもないのです。
シリコンバレーには一発屋のDNAがあるそうです。
きっかけはゴールドラッシュです。ご存じの通り、今までまったく出なかったところである日金脈が発見されたことで、ゴールドラッシュは始まりました。
ゴールドラッシュのニュースは全米だけでなく世界中に広がり、世界中から多くの人々がサンフランシスコでの一攫千金を目指して移住してきました。ゴールドラッシュが始まる前の1848年当時、サンフランシスコの人口は600人しかいなかったとする説があります。600人というと、ひとつの学校くらいの規模です。そのサンフランシスコにゴールドラッシュで一気に人が移住してきて、翌年には人口が2万5000人になりました。ゴールドラッシュから3年後には4万人にまで増えたのです。
移住してきたのは、ゴールドラッシュのニュースを知って移住してくるくらい一発屋のマインドを持った人たちです。つまり、当時のサンフランシスコの人口比率でいうと、98%の人が一発屋のマインドを持っていたという非常に特殊性がある土地なのです。
投資家とメンターの層の厚みが違う
そこからシリコンバレーが生まれ、スタートアップ、IPO・M&A、エンジェル投資というような流れが生まれたのも、数世代にわたり脈々とそういう血が受け継がれてきたからです。
現在のシリコンバレーはある意味スタートアップのゴールドラッシュのような場所になっており、世界中からシリコンバレーへ、一攫千金を狙って起業家が集まってきています。近年日本でも会社をエグジットさせた人がエンジェル投資を始めるようになりましたが、シリコンバレーは3、4世代も前から積極的に行われていて、投資家やメンターの厚い層があります。
それだけでなく、過去にエグジットを経験した年配の方もエンジェル投資をしていますが、目的はリターンを得ることだけではありません。自分の余暇を使って若い世代を支援したいという動機もあるのです。
そのような環境なので、シリコンバレーでは「こんな経験がある人はいないかな?」「こんな専門家はいないかな?」「こんなことをやっている人はいないかな?」と探すと、すぐに見つかります。
良い案件はトップ10%の投資家に集中する
日本でもシリコンバレーでも、トップ10%の投資家に良い案件が集中しています。
Y Combinator(*)という世界最高のアクセラレーター(スタートアップ養成所)があります。そこでは3カ月かけて起業家にスタートアップのイロハを教えて、3カ月後には「デモデイ」と呼ばれる選ばれた投資家、100人から200人だけが参加するピッチイベントを開催しています。YCombinatorのデモデイに参加したトップ投資家から資金調達すると、その後の資金調達がしやすくなる傾向にあります。
*Y Combinator:アメリカのカリフォルニア州にあるシード・アクセラレーターで、主にスタートアップに投資し、起業家育成プログラムを提供している。
シリコンバレーの事例と同様に、日本でも起業家は著名なエンジェル投資家やVCから調達したいと思っています。だから、投資を検討しているエンジェル投資家・VCがどのような企業の出身か、誰の紹介かといった周りの評判を参考にして投資を受けるかどうか判断しています。
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