本記事は、山本敏行氏、戸村光氏の著書『投資家と起業家』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
「パワーエンジェル投資家」が日本再生の鍵
●シードVCのスタートアップ支援が難しい背景
投資を受けるならエンジェル投資家からではなく、プロダクトの構想段階やプロトタイプ[※11]ができた段階(シード期)のスタートアップに投資するシードVCから受ければいいのでは、と思うかもしれません。もちろんそのような選択肢もありますが、支援を受けたい場合、シードVCは必ずしもよい選択とは言えません。VCというビジネスモデルには構造上の課題があり、スタートアップのシード期の支援は難しいからです(工夫をして、しっかりスタートアップを支援しているシードVCもあります)。
[※11]プロトタイプ ビジネスアイデアを検証するためにつくる試作品のこと。
シードVCは、事業会社や個人から出資を受けて、5〜10億円のファンドを組成します。そのファンドからスタートアップに投資して、エグジットしたときに売却した株のリターンを得るというモデルです。しかし、一般的にはスタートアップに投資してからエグジットまで、5〜10年かかります。その間のVCの運営費用は、ファンドに出資している事業会社や個人から支払われる管理報酬からまかなわなければいけません。管理報酬の額はファンドによって多少異なりますが、ファンドサイズ×2%程度というのが一般的です。5億円のファンドならば、その2%は年間1000万円です。1年目はその1000万円からVC運営にかかる費用(たとえば、ウェブサイト制作費やオフィスの家賃、スタッフの人件費など)を捻出する必要があります。
その結果どうなるかというと、1号目のファンドで早々に20社ほどに投資し終え、2号目はファンドサイズを大きくして、1号+2号と管理報酬を積み上げることで収益を増やしていかなければいけない構造になっているのです。
また、シード期のスタートアップはプロダクトがまだ完成していなかったり、起業家も未熟だったりして支援するには工数がかかります。VCは10社に1社ホームラン(IPO)が出たらリターンが出せるので、有望な起業家に1000万円前後をポンポン投資して青田買いします。そうすると、支援先はどんどん増えていくので、すべての起業家に対して手厚いサポートはできないのです。
●「パワーエンジェル投資家」の定義
スタートアップを格闘技にたとえると、総合格闘技です。総合格闘技の試合ではボクシングだけが強くても、投げ技や関節技をかけられたら一瞬で負けてしまいます。それと同じで、スタートアップが成功するには次のすべてができている必要があります。何かひとつ欠けるだけで死んでしまうのです。
◉経営者のビジョン ◉ビジネスアイデア ◉チーム ◉デザイン ◉プロダクト開発力 ◉マーケティング ◉ブランディング ◉マネジメント ◉ファイナンス ◉プライシング ◉タイミング
ビジネスチャットツールであるChatworkの前に開発していたプロダクトはとてもよいコンセプトでニーズもありました。しかし、Googleに対抗するサービスだったので、プライシング(価格設定)をGoogleの基準に合わせたところ、課金するユーザーがほとんどおらず、2年間かけてつくったサービスを閉鎖するしかありませんでした。
このように、プライシングひとつでサービスが死んでしまうのです。投資家がお金を与えて「あとは頑張ってね」でエグジットまで到達する起業家がポンポン出てくるはずがありません。
エンジェル投資家はお金を入れるだけでなく、知識面などでも起業家の足りない部分をフォローする必要があります。スタートアップ業界は多産多死モデルになっていますが、適切な支援があれば死なずに済む企業は多いのです。つまり、エンジェル投資家が支援すれば、起業家の成功確率は上がるのです。
そこで、「資金+人的ネットワーク+ビジネス経験を提供でき、投資先を次のステージへとあと押しできるエンジェル投資家」を、本書では「パワーエンジェル投資家」と定義します。
エンジェル投資はギャンブルではありません。「投資したからには絶対に自分が成功させる」という気概を持ったパワーエンジェル投資家を増やすことが、日本再生の鍵になると私は考えています。
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