本記事は、山本敏行氏、戸村光氏の著書『投資家と起業家』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

成功する起業家の7つの条件

成功
(画像=bee/PIXTA)

起業家の見抜き方です。ビジネスの内容は変わる可能性があるので、エンジェル投資のフェーズは起業家が有望かどうかを見抜くことのほうが重要です。

①クレイジーかどうか

私は「脳みその回線が切れている」と表現することもありますが、起業家自身のクレイジーさは非常に重要です。「あの人は変わっているね」どころの話ではなく、クレイジーという表現が近いのです。

起業家を判断するときにMBAを持っているとか、大学院卒だとか、財務ができるとか、外資系の経営コンサル出身だからとか、そういう人が必ず成功するかというと、そうではないところが面白いところです。そういう優秀な人は成功する可能性も高いですが、上場している経営者がそういうスキルの人ばかりかというと、そうでもなかったりします。頭がいい人は、逆にクレイジーさが少ない傾向にもあるので、私が投資する起業家はクレイジーさがあるかを意識して見ています。

世間からその当時は理解されないようなビジネスアイデアに対しても、こういうクレイジーな起業家はそのアイデアがうまくいくことを信じて疑わないのです。Airbnbもそうでした。日本人よりオープンなアメリカ人でさえ、初めは「面識のない人に家を貸すなんてありえない」と言っていましたが、それをやりきってしまったわけです。

斬新な発想のビジネスアイデアを話しているクレイジーな起業家に、あらゆる質問をぶつけてみましょう。たった今アイデアを聞いただけのエンジェル投資家からの質問に答えられないようであればアウトです。どんな角度からの質問が来ても、すべてが想定の範囲内で、すべて打ち返してくるかどうかが見極めポイントです。

また、その起業家が本気かどうか見極めるには「このビジネスを10年続けられますか?」という質問をしてください。その質問に少しでもひるんだら、今のビジネスは次までの腰掛けのアイデアかお金が目的で、人生を懸けてまで取り組むつもりではないということなので、エグジットまで行ける可能性は低くなります。

②ビジネスモデルは参考程度

ビジネスモデルは大切ですが、ある意味参考として聞く程度で問題ありません。エンジェル投資の段階では、ビジネスモデルがどの程度きちんと精緻に設計されているかなど、そこまで気にしなくていいのです。どの市場を狙っていくか、狙っているアイデア自体の市場が大きくて、その起業家に原体験がある分野で、そしてそのアプローチが大枠で正しいと思えるなら、ビジネスアイデア自体はそれでいいでしょう。

どうマーケティングするの? どういうチームがいるの? お客様はどのくらいいるの? 財務状況は? というようなところは、次の資金調達ラウンドでいいのです。

エンジェル投資の段階は起業家を見抜くことに注力します。アイデアがまったく変わるということはないにしても、ピボット(方向転換)することはありえます。まったく違う業界にまたゼロからチャレンジするという話になれば別ですが、自分の環境や原体験をベースに別のビジネスアイデアにピボットすることは一般的です。エンジェル投資家は起業家のダイヤの原石、金の卵を探します。

もっと言うと金の卵はVCも探しているので、エンジェル投資家は受精卵の段階で探し出してしっかり育てていくことが、エンジェル投資家の役割であり醍醐味です。

起業家自身には想いしかなかったとしても、その起業家の周りの強みや経験を見出していくことも忘れてはいけません。兄弟でも友達でも親でも親戚でも構いません。とにかく起業家の周りのリソースもしっかりチェックしていくということも重要です。

③レスポンスの早さ

起業家へメッセージを送ったときの返信の早さも、ひとつの基準になります。これはシンプルですが、かなり重要です。起業家に限らず取引先や社員においても返事の早さが仕事のできる、できないに直結していると私は思っています。

本来はできる人ほど仕事が集中して忙しいはずなのですが、それにもかかわらずなぜかレスポンスが早いのです。人間は全員1日24時間しかないし、タイピングスピードもそこまで変わらないのに、仕事ができる人のレスポンスがなぜ早いかというと、判断すべき事項の意思決定の早さ、返信すべきメッセージの優先度や取捨選択ができている、自分がやらなくてもいい仕事を人に振ることができている、返信の早さが重要なことをわかっているからです。

経験上、返信の遅い起業家は成功確率が低いと見て間違いありません。

④ハードワークに耐えられるか

投資を検討している起業家はハードワークに耐えられそうか、耐えられる環境にいるかも大事です。スタートアップの起業家は、本当に24時間働くレベルでやらないと、まったく時間が足りません。世の流れは働き方改革ですが、スタートアップの起業家に求められるのはその真逆です。

スタートアップ起業家や自らの意思で自己成長のためにがむしゃらに働きたいと思う社員以外は、世の中の流れに乗って働き方改革を進めていけばいいと思います。しかし、誤解を恐れずに言えば、私は「日本の将来はこのままで大丈夫か?」と危惧しているので、起業家に対しては「寝不足になっても、思いっ切り働け」というスタンスです。

どのくらいのハードワークかですが、とにかく仕事のこと以外は何もできないくらいの分量の仕事をこなさないといけないし、何をやっても間に合わない、足りないという状況です。スピードも成長も求められるし、それに伴って経験不足からくるトラブルもたくさん発生します。競合は競合で大きな資金調達をして同じような状況で挑んでくるでしょう。アスリートの世界に似ています。

起業家にはそのハードワークに耐えられるタフさがあるか、年齢や家族の状況によって自分は大丈夫だと思っていても周りがついてこられない場合もあるので、しっかり起業家の環境を見抜くことも重要です。

⑤ジジ殺し

起業家がジジ殺しかどうかも企業の成長スピードを上げるには重要です。徐々に変化してきていますが、日本はまだ男女の仕事格差があります。ビジネスの世界で力を持っているのは男性の中高年が多いので、若い起業家が成功するには、そういう方々に好かれやすい要素を持っていることが重要になってきます。つまり、おじさんに好かれて応援されるタイプかどうかです。

「彼・彼女は生意気なところはあるけれど、面白いから応援してあげよう」と感じてもらえる起業家だと、うまく引き上げてもらえることもあります。助けを借りずに自力でやっていくというマインドも大切ですが、急成長が求められるスタートアップ起業家は、力のある人たちにうまく応援してもらったほうがよいでしょう。

⑥素直、かつ自分を持っている

起業家自身の素直さは非常に重要です。こちらからどんなアドバイスをしても「そういう側面もあるかもしれませんがこうなのです」と、毎回反論してくる起業家もいます。

鏡がないと自分の顔は見ることができないのと同じように、いろいろなビジネス経験を持ち、業界外から客観的な視点で投資先に良くなってほしいという想いでアドバイスしているので、まったくの的外れでもなく当たっていることもあるはずです。

しっかりと自分の意見を持つことも大切ですが、いったん受け入れて違うことは違うで受け入れないという意思決定、受け入れるにしても自分で考えてさらに自分の意見を乗せながら進めるというスタンスの起業家が伸びます。

一方、なんでもかんでも言われたことを受け入れてしまう起業家も稀にいますが、それはそれで自分自身で考える力が足りないか、課題に気づく視点が弱いともいえます。

⑦自分が関われば伸びそうか

エンジェル投資するときには、自分が関わることで起業家や事業を伸ばせそうかという視点も持っておきましょう。自分がギブできることが何かというようなところも重要です。スタートアップの成功はお金だけあればうまくいくわけではなく、自分が関わることによって少しでもプラスになるかどうかという観点で意思決定をするのも良いでしょう。

●ジェイソン・カラカニス氏の4つの質問

著名エンジェル投資家でUberの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏は、投資する前に4つの質問をするといいます。

1つ目は「起業家がなぜそのビジネスを選んだのか」です。起業家がそのビジネス領域で、どれほど市場にインサイト、市場の洞察ができているのかということです。

2つ目は「起業家がどこまで本気なのか」です。自分の人生を懸けてでも、市場にある課題を解決するというような、熱い気持ちがあるかどうかです。今は起業家よりも投資家のほうが多く、お金が余っている時代です。スタートアップ起業家が会社を清算する理由は、資金ショートではなく、起業家があきらめたからということが多いそうです。まさに、どこまであきらめずに突き進めるかが重要なポイントなのです。

3つ目は、「起業家がそのビジネスで成功するチャンスをどのくらい持っているのか」です。強みをどれくらい活かし切れるのかということです。

4つ目は「成功したときのリターン、エグジットラインをどこに引いているのか」です。投資家が最も注目すべき点です。どこまで高い山を目指しているのか、ということです。

テキスト
山本敏行(やまもと・としゆき)
Chatwork株式会社 創業者。エンジェル投資家コミュニティ「SEVEN」のFounder。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスでEC studio(2012年にChatWork株式会社に社名変更)を創業。2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身も移住して5年間経営した後に帰国。2018年、Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年に東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。現在はエンジェル投資家コミュニティ「SEVEN」に注力。著書に『自分がいなくてもうまくいく仕組み』(クロスメディア・パブリッシング)、『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』(SBクリエイティブ)。
戸村光(とむら・ひかる)
hackjpn 代表。高校卒業後の2013年に渡米。2015年、大学在学中にシリコンバレーでインターンシップを簡単に見つけられる「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn inc(ハックジャパン)を創業。その後、国内外のスタートアップ企業や投資家を評価するサービス「datavase.io」をリリース。 大手企業から政府機関、スタートアップまでおよそ 2,000社に導入されている。また、Forbes JAPAN official columnist、松竹芸能文化人でもある。

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