本記事は、山本敏行氏、戸村光氏の著書『投資家と起業家』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

エンジェル投資を始めるときの難しさ

難しい
(画像=kelly marken/PIXTA)

日本でエンジェル投資家が増えない理由として、エンジェル投資は難しいと感じている人が多いことが挙げられます。難しいと感じる理由としては、普段スタートアップとの出会いがないこと、投資先との付き合い方がわからないこと、起業家のほうが投資家よりもこなれていることが挙げられるでしょう。エンジェル投資家を増やすには、これらの問題を解消していく必要があります。ひとつずつ見ていきましょう。

(1)スタートアップ起業家との出会いがない

エンジェル投資に手を出せない最も大きな理由は、「スタートアップ起業家との出会いがない」ことではないでしょうか。

エンジェル投資をするには、そもそも優秀な起業家と出会う必要があります。しかも、どんなに優秀な起業家であったとしても、1人だけ見つければいいという話でもありません。一般的にスタートアップの成功確率が低いことを考えると、選択肢がないことはリスクです。やはり普段から優秀な起業家、しかもスタートアップとして上場を目指している起業家に次々と出会えることが理想です。

しかし、エンジェル投資家として活動を始めても、そういった見込みのある起業家にはなかなか出会えないのが実情です。

なぜなら、優秀な起業家は起業家同士の横のつながりや先輩起業家たちからの紹介で、著名なエンジェル投資家やVCに集まるからです。あの投資家は会社を上場させた経験がある、あの投資家に資金を入れてもらった先輩起業家がうまくいっている、などと聞くとその投資家のまわりに起業家が集まるようになります。

だから、いざエンジェル投資を始めたいと思っても、スタートアップをエグジットさせた経験がないと、いい投資先になかなか出会うことができないのです。

しかし、「エンジェル投資」という言葉が日本でも徐々に市民権を得るようになり始め、エンジェル投資先を探せるウェブサイトがいくつか登場しています。そのなかでも代表的なのが、後に詳しくお話しする株式投資型クラウドファンディング(*)でしょう。「数万円から数十万円で誰でもスタートアップに投資ができるから」と、サービス利用者が増えているようです。しかし、ひとつ注意点があります。それは、株式投資型クラウドファンディングの投資案件はエンジェル投資家やVCから資金調達できなかったスタートアップの案件である可能性があります。

*株式投資型クラウドファンディング:未上場企業の株式を多数の投資家が少額ずつ購入できるプラットフォーム。

もちろん、株式投資型クラウドファンディングを使って資金調達をして成功するスタートアップはあるかもしれません。しかし、エンジェル投資に限らず、物事の原則として、良い話は誰でもアクセスできる場所には公開されないものです。本当に優秀な起業家は、一般公開して募集しなくても資金を集められる(集まってしまう)のです。

(2)投資先との付き合い方がわからない

運良く優秀な起業家にエンジェル投資できることになったとします。エンジェル投資自体はお金を出せば成立しますが、投資したからにはやはり成功してもらいたいと思うものです。

自分にエグジット経験がない場合、投資したあとに投資先と一緒に歩む道のりは初めてのことだらけになります。次の資金調達をどうするか、どのような事業をつくり、どうなればエグジットできるのかがわかりません。

登山にたとえると、富士山に登頂したことのない人が、なんの準備もせず、いきなりガイドなしで富士山に登ろうとするようなものです。そんなことをすれば、高山病になったり、足を痛めたり、凍えてしまったりするでしょう。登頂した経験のあるガイドがいないと、いきなり自分だけで登頂するのはやはり難しいものです。

またこれは初めての恋愛に近いところもあります。何社もエンジェル投資をすると、いろいろな起業家がいることを知り、「こういう起業家が伸びる」と徐々にわかってきます。

初恋の人と結婚することは稀でしょう。こういう人が自分に合うかもしれないと思って付き合ってみたらまったく性格が合わなかったということは、よくある話です。少なくとも3人くらいは付き合ってみないと、結婚するときもこの相手でいいのか確信できないまま結婚することになってしまいます。

エンジェル投資も同様に、少なくとも3社の投資を経験しないと、エンジェル投資という活動を理解することはできないでしょう。

(3)起業家のほうが投資家よりもこなれている

エンジェル投資を始める難しさの3つ目に、投資家よりも起業家のほうがこなれていることがあります。

一般的には、新人のエンジェル投資家が起業家に出会うより、新人の起業家がエンジェル投資家やVCにアプローチするほうが簡単です。そのため、起業家のほうが新人投資家よりも交渉経験が豊富で、こなれているのです。

エンジェル投資家のほうが人生経験やビジネス経験が豊富であったとしても、エンジェル投資については素人という場合、交渉に慣れている起業家から聞いたことのないキーワードが出てきて焦ったり、提示された条件が適切なのか判断できなかったりして、割高で投資してしまうことはよくあります。

テキスト
山本敏行(やまもと・としゆき)
Chatwork株式会社 創業者。エンジェル投資家コミュニティ「SEVEN」のFounder。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスでEC studio(2012年にChatWork株式会社に社名変更)を創業。2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身も移住して5年間経営した後に帰国。2018年、Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年に東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。現在はエンジェル投資家コミュニティ「SEVEN」に注力。著書に『自分がいなくてもうまくいく仕組み』(クロスメディア・パブリッシング)、『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』(SBクリエイティブ)。
戸村光(とむら・ひかる)
hackjpn 代表。高校卒業後の2013年に渡米。2015年、大学在学中にシリコンバレーでインターンシップを簡単に見つけられる「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn inc(ハックジャパン)を創業。その後、国内外のスタートアップ企業や投資家を評価するサービス「datavase.io」をリリース。 大手企業から政府機関、スタートアップまでおよそ 2,000社に導入されている。また、Forbes JAPAN official columnist、松竹芸能文化人でもある。

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