本記事は、山本敏行氏、戸村光氏の著書『投資家と起業家』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
日本のスタートアップ投資の問題点
日本のエンジェル投資の書籍に「支援する」という項目はほぼありません。いいスタートアップを見つけることがすべてで、そこに投資できたら、あとは放っておいても勝てるという内容が主で、「探す」「見抜く」「投資する」あたりの内容までしか載せていません。
そこで本書ではあえて「支援する」の項目を立て、投資先を支援することでエンジェル投資の成功確率が上がることを提唱し、実際行っている支援内容についても触れていきます。
山本個人では2015年からこれまで7社にエンジェル投資しています。コラムに載せた1社目、2社目、そして3社目はコロナの影響で売り上げが99%ダウンした危機を乗り越えたエピソードを後述しますが、4社目以降の投資先もすべて生き残っていて成長しています。戸村の投資先も生き残っていて、そのうち1社は前澤ファンドへエグジットしています。
これまで投資した全社が最終的にエグジットできるかはまだわかりませんが、エンジェル投資の成功率が100分の1、1000分の1以下とも言われる中で、山本・戸村の投資先の生存確率が驚異的に高いことをご認識いただけると思います。
一般的な金融商品は数%のリターン、株式投資はうまくいっても1.5倍〜3倍くらいの期待値ですが、エンジェル投資はうまくいけば10倍〜1000倍のリターンが見込める投資でありながら、ほかの投資商品と違って直接関わって支援することで、成功確率が上がるところがエンジェル投資の醍醐味です。
さまざまな支援のかたち
投資家によって、さまざまな支援のかたちやスタンスがあるとは思いますが、自分が投資先のために何ができるのかという観点でこれから紹介する支援の方法を参考にしてください。
週1回以上会う「ハンズオン」
ケースバイケースですが、わかりやすいイメージでいうとハンズオンは毎週1回以上は会社に行ったり、ミーティングに参加して事業の中身をしっかりと把握した上で、外部の人間でありながら経営に直接関与して支援することを言います。
これはエンジェル投資するシードの段階では、非常に珍しい支援のかたちです。しっかりとハンズオンで支援しても、投資先からお金を払ってもらえるほど投資先に余裕はありませんし、シード段階の多くのスタートアップが死んでしまうためです。
投資後は放置する「ハンズオフ」
ハンズオンの反対はハンズオフと言います。ハンズオフは投資したあとの経営は起業家におまかせするスタイルです。株主総会への参加や決算書を送ってもらうなどはありますが、基本的に投資したあとは何もしません。エンジェル投資家のほとんどがハンズオフになります。
最適な距離感は「ハンズイフ」+α
本書ではエンジェル投資家は「ハンズイフ+α」のスタンスでいることを提唱します。「ハンズイフ」は、もし何かあったときに相談してくれたら、できるだけ助けるよという支援スタイルです。普段何もないときは頼ることのない警察や病院をイメージするとわかりやすいでしょう。
投資先に旅行業のスタートアップがあるのですが、コロナ禍で売り上げが99%ダウンして瀕死の状態になりました。そのスタートアップは普段あまり相談してこないのですが、さすがの緊急事態で相談が来ましたので、ここぞとばかりにミーティングを重ね、別のビジネスモデルを検討するディスカッションをするなど、まるで救急病院で緊急オペをするかのように支援しました。そのあと追加で2億円の資金調達を完了し、危機的状況を乗り越えることができました。
エンジェル投資家としては、ハンズオフよりハンズイフのスタンスでいることが良いと考えますが、ハンズイフでも起業家が何も相談してこなければ、ハンズオフと同じ状態になってしまいます。
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