地方創生の現状

実際の地方の現状はどうなのかというと、厳しいのが実態だ。地方創生の取り組みは、日本が抱える問題点を浮き彫りにしている。人口減少は経済規模の縮小による国力の低下につながりかねない。国際競争力の低下や医療・介護費の増加に伴う社会保障制度の崩壊、地方社会の存続危機など日本が直面する課題は多岐にわたる。

現状の課題

日本が抱える課題解決のための地方創生の取り組みとして以下3つのアプローチがあげられる。

・東京など都心への一極集中の是正
地方創生には東京など都市への一極集中を是正し、地方に人の流れをつくることで人口減少に歯止めをかける目的がある。総務省が公表している「住民基本台帳人口移動報告」によると2020年において東京圏は、9万9,243人の転入超過の状況だ。前年比4万9,540人減となっているのは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う影響が大きい。

これは、緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、東京圏の転入超過数が前年に比べて大きく減少していることからも分かる。これまでは人や企業が首都圏に集中することにより業務効率や市場性の面から生産性が高まりイノベーションも起こしやすいなどのメリットがあった。

しかし一極集中には、デメリットもある。地震や台風など災害が起きた際の被害は、甚大なものになることが予想されるためリスクが高いとの指摘もあった。これは、新型コロナウイルスの感染者数が都市圏で多いことからも容易に想像できる。

・地方財政、サービスの安定
2006年の北海道夕張市財政破たんのニュースを覚えている人も多いのではないだろうか。相次ぐ炭鉱災害やエネルギー変革により炭鉱が閉山し人口減少に歯止めがかからなかったことが大きな要因となっている。財政悪化により公共施設や教育施設のサービスが停止し、住民が本来受けられる行政のサービスが大きく制限されることになった。

高齢化社会の進展と若者の都市圏への移動による地方の人口減少は、地方財政に大きな影響を与える。地方創生は地方自治体における安定した財政やサービスを維持するためにも必要な施策といえるだろう。

・地方産業の強化
地方から都市圏への人口異動の原因の一つに地方産業の衰退があげられる。「後継者不足で経営を断念する」「大手企業の工場移転により地元住民の働き口がなくなる」といったケースも少なくない。働くところがなければ、人は生活できず仕事がある場所へ移転するのは当然だ。地方創生は、企業の誘致や既存産業の強化、地方における新たな産業をつくり出し、雇用を創出する役割を担っている。

国・地方公共団体・事業者の相互連携を図り、地域特性を活かした創業の促進と事業活動の活性化により就業の機会を創出する効果もあるのだ。

地域経済の現状

地域経済の状況を今一度振り返ってみよう。

・新型コロナウイルス感染症の状況
2020 年1月に最初の新型コロナウイルス感染症の感染者が確認され、その後感染者数が急増。同年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が7都府県に発出された。以降も感染拡大が続き第5波では医療崩壊ともいえる事態となった。

しかしワクチンの接種率の増加など、感染対策も功を奏し、2021年9月末時点で緊急事態宣言は解除となっている。しかし、このまま収束に向かうのか先は読めない。冬季には第6波が懸念されている。

一方でコロナ禍を契機に一気に加速したのがテレワークだ。テレワークの急速な普及とともに、地方に移住することへの関心が高まった。就労者の意識や行動の変化が生まれ、都会から地方へ人や仕事の新たな流れを生み出すことにつながっている。

・産業の動向(サービス業、観光業、農林水産業、鉱工業)
新型コロナウイルスの影響により地域経済も多大な損害を被った。観光・運輸、飲食およびイベントを中心にサービス業や観光業への影響は計り知れない。また農林水産業も観光業や飲食業とともにインバウンド需要や外食需要の減少に伴い大きな影響を受けている。さらに鉱工業は、海外経済の影響による需要の大幅な落ち込みやサプライチェーンの寸断による供給制約を背景に生産活動への影響が生じた。

・雇用の動向
新型コロナウイルスの影響は、今後の企業の雇用への影響が懸念されている。完全失業率は、2020年10月に3.1%まで上昇した後、2021年7月には2.8%と大きな変化を見せていない。これは、雇用調整助成金を中心とした政府の対策が功を奏しているといえるだろう。しかし新型コロナウイルスの影響が長期間続いている状況を踏まえると、予断を許さない状況にあることには変わりない。

1年以上に及んで各企業の営業活動は制限され、観光・運輸、飲食およびイベントを中心としたサービス業、観光業は疲へいしている。

取り組み事例の紹介

地方創生は、新たなビジネスチャンスを作り出す可能性を秘めている。企業の新たな事業分野への進出や販路拡大に成功した取り組み事例を見てみよう。

・ 「コロナに打ち勝て!オール岐阜でのマスク生産 ~岐阜県内中小企業によるゼロからの挑戦~」(岐阜信用金庫)
岐阜県は新型コロナウイルス感染防止のために県内からの安定した医療用マスクの供給態勢の構築を必要としていた。岐阜信用金庫は、新たな事業分野への進出を模索していた企業に呼び掛け、材料供給と生産体制を構築。県内中小企業は医療用の不織布マスク生産にゼロから挑戦した。

2020年7月には、岐阜県へマスク1万5,000枚を寄贈し、県民へのサージカルマスク供給態勢を実現している。

・ 「協同組合を母体とした事業者・金融機関・自治体等の連携による販路拡大及び地域PRの取組」(渡島信用金庫)
地域の事業者同士が協同組合を通じて連携し、地域特産品のマーケティング・ブランド化・新規マーケット開拓・共同販売による地域活性化を図り、持続可能な地域社会を目指した。

協同組合は、渡島信用金庫札幌支店内にアンテナショップや協同組合独自のブランド牛や豚を主力商品とした焼肉店を札幌市に開設。

また営業力を活かして地域事業者の特産品をバイヤーやホテル、飲食店へ販路拡大に成功している。渡島当金庫は、アンテナショップを無償提供するほか、ブランド化を支援し、東京・大阪・愛知などで南北海道物産展を開催するほか、連携して販路拡大や特産品の販売を協働。アンテナショップや物産展等は南北海道の自治体とも連携し、観光PR等を継続的に実施している。