電力不足であえぐ中国国民…スマホの灯りで食事、習近平の野望に振り回される世界
(画像=baphotte/stock.adobe.com)

バブル崩壊が懸念されている中国で、停電問題が追加の不安材料となっている。冬の到来を前に、国民の間では不安が高まる一方だ。電力難の影響は国内の工場や産業、さらには世界のサプライチェーンにも波及しており、同国が長年にわたり維持してきた「世界の工場」の地位をも揺るがしている。

「信号機が消えた!」Apple、Tesla工場も一時稼働停止

2021年5月、広東省や海南省などの南部から始まった計画停電は、瞬く間に北京や上海などへと広がった。地元メディアによると10月上旬の時点で、20以上の省が影響を受けていたという。「集合住宅のエレベーターが止まった」「信号機が消えた」「スマホの灯りで食事をしている」といった国民の声が後を絶たない。

ビジネスへの影響も深刻化しており、特に製造業は休業要請や停電通知に翻弄される毎日だという。9月には、AppleやTeslaなどに部品を供給する工場が一時的に稼働停止を余儀なくされたほか、一部の日本企業にも影響が及んでいる。

政府は、国有の鉱業企業にフル稼働で石炭を生産するよう 命じたほか、外交関係の悪化から禁輸措置を講じていたオーストラリア産の石炭について一部の通関を許可した。米国やカザフスタンなどをルートとして輸入量の増加を試みているが、先行きが不透明な状態が続きそうだ。

ゴールドマンなど中国GDP予測引き下げ

問題は、世界第2位の経済大国、中国の経済成長は、鉄鋼やセメント、化学薬品などのエネルギー集約型産業に依存している点にある。

冬の暖房に使う電力維持に向け、何としてでもエネルギー不足を解消する必要があるが、「一般家庭に十分なエネルギーを供給するためには、産業へのエネルギー供給を減らすしかない」という見方もある。そうなれば、生産への影響がさらに深刻化し、中国経済に打撃を与えるだろう。

すでに、ゴールドマンサックスと野村証券のアナリストが、中国の国内総生産(GDP)の年間成長予測をそれぞれ8.2%から7.8%と7.7%に引き下げるなど、市場の不安は高まるばかりだ。

複数の原因が絡み合うエネルギー不足

中国国家発展改革委員会は深刻な電力不足の原因として、コロナ下の経済活動の再開を受けて鉱工生産が急回復したことに加え、気温の変化によるエネルギー消費量の増加と水不足による水力発電量の不足が重なったことを挙げている。中国国家発展改革委員会のデータによると、2021年1~8月の期間、同国の総電力消費量は発電量を2.5ポイント上回る13.8%増加した。

石炭価格の高騰も主因の一つだ。中国は2016年、世界的なサステナビリティへの移行を受け、実質的に新たな石炭投資を廃止した。それに加えて安全基準の強化を理由に、国内の炭鉱が続々と閉鎖に追い込まれた。追い打ちをかけるかのように、今秋に発生した洪水により、中国最大の石炭採掘の中心地である山西省が少なくとも1割の鉱山を閉鎖した。

このような状況で国内外の生産・製造業の需要が急拡大したことにより、石炭価格が過去最高値に上昇した。石炭価格の上昇コストを消費者に転嫁することが禁じられている電力会社は、赤字を回避するために供給を制限するしかない。

計画停電の裏に潜む習政権の野望

一方で、「すべての問題の根源は政府が掲げるCO2(二酸化炭素)削減策にある」との見方も強い。習政権は2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ、2060年までに排出量と吸収量がプラマイゼロにするカーボンニュートラル(気候中立)を実現させると宣言している。

天然ガスやソーラーパネル、風力タービン、水力発電への移行とともに、エネルギー強度(一定の国内総生産を創出するのに必要なエネルギー量)の削減に注力することで、「CO2削減大国」を目指しているが、その背景には世界のリーダーを狙う野望があるという。削減目標を達成できていない地方当局者は解雇されるなど、圧力も相当なものだ。強引な停止計画が全国規模で繰り広げられている。

国内では需要と見合わないCO2削減目標を、「環境政策というより習近平政権のイデオロギー」と批判の声も上がっている。

中国の電力不足が世界のインフレに拍車をかける?

中国の電力不足は、世界市場も揺らしている。停電により中国の工場が通常通りに稼働しなければ、さまざまな製品が世界的に品薄になり、コロナ禍からの回復を目指す世界経済にとって打撃となりかねない。海外の企業からは、「中国に発注した商品の納期が遅れている」「キャンセルされた」といった声も聞こえてきている。

ウォールストリートジャーナル紙は、「中国の電力不足が世界のインフレにさらなる圧力をかける」という見出しで、コロナ禍ですでに圧迫されている世界のサプライチェーンへの影響に警鐘を鳴らした。実際に、生産に大量のエネルギーを要する商品の価格は急上昇している。一例を挙げると、中国製のソーラーパネルの主な原材料であるポリシリコンの価格は、9月下旬から3倍以上に跳ね上がった。

電力危機で浮き彫りになる中国の弱点

今回の電力危機は、中国の戦略的弱点のひとつを浮き彫りにしたといえるだろう。2009年、中国の国営通信社である新華社は政府の打ち出した環境政策について、「巨大な圧力と特別の困難に直面するだろう」と予測していた。コロナという予想外の事態に見舞われたとはいえ、新華社の予想は的中したようだ。

北京冬季五輪を2022年2月に控えた今、中国は自国が直面している深刻な問題にどのように対応していくのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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