減価償却費が発生する資産を保有して、「個人や法人の所得を利息や減価償却費と“ぶつけて”節税している」という富裕層や高所得者(高所得法人を含む)は多いだろう。第2回と第3回では、減価償却費を計上する典型的な資産である不動産について解説した。
第4回では、美術品、クルマ、クルーザー、航空機などにスポットを当てて解説していこう。野村證券でプライベートバンキング業務に従事し、現在は佐野比呂之税理士事務所代表である佐野税理士に話を聞いた。
減価償却できる美術品もある
減価償却に関する知識の前提として、2点の注意点が挙げられると佐野氏はいう。「1つは、事業に使って(事業供用)初めて減価償却資産として認められるということ。もう1つは、時間の経過によって価値が減価しない資産は減価償却資産として認められないということ」だ。前者に関しては、不動産をイメージすると分かりやすいだろう。個人がマイホームを買った場合は、その不動産の減価償却費は発生しないが、投資(不動産賃貸業という事業)で買った不動産は減価償却費を計上できる。
「時間の経過によって価値が減価しない資産」の代表例は土地だ。また、歴史的な価値のある美術品も永続的に価値上昇が見込まれるため、非減価償却資産に該当することが多い。佐野氏によると、「美術品は2015年(平成27年)を境に判断要素が変わった。それまでは時価20万円超のものは認められなかったが、2015年1月1日以降は100万円以内であれば減価償却が認められるようになった。100万円は作家の名前が売れ始めるぐらいの価格帯である。芸術家を応援したい『あしながおじさん』のような富裕層が、法人の利益を減らして税負担を下げたい時に100万円以内の美術品を購入することは少なからずある」という。
もちろん、減価償却費を計上するためには、その美術品を企業の受付や応接室に設置するなど、事業に使う必要がある。さらに、「100万円超の美術品でも減価償却資産として認められることもある。たとえば、絵画が店舗の入り口にがっちりと固定されており、剥がす時に絵画自体が破損してしまう場合などだ。この場合、絵画を撤去する時に価値が大きく減価することが予想されるので、減価償却費を計上して問題ないだろう」と佐野氏は解説する。
また、国税庁も次のように述べている。
取得価額が1点100万円以上である美術品等であっても、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」として減価償却資産に該当するものとしては、例えば、次に掲げる事項の全てを満たす美術品等が挙げられます。
1 会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾用や展示用(有料で公開するものを除く。)として取得されるものであること。
2 移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなものであること。
3 他の用途に転用すると仮定した場合に、その設置状況や使用状況から見て美術品等としての市場価値が見込まれないものであること。 なお、この例示に該当しない美術品等が「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」に該当するかどうかの判定は、これらの事項を参考にするなどして、その美術品等の実態を踏まえて判断することになります。
引用:国税庁
フェラーリやクルーザーを買って減価償却するのはOK?
多くの富裕層が購入するのが高級車だ。読者のなかには、資産管理会社名義でクルマを購入し、減価償却費を計上している人もいるだろう。しかし、「それは基本的に避けた方が良い。よくある言い分は『ウチ(資産管理会社)は不動産管理業をやっていて、物件を見に行くための交通手段です』だが、資産管理会社はいわば一族の貯金箱なので、よほどの規模で不動産投資業を行っていない限り、さすがに無理がある。この場合には多くの減価償却費部分が損金不算入と判断される確率が高いだろう」(佐野氏)という。
それでは、高級車を購入して、利益と減価償却費を“ぶつける”ことはできないのだろうか。
「社会通念と照らして妥当か、本当に業務に使っているのか、この2点をクリアできていれば、フェラーリだろうがランボルギーニだろうが、認められる可能性は高い。極端な例だが、フェラーリ販売会社の社長が広告目的を兼ねて、通勤や顧客商談の移動手段にフェラーリを使うのは、そこまで不自然ではないだろう」と佐野氏は解説する。
国税不服審判所の過去の裁決に減価償却に関する興味深い事例がある。消費者金融会社が法人名義で(社長の通勤用の)フェラーリと(福利厚生としての)クルーザーを購入し、減価償却費を計上したところ、税務当局から否認されたことを不服とし、裁決を求めたというものだ。結論として、フェラーリの減価償却は認められ、クルーザーの減価償却は認められなかった。
クルーザーが否認された理由は明快で、福利厚生の社内ルールや使用のエビデンス(記録)を税務署に提示できなかったことだ。一方、フェラーリに関しては、社長には他に通勤手当は支給されていなかったこと、ガソリンスタンドの領収書等により通勤で使用した記録が残っていたこと、社長はフェラーリの他に個人名義でクルマを3台保有していて、これらは会社資産として計上してないかったことなどから総合的に判断し問題ないとされた。
また、実際に国税不服審判所が公開している事例で、クルーザーとスポーツカーどちらも減価償却できなかった事例もある。
この事例の場合、クルーザーは、接待交際・福利厚生・広告宣伝用として、スポーツカーは、広告宣伝・通勤・患者の往診用として使用したので、その賃借料及び修繕費は、業務の遂行上必要なものであるから必要経費の額に算入すべきであると請求人は主張した。しかし、クルーザー及びスポーツカーを業務遂行に使用するために賃借し、使用したというエビデンスが十分ではないと判断され、その賃借料及び修繕費は必要経費に算入することはできないという裁決を受けた。
引用:国税不服審判所
そのほかの事例についても国税不服審判所の検索システムから閲覧することが可能だ。
これらの裁決がすべてではないが、事業に使っており、確かなエビデンスでそれを証明できるのであれば基本的には問題ないようだ。なかには、福利厚生としてフェラーリを無料で使えることを押し出す会社も存在する。千葉県に本社を置く運送会社「加悦」の従業員は、フェラーリやポルシェ、クルーザー、日本各地の別荘を自由に使うことができる(2024年5月時点、加悦Webサイトより)。おそらく、しっかりと社内ルールを作り、使用実績を記録したうえで減価償却費を計上していることだろう。
引用:加悦ホームページ
クルマの減価償却を活用する方法
佐野税理士に、「しっかりと事業に使う」という前提のうえで、クルマの減価償却を活用したタックスマネジメントのコツを教えてもらった。
「法人の利益を減らして税負担を下げたいなら、中古4年落ちのクルマが良いだろう。定率法を用いれば償却率が1(参考:減価償却資産の償却率表)なので、2年で償却を取り切れる。たとえば、1,000万円のクルマを期の初月に買えば、その期で1,000万円×償却率1×12ヵ月/12ヵ月=1,000万円を丸々落とせる。実際は初月に買うことは少ないので、1,000万円×1×購入時点の経過月数/12ヵ月を1年目に落として、残りを2年目に落とすことになるだろう」(佐野氏)という。
その際は、リセールバリューが下がりにくいものを買うことも重要だ。いくら多くの減価償却費が取れたとしても、多額の修繕費が掛かったり、売却後のリセール価格が悪かったりして、トータルでの税引き後キャッシュフローがマイナスでは節税戦略としては失敗といえる。「基本的にフェラーリはリセールバリューが良いのでおすすめだ。反対に、BMWやベンツは供給量が多く、売却時の価値が下がりやすい。ただ、ベンツでもゲレンデ(Gクラス)は比較的価値が保たれやすい印象だ」と佐野氏は解説する。
今は航空機リースよりもコンテナリースがおすすめ?
「比較的大きな法人の利益を減らして税負担を下げたい」という時に、1つの選択肢になってくるのが航空機リースだ。航空機リースとは、投資家が航空機を購入して、航空会社などとリース契約を締結し、最終的にはその航空機を売却するという投資だ。航空機を定率法で償却することにより、短期間で大きな減価償却費を計上することが可能となる。航空機はセカンダリーマーケットが活発なので、リセールバリューが想定外に大きく下がらない限り、メリットのほうが大きくなる。
佐野氏によると「昔はレバレッジリースもあったが、今は税制改正により事実上、航空機リース≒オペレーティングリースとなっている。しかし、オペレーティングリースは1ロット5,000万円〜1億円と高額であり、リース期間も10年前後と長い。なおかつ現在はコロナ禍で旅客需要は厳しく、これだけの高額を長期で固めてしまうのはリスクが大きいと言える。そこでおすすめしたいのがコンテナリースだ。仕組みは航空機リースとほとんど同じだが、1ロット数百万円〜数千円と比較的小ぶりであり、リース期間は5年前後と短い。定率法を使えば、初年度で80%、2年目で20%を償却できるため、法人の利益を減らして税負担を下げたい富裕層から一定のニーズがある」という。
今日、比較的大きな償却を堂々と取れる方法はそれほど多くはない。リセールバリューは約束されていないものの、税金の繰延をしたい富裕層(経営者)は、検討してみても良いだろう。
中小企業なら「減価償却の特例」も視野に
そこまで大きな金額ではないものの、中小企業においては「減価償却の特例」を検討しても良いだろう。中小企業は、取得価額が30万円未満かつ合計金額300万円未満の減価償却資産の全額を損金算入できるという特例だ。「そのため、決算が近づいて利益が出ることが確実になると、300万円を限度に買い物をする(設備などを入れ替える)経営者は多い。なお、取得価額が10万円未満であれば、中小企業であるかどうかは関係なく、少額不追求で全額を損金算入できる」と佐野氏は解説する。
これを利用した節税策が「少額コンテナリース」だ。「1個10万円未満のコンテナを同時にたくさん買うことで、たとえば5,000万円といった高額を一括で損金算入する方法だ。コンテナ1個ずつを見れば10万円未満なので、中小企業であるかどうかは関係なく、理論上は全額を損金算入できる。今も存在しているのか分からないが、以前見かけたことはある。問題はそういった商品は瞬間的に売れてしまうので在庫を確保することが非常に難しい」(佐野氏)という。
また、場合よっては租税特別措置法に定める特別償却制度(税額控除制度)なども検討対象となる。要件は厳しくなるが、中小企業経営強化税制などは購入時に即時償却できる制度も用意されている。
ここまでは美術品、クルマ、クルーザー、航空機など富裕層がよく購入する減価償却資産にスポットを当てて解説してきた。事業に使っていることを客観的かつ合理的に説明できるのであれば、堂々と償却すれば良いだろう。なお、償却による税負担の低下は、税金が少なくなったわけではなく、あくまで繰延しているに過ぎない。償却が終わった資産を売却する時には再び利益が出るため、購入する時点から出口戦略を考えておくことが重要だ。
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