コロナ禍によって多くの経営者が危機的状況に見舞われた。しかし、コロナ禍は経営革新の機会でもあった。現在、テレワークを活用した地方創生が推進されている。本記事では、地方創生テレワークの概要やメリット、交付金などについて解説する。
目次
地方創生テレワークとは?
新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークを経験した企業も増えている。日本政府は働き方改革の施行と合わせて、IT導入補助金や人材確保等支援助成金(テレワークコース)などの支援制度を新たに設定し、企業のテレワーク導入をサポートしてきた。
総務省の通信利用動向調査によると、2020年は調査対象企業のテレワーク導入率が2019年から倍増している。
産業別のテレワーク導入状況では、情報通信業が9割以上と高い導入率になっている。
働き方が変わり始めている中、地域の活性化や東京圏の一極集中回避を図るために、地方創生テレワークが推進され始めている。
地方創生テレワークとは、東京圏内の会社と労働契約を結びながら、地方に設置されたサテライトオフィスや自宅でテレワーク業務を行う働き方だ。
地方創生テレワークで重要な3つの視点
地方創生テレワークの目的は、テレワークの普及と地方創生である。地方創生とは、地方が抱えている人口減少や高齢化などの課題について、各地域の特色を活かしながら解決することだ。以下の3つの視点から取り組みを進めている。
視点1.ヒューマン
地方でテレワークが可能なサテライトオフィスを整備し、都市圏の人材が転職せずに地方へ移住できるようにする。人と知の循環が目的だ。
視点2.デジタル
地方によっては、5Gのような情報通信インフラが整っていない地域もあり、IT人材の不足といった課題もある。地方創生には、デジタル技術による新しい価値創造が必要だ。地方でもDXが推進されている。
視点3.グリーン
SDGsが世界標準となっている現代において、脱炭素社会の実現に向けて、地域の特色を活かした再生可能エネルギーの導入なども検討されている。
地方創生テレワークを推進させる3つの支援
地方創生テレワークを推進するためには、地方だけでなくテレワークを導入する企業に対する支援も重要だ。日本政府は、主に3つの支援策によって地方創生テレワークの導入をサポートしている。
支援1.地方創生テレワーク交付金の創設
地方創生テレワークの導入に際して、各種の交付金制度が新設されている。
支援2.地方創生テレワーク推進事業
地方創生テレワークに関する情報提供の体制が強化されている。企業が取り組む事例の調査や広報を行う環境の整備も進んでいる。
支援3.地方創生移住支援事業の対象拡充
地方創生に関する移住に際して、地方での就業だけでなく、東京圏の仕事を地方で実施するテレワークなども支援対象とした。
経営者が地方創生テレワークを推進する3つのメリット
経営者が地方創生テレワークを推進するメリットは、人材確保の問題解決や固定費の削減、企業価値の向上などである。それぞれのメリットを詳しく確認してみたい。
メリット1.地方人材の確保
地方には地元での就労を望む人材がいる。地方人材をうまく活用できれば、人材確保が難しい都市部の中小企業でも優秀な人材を獲得できる。地方の生活費は都市部よりも低いため、人件費や福利厚生にかかる資金も都市部より安く抑えられる。
メリット2.固定費を削減
コロナ禍のテレワーク普及によって、大手企業をはじめ都市部でオフィスの売却が進んでいる。地方創生テレワークで地方のサテライトオフィスを活用すれば、都市圏の高額な不動産維持費を削減できる。
都市部に本社機能を固定する必要もないため、BCP対策も実現可能になる。
メリット3.地方連携による企業価値の向上
地方への貢献活動やSDGs達成に向けた取り組みなどにより、地方自治体との関係性を強化できる。企業価値の向上を図れるのはもちろん、ノウハウの蓄積も可能となる。
社員が地方創生テレワークで働く3つのメリット
労働者の立場としては、テレワークによる通勤時間の削減や、地元での就労などによるメリットがある。具体的なメリットを確認していこう。
メリット1.子育てや介護がしやすい
テレワークによって子育ての時間が確保しやすくなるのはもちろん、自然豊かな地方で育児ができる。地元で暮らす両親の介護が必要な社員も柔軟に働きやすくなるだろう。
メリット2.ワークライフバランスを整えられる
テレワークであれば仕事のオン・オフを切り替えやすい。通勤時間も削減できるため、余暇の時間も確保しやすくなる。結果的に仕事の効率が向上し、ストレス低減効果も期待できる。
メリット3.地域貢献ができる
地方創生の大きな目的である各地域特有の課題解決の活動に関わることで、地元はもちろん各地域に貢献する満足感を得られる。
経営者が知っておくべき地方創生テレワークの3つの課題
地方創生テレワークの主な課題は、地方移転のメリットが不透明なことや、テレワークがもたらす事業活動への影響に関する懸念だ。代表的な課題を確認してみよう。
課題1.地方創生のメリットや支援策が不透明
地方創生テレワークによる地方自治体のメリットは、人口増加や地域の課題解決など明確である。しかし、経営者が地方に拠点を置くメリットがコストに見合うのか判断しづらい。
地方創生推進の支援が拡充されているとしても、地域ごとの取り組みや具体的な支援内容がわかりにくいという課題もある。
課題2.労務管理や人事制度の未整備
社員の労務管理や昇進・昇格に関わる人事考課など、社内制度が未整備の企業は多いだろう。
地方と都市部では物価や賃貸料も異なる。労働契約や就業規則の見直しが必要になったり、各種手当を再設定したりしなければならない。
課題3.社員とのコミュニケーションが困難
都市圏でのテレワークであれば、週に1回の出社日を設けるなどの対応が可能だ。地方創生テレワークの場合、対面で接する時間が極端に減少し、コミュニケーション不足に陥る可能性が高い。
社員が知っておくべき地方創生テレワークの2つの課題
労働者にとっての課題は、主に地方移住への不安や実施環境の未整備に関する内容である。具体的な課題を解説していく。
課題1.移住先の環境が都市部に劣る可能性がある
移住先のインフラや医療・福祉サービスが都市部に劣るかもしれない。そもそも移住先で都市圏と同等の業務が行えない可能性もある。
課題2.地方就労における労務環境が整備されていない
労務管理や人事評価制度がテレワークに未対応ならば、社員としては不安だろう。地方移住の志望者に対して、ほかの社員から不満が出ないとも限らない。環境整備だけでなく社員全体の理解も必要となる。
地方創生テレワーク交付金の制度内容
地方創生テレワーク支援の中でも、交付金制度は大きな柱だ。地方創生テレワーク交付金の対象者や申請方法、募集結果などについて解説する。
地方創生テレワーク交付金の交付対象者
地方創生テレワーク交付金は、地方におけるテレワークを目的としたサテライトオフィスなどの開設・整備や、利用企業の各種支援に使用される交付金だ。補助率は最大4分の3であり、施設利用企業向けの進出支援金は1社最大100万円である。
2020年度の第3次補正予算では、100億円が割りあてられた。具体的な交付対象者は以下の通りだ。
・東京圏(一都三県)外の地方公共団体
・東京圏内の条件不利地域を含めた市町村やその地域で事業を限定して行う都県
地方創生テレワーク交付金の申請方法
交付金の申請に際しては、地方創生テレワーク推進実施計画を策定して審査を受ける。評価によって採択と不採択の結果が決まる。補助率によって審査の主体が異なる点にも注意したい。
高水準タイプ(補助率:4分の3)であれば有識者が審査し、標準タイプ(補助率:2分の1)であれば事務局が審査する。
地方創生テレワーク交付金の募集結果
地方創生テレワーク交付金(第1回)の募集で採択された件数は138件だ。交付対象事業費は65億円である。地方進出企業に対する進出支援事業の対象社数は271社となっている。
地方創生テレワーク推進に役立つ3つの相談先
地方創生テレワークの推進に際して、企業向けに以下のような相談窓口が設置されている。必要に応じて利用を検討してみるとよいだろう。
相談窓口の名称 | 担当省庁 | 内容 | URL |
テレワークマネージャー相談事業 | 総務省 | テレワーク導入に際しての労務管理や利用すべきシステムの相談などを受け付けている | https://teleworkmanager.go.jp/ |
テレワーク・サポートネットワーク | 総務省 | 各社の課題に合わせてテレワークの導入に関するアドバイスを行うため全国各地に設置された相談窓口 | https://teleworksupport.go.jp/ |
テレワーク相談センター | 厚生労働省 | 電話・メール・面談などを通してテレワーク導入の相談や情報提供を行う | https://www.tw-sodan.jp/index.html |
地方創生テレワークの導入ではメリットとコストを見極める
地方創生テレワークは、地方の人口減少や東京圏の一極集中といった課題を解決するために、政府も推進している事業である。
企業が固定費を削減できるだけでなく、社員もワークライフバランスを保ちながら働ける。仕事で育児や介護を両立しやすくなるメリットもある。
導入するメリットだけでなく、社内制度の整備や拠点の分散によるコストをふまえて、地方創生テレワークを推進すべきだろう。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)