本記事は、中村基樹氏、西村聖司氏、河上祐毅氏の著書『CHANGE LEADER 「多様性」と「全員参加」を実現させるリーダーシップの身につけ方』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
未来のチェンジ・リーダーが押さえたい、ビジネス環境の変化
チェンジ・リーダーのあり方を示していく上で、現在の世界や日本、ビジネス社会がいかに変質してきているか、その環境について見渡していきます。
とくに新型コロナウィルス感染症によるビジネス環境の変化は、社会全体に大きな影響を与えました。これらも踏まえながら、これからのビジネスが進むべき道と、本書で述べる新しいリーダーシップ獲得において欠かせない世界の動きを見ていきましょう。
「対面型」スタイルの限界
ここ数年のIT技術の発展により、オンラインツールを利用した働き方がますます浸透してきました。クラウド、従量課金、サブスクリプションなど、働き方のみならずサービスの提供方法や、ユーザーのお金の払い方も大きな変貌を遂げ、それに今回の新型コロナが拍車をかけていることは皆さんご承知でしょう。
これまでの日本、とくに都市部においては、誰もが満員電車に揺られながら会社に通うことを苦痛に感じつつも、それを大きく疑問視はしていませんでした。1つのオフィスにみんなで集まって仕事をし、1つの会議室に集まって対面で議論する。
それが毎日、当たり前に行われてきました。つまり、人が1つの場所に「集中」することで、何かしらが成立する、そんな働き方が当然のこととして存在してきたのです。
仕事に限らず日常生活でも、飲み会やイベントも人が集まるから成立し、そこにビジネスが紐づいていました。これは「対面型」のコミュニケーション・モデルといえます。
「対面型」の利点は、人同士が触れ合うことで、情報伝達や意思疎通のほころびを、さまざまな形で補うことができる点でした。人と人とが対面し、違和感を感じる部分、言語化されない部分、伝わりにくい部分についても、顔色を見て判断したり、不足情報を補足したりということが可能でした。
この「場の空気を読む」「阿吽の呼吸」といったワークスタイルは、ある程度の年代の人にとっては当たり前に会得してきたものでした。むしろ、その調整能力や補足能力、修正能力こそがビジネススキルとさえいわれていた面もあるかもしれません。
ちなみに、デジタル世代以前のワーキングスタイルは、現代の人から見るとかなりアナログな作業と思考に塗り固められている面が否めませんでした。報告書1枚を書くにしても、まずは紙で書き、それをパソコンの画面に入力しないとなかなかできなかったものです。
それが今は、パソコンの画面に向き合い、思考しながら並行してアウトプットしていくビジネススタイルが当たり前になっています。スマートフォンで論文を書くことさえできる世代にとっては、いたって普通のことかもしれません。
そんな状況のため、かつて活躍してきた人たちにとっては、現在のオンライン会議では調子がつかめず、発言しようにも発言できないというような人もたくさんいると思います。
私たちもこれまでは、対面での打ち合わせが大半でした。しかし今回の新型コロナの影響もあって、オンライン会議を頻繁に行うことになり、参加メンバーに発言を促したり、意見を確認したりといったファシリテート・スキルはずいぶんと身についてきました。
オンライン会議の中で参加者の声を拾うために、1人ずつに話題を振り、参加者のそれぞれの得意分野の話をしやすいように発言を補助する。そんな工夫ができるようになってきましたが、まだまだオンラインツールを活かしきれていない人も多いのではないでしょうか。
デジタル技術が広く普及
テレワークが発達することで、Zoom・Slack・Google Meet・Microsoft Teamsなど、オンライン会議ツールが一気に浸透してきています。
これらのツールは、その存在を知っていても、積極的にビジネスで利用する人は限られていました。言い換えるならば、ITが苦手な人はツールを使わなくても日常業務が処理できていたということです。
それが新型コロナの影響で、パソコンやスマートフォンと同様になくてはならないものになり、「苦手だ」と口にしていた人たちも使わざるを得なくなりました。これからのビジネスにおいて、この変化は大きな意味を持つはずです。
ただ、そうはいっても、日本のテレワーク普及率は世界各国と比べてまだまだ低いものです。2020年の野村総合研究所の調査によると、「新型コロナ以前からテレワークをしたことがあり、感染拡大後もテレワークをした」「新型コロナ以前にテレワークをしたことがなかったが、今回初めてテレワークをした」と回答した人の比率を見ると、日本は31%と、調査した8カ国の中で最も低いポイントになりました(2020年7月調査)。
もともと日本はテレワークの割合が低い国でしたが、新型コロナによってテレワークに移行した人の割合も各国に比べてみても低いことが分かります。
同研究所の報告では、ロックダウンが厳しい国ほどテレワーク利用率が高いという相関を述べていますが、それ以前に日本特有の変化を好まない文化、既存の方法を踏襲しようとする慣習が見てとれるような気がしてなりません。
ITを駆使して日本が目指すべきこと
いずれにせよ、こうしたオンラインツールは今後も急速に、そして確実に普及していきます。この原因は、もちろん今回のコロナ禍によるテレワークの浸透にほかなりませんが、新型コロナが収まったとしても、元のビジネス形態には戻らないと私たちは考えています。
コロナ収束後も、いつ疫病や災害に見舞われるか分かりません。地震の多い日本においては、かつてのような大災害が起こらないとも限りません。そんな場合に備え、やはりあらゆる脅威に強い社会を目指すべきでしょう。
では、脅威に強い社会とはどういうものでしょうか。
そこで重要になる技術の1つが、「デジタルツイン」というものです。
これは、リアルの世界と同じ環境をバーチャルの世界に設定し、あらゆる要素をITの力で予測しつつ、リアルの世界に活かしていく空間のことです。こういった技術を駆使し、より先を見た社会がこれから浸透してくるはずです。
今回のコロナ禍で、緊急事態宣言が出たとしても、街の人出が減らない、なかなか出社率が下がらないなどの問題点が、対策を打ったのちに表れるケースが見られました。また、テレワークに切り替えたことで、慣れない環境に適応できず、体調面や精神面で悪い変化が生じてしまった人もいたと聞きます。そういった問題を繰り返すことは避けなければなりません。
そんなときに、サプライチェーンや製造、都市の分野で始まっているデジタルツインなどの仕組みをテレワークにも駆使することで、予測しうる問題への解決策を特定するリテラシーを高める努力が必要です。
そうすることで、今後オンライン主体のワークスタイルに変わったとしても、みんなが快適に働き、暮らせる社会につながっていくのです。
こうした変化はどれくらいのスピードで達成されるか分かりませんが、今後目指すべき方向の1つになることでしょう。
アクセンチュアの通信・メディア・ハイテク本部マネジング・ディレクターとして活躍後、起業。コンサルティング人材・起業家ネットワークを活かし、さまざまな企業の課題解決、新たな価値創出に邁進中。 趣味は、お気に入りのスマートウォッチ、イヤホン、シューズで走ること。