本記事は、吉田貞信氏の著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

ものづくり
(画像=PIXTA)

世界を席巻した日本のものづくり

「ものづくり大国日本」

この言葉を聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。

最初に思い浮かぶのは、1960年代から80年代にかけて、世界中に「Made in JAPAN」としてその存在を知らしめた家電や自動車といった工業製品のものづくりでしょうか。

米国の社会学者エズラ・F・ヴォーゲル氏が、79年のベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン』において、経済分野での日本の競争力の高さを分析し、アメリカが学ぶべき模範として日本のものづくりがもてはやされた時代です。

日本人は持ち前の勤勉さや研究熱心さによって、欧米の先行する工業製品に学び、より安く、たくさん、そして高品質にという点で世界の市場を席巻していきました。

日本のものづくり神話のイメージは、この時代と紐づけられることが一般的です。しかし実は、そこから遡ること約100年前に、日本のものづくりが世界から注目を集めた時代があったことをご存じでしょうか。

それは「ジャポニスム」というムーブメントとして語られた、江戸末期から明治の時代です。

日本は長い鎖国政策を解き、欧米列強と本格的な交易を再開しました。パリやロンドンの万国博覧会への展示品や輸出品などをきっかけに、日本の美術品や工芸品、絹織物、紙製品、扇子、傘、喫煙具、木版印刷などが、当時の文化の中心であったヨーロッパの人々へと広がりました。

マネ、ゴッホ、モネなど当時の先端アーティストや文化人を筆頭に、欧州各国の文化や風俗を担った富裕層から中産階級を含めた社会全般の人々が、日本でつくられたさまざまな物品の独自性やその技巧のクオリティの高さに魅了され、影響を受けるようになったのです。

一度目は手仕事を中心としたものづくり。

二度目は工業生産のものづくり。

日本のものづくりはその形を変えながら、世界の人々に評価され、その存在感を発揮してきたのです。

アップデートが遅れた日本のものづくり

このように過去2度にわたり世界から高い評価を得た日本のものづくりも、バブル崩壊をきっかけに元気をなくしていきました。

自動車と並び日本のものづくりの象徴だった家電は、技術力を活かした「安くて高品質」を売りに、成功の階段を駆け上がってきました。しかし、中国をはじめとした新興国の工業力、技術力が増すにしたがい、その優位性に陰りが見えてきました。特に、デジタル家電の時代が訪れると、その傾向に拍車がかかりました。

デジタル技術は、短期間でコモディティ化を加速させています。シャープの液晶テレビを思い出してください。

2000年代に「世界の亀山」ブランドと称されて一時代を築きながら、2010年代には韓国や中国のメーカーに技術力で追いつかれ、価格競争に飲み込まれました。その後、16年に台湾の鴻海精密工業に企業買収されたのは、記憶に新しいところでしょう。

このような大規模なものづくりだけでなく、手仕事の分野でも同様の停滞や競争力の低下が起きています。

バブル崩壊後内需が伸び悩むなかで、日本企業は高コストの国内の職人に見切りをつけ、中国やアジアの国々を中心とした低コストの地域に生産拠点を移し、仕事を移管していきました。

また、一部の手仕事は切り捨てられる一方で、伝統工芸は文化保護の名の元に化石のような存在として祭り上げられることで、産業からは切り離された存在となってしまいました。

このような流れのなかで、日本国内の優れた職人技術の多くはきちんと伝承されずに失われていきました。細々ながら生き残っていた職人たちも、「背中を見て覚えろ、技は盗むもの」という旧態依然のスタンスのまま、技を磨くことも後継者を育てることもできない状況が生まれてしまいました。

世界を席巻した2つのものづくり、そのどちらもが危機的な状況に晒されているといえます。

「大量生産大量消費」時代の終焉

欧米企業に追いつき、追い越した日本のビジネスモデルは、今度は中国や後発の新興工業国に追い越されてしまいました。

さらに、少子高齢化や人口減少が追い討ちをかけ、先細り感がますます強くなっていくなかで、日本のものづくりを取り巻く状況はさらに苦しいものになっていくように思えます。

では、そんな日本のものづくりに未来はないのか。かつて輝きを放ったチカラを武器に、再び活力を取り戻すことができないのか。

その手がかりは、高度経済成長の時代を支えた大量生産大量消費の考え方から脱却し、意味と価値に基づく新しい時代、ものの豊かさを超えた、心の豊かさの時代の「ものづくり」にアップデートしていくことではないでしょうか。

心の豊かさの時代とは何か、そのアップデートとは何なのかをこれからお話ししていきます。

ふるくてあたらしいものづくりの未来
吉田貞信
アーツアンドクラフツ株式会社
取締役・ブランド事業部長
株式会社NTTデータ、株式会社フロンティアインターナショナルにて、IT・広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど、多数のプロジェクトに従事。
2010年にアーツアンドクラフツ株式会社の設立に参画し、ジュエリーブランド「ith」の事業開発を担当。自社での実践を通じた独自のブランド開発メソッドをもとに、本書を執筆。

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