上手くファンドを活用し、ファンドをパートナーとして事業承継やIPOを成功させるオーナー企業が増えています。
かつてのテレビドラマの影響もあり、「ファンド」と聞くと身構えてしまう方もいらっしゃるでしょう。しかし実際問題、敵対的な手法で乗り込んでいっても企業の価値を上げることはできず、事業承継は上手くいきません。現在のファンドは、多くの業界で中小企業の成長に欠かせない、社会インフラとなっています。
全4回の当連載記事では実際の事例をもとにオーナー企業がファンドを利用するメリットをインタビュー。オーナーの意向に沿って「山木工業」へ資本参画し、ご要望に沿って「上場企業の傘下にグループ入り」するまでのプロセスに関わったMCPキャピタルのメンバーが語ります。
第1回の今回は、主担当だったMCPキャピタル永藤氏に、他のファンドとの違いや「山木工業」を支援するに至った経緯などを伺いました。
(企画・インタビュー:日本M&Aセンター 大澤卓也、山本拓宜、執筆:山岸裕一、編集構成:上杉桃子)※本インタビューは2021年3月に実施
監査法人トーマツに入社。法定監査業務の他、IPO支援や各種財務アドバイザリー業務に従事。その後プライスウォーターハウスクーパースに入社し、ハンズオンでのコスト削減・業務改善・事業再生等のアドバイザリー業務に従事。2015年10月、MCPキャピタル(旧:みずほキャピタルパートナーズ)に参画。製造業・建設業等の投資業務に携わる。
三菱UFJ銀行に入行。支社での法人営業を経て、本部にてフィナンシャルアドバイザリー業務に従事。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券M&Aアドバイザリー・グループへ出向し、フィナンシャルアドバイザリー業務に従事。2019年9月、MCPキャピタル(旧:みずほキャピタルパートナーズ)に参画。製造業・建設業等の投資業務に携わる。
課長 大澤卓也
プライベートエクイティ・ファンドの使命は企業価値の向上
――MCPキャピタル様の特徴から教えてください。
MCPキャピタル・永藤(以下、永藤):私たちMCPキャピタルは、大手金融機関を株主に持つプライベートエクイティ・ファンド(以下PEファンド)です。設立は2000年で、ファンドとしては黎明期からある「老舗」の部類に入ります。
「プライベートエクイティ・ファンド」とは、投資家などから集めた資金を基に中小企業などの非公開株式を取得した上で経営に深く関与。企業価値を高め、最終的には取得した株式を第三者への譲渡又はIPO(新規株式公開)することでキャピタルゲインを得る投資ファンドのことを指します。
近年PEファンドは、事業承継を支援する存在としての役割がより高まっています。具体的には、オーナー様からのご要望でオーナー企業の株式を取得し、企業価値を高めて次の株主を探すこと。あるいはIPOまでご支援することです。
――数あるファンドの中で、MCPキャピタル様の強みはなんでしょうか?
永藤:1つは、「企業価値の向上」に関わる平均期間が、一般的なファンドの平均期間よりも長いこと。もう1つは、株式譲渡を考える「出口戦略」において、他の事業会社などへの譲渡よりも、上場を通じて株式を市場で譲渡する割合が過去の投資先の約半数と高いことが強みです。
例えば、ある企業がある企業をM&A(合併と買収)し、元は異なるカルチャーだった企業同士を統合していくプロセスはかなりの時間と労力を要します。一般的なファンドは3〜4年のスパンで行いますが、その期間内では統合プロセスをやりきることはなかなか難しい面もある。一方、当社はオーナー様に寄り添い積極的にご支援していくため、5年を超えるケースが多いんです。
また、「独立性を維持したまま会社を残したい」とのオーナー様のご要望も少なくありません。その場合、事業会社への譲渡では要望を満たせないため、当社が抜けたあとも市場から評価される会社として自力で成長できるよう、IPOを積極的にご支援しています。
――ベンチャーキャピタルとは何がちがうのでしょうか?
永藤:投資対象とする企業様のステージが大きく異なります。ベンチャーキャピタル(以下 VC)の場合は「今後成長し、急拡大するベンチャー企業に対して投資する」点が大きな特徴です。
一方、私たちのようなPEファンドは出口戦略がIPOであったとしても「もともと安定的で手堅い事業をお持ちの企業に対して、私たちが介在しテコ入れすることで更に企業価値を高め、IPOまで持っていくこと」にフォーカスしています。
既存事業の手堅さと、私たちが付加価値をいかに発揮できるか、この両面の視点から常に投資判断を行っています。
また、当社は投資先企業に常駐して、ファンド都合の無理な要求やゴリゴリと仕組みを注入していくようなスタイルではありません。いわゆる「ハゲタカファンド」のイメージとは大きく異なる部分かと思います。
改善余地の伸び代があるほどファンドは投資に前向きに
――山木工業の譲渡オーナー様とMCPキャピタル様が関係するきっかけは何だったのでしょうか?
永藤:日本M&Aセンター様から提案をいただいたのがきっかけです。譲渡オーナー様からのリクエストは「大手企業の傘下で一緒になる」ことでした。
つまり「家業から企業」への脱皮を図り、より盤石な体制を築くことが最大の目的だったのです。
ただ当初は引き受けていただける良いお相手がなかなか見つからなくて。というのも当時の山木工業様は、そのままの事業体では大手企業と組むには差があり過ぎたんです。ビジネス面でも組織面でもより強くする必要がありました。
「大手の傘下に入る前にまず、ファンドと組んで企業価値を高めたほうがいい」と日本M&Aセンター様が判断され、当社に紹介してくださったんです。
――山木工業様の第一印象は?
永藤:まず、一般論として、我々が投資判断を行う際は「既存事業の収益の持続性」と「成長性」の2軸で検討します。これはどの事業や業界でも同じ判断基準です。企業としての特徴や他社には真似できない参入障壁が高い強みがあれば好材料として捉えます。
加えて、私たちが関わることで売上やコスト面で改善が見込める余地があるかどうか。必ずしも右肩上がりに成長する必要はなく、改善余地の伸び代を判断基準として見ています。
そういった観点から見て、まず驚いたのは、山木工業様の収益性の高さでした。全体として建設業は受注段階での競争が激しく、利益を出しづらい構造になっています。また、プロジェクトごとに収益の変動が大きい傾向にある土木建設業は我々の価値提供が難しい傾向にあります。つまり、投資対象としてはかなり厳しい目で見ざるを得ません。
山木工業様はそのイメージとはだいぶ差がある高収益企業でした。
それから山木工業様の収益性が高い理由を分析・調査した結果、特定の工事業域において受注に優位性があることが収益性の高さの背景であることが分かりました。関係者へのインタビューを重ねるなどして受注の継続性を検討したところ、その工事領域の工事需要と受注の継続性に問題なしと判断しました。また、調達管理等に原価改善余地があることもわかり、最終的に投資実行するという判断にいたりました。
土木建設業界において、山木工業様は、ファンドのご支援が上手く機能すると判断したレアケースです。
当然、譲渡オーナー様が、出口戦略に向けて「MCPキャピタルはしっかりやってくれそうだ」と判断いただけるかどうかも重要です。
これらのプロセスを経て投資判断を決定し、検討開始から3カ月後に私たちは山木工業様への資本参画しました。
――今日のお話は全体的に、とても丁寧な印象を受けました。
ファンドの仕事は、特に私たちの場合は、みなさんが思っている以上にウェットで、信頼関係を大事にしています。
外部の人間がズカズカと入ってきて、あれをしろこれをしろと事情も知らずに指図だけして、数字だけをみて厳しいことを言う。
そんなイメージをお持ちの方もいるかも知れませんが、私たちは一緒に汗をかきながら形にしていく、お手伝いをさせていただくスタンスです。
――ありがとうございます。次回第2回は、投資決定後からどのように企業価値を高めていったのか、具体的に伺います。
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