上手くファンドを活用し、ファンドをパートナーとして事業承継やIPOを成功させるオーナー企業が増えています。
全4回の当連載記事では実際の事例をもとにオーナー企業がファンドを利用するメリットをインタビュー。オーナーの意向に沿って「山木工業」へ資本参画し、ご要望に沿って「上場企業の傘下にグループ入り」するまでのプロセスに関わったMCPキャピタルのメンバーが語ります。
第3回の今回は第2回に引き続き、主担当だったMCPキャピタル永藤氏と山木工業 代表取締役社長 小峰良介氏に、社長就任時の苦労話などを伺いました。
(企画・インタビュー:日本M&Aセンター 大澤卓也、山本拓宜、執筆:山岸裕一、編集構成:上杉桃子)※本インタビューは2021年3月に実施
社長に就任してすぐに分かった課題の数々
――小峰社長は、就任時に譲渡オーナー様(前代表取締役社長)から何かアドバイスはあったのでしょうか?
小峰:「あまり急いでやらないで」と。それから、大阪で暮らしていた私の妻も一緒にいわきへ連れてきてほしい、というのが唯一の条件でした。
永藤:山木工業様は3代続いた歴史ある会社ですから、「地域や周囲からの見え方」を重視されるんです。小峰さんが単身でいわきへ来ると、期間限定の雇われ社長のような見え方になってしまう。
そうならないよう、家族とともに根を張って生活している必要がある。この調整は難航しましたが、小峰さんが腹を括って来ていただきました。
――小峰さんが社長に就任した際は、どの程度、整理が済んでいたのでしょうか?
永藤:前回述べた通り、社内の管理体制は、私たちが型を作っていました。一方で、ビジネスの舵取りを行う部分、例えば、今後の見通しを話し合うことや、見込み案件の状況を踏まえての人の稼働や必要な動きをどうするか。
当時はまだ、社内にそうしたタスクを前に進められる人材がいなかった。
その点でも我々は小峰さんに期待していたわけです。それこそ、案件管理表を自ら制作されたところから始められていましたから、もう期待以上の働きをしていただきました。
――入社してから、小峰社長はどのようなことから着手を?
小峰:まず、最低限のことをみんなができるようになることから始めたんです。パソコンがただのワープロソフトみたいな使われ方しかされていなかったし、エクセルも非効率な使い方をしていました。そもそも、過去のデータベースもなかったので、工事実績や帳票のデータベースを営業のメンバーに作ってもらって、そこをまとめるところからスタートしました。
もちろん、いきなり大なたを振るって改善していくと反発が生まれますから、社員の特性を把握しながら慎重に進めたのはいうまでもありません。
前回お話が合った通り、山木工業様の場合はかなり好調に収益が出ていました。つまり、焦らずじっくりと進める猶予があったんです。そこで、社内のキーマンである部門長と話をすることから始めて現状を把握し、課題を明らかにしていきました。
2020年4月、正式に山木工業の代表に就いてから、全所長40名ほどと面談し、それがターニングポイントとなり、私もエンジンをかけてアクセルを踏み始めました。社員たちとは、面談は当然ながら、最初は酒を酌み交わす飲みニケーションから入りました。現場にも顔を出し、全員の顔と名前が一致するまでに2年ほどかかりましたね。
――ファンドとして新しい経営者を探したり、人材を確保したりするのはどのように行うのでしょうか?
永藤:私たちの場合、過去の投資先等のファンドネットワークやプロ人材専門の人材会社から案件ごとに採用活動を行っています。
――オーナー様が自ら社長となる人材を見つけてきてもいいのでしょうか?
もちろんです。ただ、私たちのようなファンドが関わる場合と、オーナー様が直接採用活動を行う場合では、過程に決定的な違いがあります。
1つは、オーナー様が招へいされた社長には個人保証、つまり会社の借入・負債に対しての保証が銀行等の金融機関から求められる場合があります。つまり、招かれる人材側のリスクが非常に高い。
一方でファンドが関わっていれば、個人保証を行う必要はありませんので、心理ハードルが低くて受け入れやすい。
もう1つは、後継者候補として招へいされる人材が、元オーナー様や企業、社員と馬が合うかどうかという違い。一見、オーナー様が招へいした人材の方が上手くいくように思われがちですが、こと経営になると実の息子さんですら軋轢が生じることが珍しくありません。それだけ、事業承継には相当の当たり外れがある世界です。一方、ファンドが間に入っていれば「大株主」として緩衝役になることができます。冷静な第三者が間に入るメリットは大きいと思います。
また、就任前に私たちファンドが経営の分析、社内体制の整備が済ませていますから、どこから手を付けたらいいのかも迷うこともありません。就任してすぐに経営に集中することができます。一方で、招へいされた経営者の場合、オーナー様からの一元的な説明を受け、実情を調査するところから始めなくてはなりません。また、山木工業様のように経営状態が良好な会社ばかりではありません。時には、経営活動を行いつつ、企業価値を高める施策を計画、実施しなくてはならないため、経営者にとって負担がかなり大きくなることは間違いありません。
また、経営者の方にとってもファンド経由での招へいにメリットを感じている方もいます。というのも、プロ経営者としてのキャリアにとってファンド案件は自身の実績につながるため、自身の市場価値を上げる観点で参画される方もいらっしゃいます。
つまり、私たちが一枚噛むことで、地方のオーナー企業の場合は特に、後継者候補を探す際により多くの選択肢の中から有利な採用活動を行えるようになるのです。
――ありがとうございました。次回最終回は、いよいよイグジット(上場企業への譲渡)です。どのようなプロセスを経たのか、具体的に伺います。
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