中国の長者番付『胡潤百富』の最新版が2021年10月に発表された。アリババグループのジャック・マー氏や恒大集団の創業者、許家印氏など、ランキング上位の常連である富豪が大きく順位を下げた一方で、バイトダンス創業者や電気自動車(EV)バッテリー会社の会長を含む4人が初めてトップ10入りするなど順位が大きく変動した。総体的にはビリオネア数、資産ともに過去最高となった。
「中国富豪番付トップ10」 富豪数は過去10年で3倍に
今回で23回目となる『胡潤百富2021年』は、純資産20億元(約354億5,924万円)以上を保有する中国の富豪を順位付けしたものだ。同報告書によると中国の富豪は前年から520人(22%)増の合計2,918人、総資産額は24%増の5兆3000億ドル(約600兆7,011億円)となった。
10年前と比較すると、富豪数は3倍、総資産額は6倍に増えた。コロナ禍の経済回復や脱炭素社会への取り組み拡大を受け、新たな需要が市場に生まれたことによるものと思われる。以下が、中国で最も裕福な10人のランキング結果だ。
新生上位3人中、2人は初トップ10入り
ジャック・マー氏や馬化騰氏を抑えて首位に輝いたのは、時価総額666億ドル(約7 兆5,489億円、2021年11月26日データ)を誇る中国大手飲料企業、農夫山泉の創設者、鍾睒睒氏である。昨年トップ3入りするまでは国外ではあまり知られていなかったにも関わらず、瞬く間に資産を増やして中国一の富豪となった。
同氏は農夫山泉のほかに、スプレー式コロナワクチンの開発を進めている上場企業、北京万泰生物薬業も経営しているマルチ起業家だ。両社の時価総額が昨年からそれぞれ10%、40%上昇したことが、同氏の資産を7%押し上げた。
2位は世界的に人気のショート動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の親会社であるバイトダンスの創業者、張一鳴氏だ。月間アクティブユーザー数が19億人に達するなど(ニュースアプリ「Toutiao」、中国版TikTok「Douyin TikTok」含む)の驚異的な成長が追い風となり、同氏の資産は昨年の3倍に増加している。26も順位を上げて一気に2位へ躍り出た。
順位を21上げて3位となったのは、電気自動車(EV)向け電池メーカー、CATLの会長、曾毓群氏だ。EV社会へのシフトを受け、同社の2020年の売上高は503.2億元(約8,920 億6,053万円)で前年比9.90%増となった。純利益は、前年比22.43%増の55.8億人民元(約989億2,086万円)を計上した。
その他、中国大手SUVメーカー、長城汽車の魏建军会長と妻の韩雪娟氏は89位から7位へ、長江実業グループの李嘉誠会長が8位となった。
政府の規制強化でIT富豪の資産縮小
もうひとつ今回のランキングで注目されているのは、これまでランキング上位に位置していた常連の後退だ。
謎の失踪事件で世間を騒がせたジャック・マー氏、テンセントの馬化騰氏といったIT富豪は、中国政府のIT企業締め付け強化のあおりを受けて資産が縮小した。金融子会社アントグループが昨年11月、土壇場で香港上場を延期したことが引き金となり、アリババの株価は過去1年間で半分以下まで下落した。
一方、2月中旬に1兆ドル(約113兆3,345億 円)に手が届きそうだったテンセントの時価総額は、11月27日現在4兆4000億香港ドル(約64兆6,100億円)まで落ち込んでいる。
2017年には首位になったこともある不動産開発大手恒大集団の創業者、許家印氏は、昨年5位から70位へと大転落した。巨額のディフォルト(債務不履行)は何とか回避したものの、今後も社債の利払いや償還が控えており、経営の危機は依然として続く。
その他、大手不動産開発カントリーガーデンホールディングスの大株主である楊惠妍氏や、網易(ネットイース)の創設者兼CEO、ウィリアム・ディン氏などが圏外落ちした。不動産関連の富豪がトップ10入りしなかったのは、ランキング開始以来初だ。
未来のトップ10候補にも注目
未来のトップ10候補も注目を集めている。コロナ禍で飛躍的な成長を見せている半導体産業では、ウィル・セミコンダクターの会長、Yu Renrong氏の資産が45%増えて124億ドル(約1兆4054億円)となった。
また、520人中326人が40歳以下(70人増)、そのうち28人が30歳以下(1人増)と、若い層の富豪が増えており、さらなる勢力図の変化が予想される。ちなみに、11月にバイトダンスの会長を辞任した張一鳴氏も、若くして巨額の財を築いたセリフメイド富豪の一人である。
世界が混沌と激動の時代に突入した今、中国の資産家を取り巻く環境も急激に変化している。2022年の長者番付は、再び顔ぶれがガラリと変わっているかもしれない。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)