有形商材営業マンと無形商材営業マンを採用するときに注意すべきポイント
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世の中の商品は2種類に大別される。実際に手に取って触ることができる有形商材と、形がなく触って感じることができない無形商材である。この2つの商材の営業に携わった営業マンではスキルの身につき方に違いが生じる。
今回は、具体的にどのような違いがあるのかを説明するとともに、キャリアチェンジをする方や営業マンを採用しようとしている方が注目すべきポイントを紹介していく。

本物の「上司力」
大村 康雄(オオムラヤスオ)
株式会社エッジコネクション 代表取締役

延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1200社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。

有形商材とは?

まず、認識の相違が出ないよう有形商材とは何を指すかを説明する。

端的に言えば、今皆さんの視界に入っているもの。それがすべて有形商材だ(もちろん人間は除く)。現代社会においては、ほぼすべてのものが貨幣で購入されたものであるはずで、それはつまりどこかの企業の“商材”である。

また、昨今ではアプリやウェブサービスといったパソコンやスマートフォンの中にしか存在しない商材も存在する。これらも視界に入るので、厳密には形あるものではないかもしれないが有形商材と定義する。

無形商材とは?

次に無形商材についてだが、有形商材に該当しない商材はすべて無形商材と定義して話を進める。

具体的には、研修、コンサルティング、カウンセリング、保険、住宅警備サービスなどが無形商材に当たる。とにもかくにも目に見ることができないということが無形商材の特長である。

有形商材を営業するときに必要なスキル

有形商材を営業するときのポイントは、何と言っても形が見えることである。消費者はどのような商品なのか手に取って見ることができるし、パッケージなどから特長なども推測できる。端的に言えば、商品そのものが営業マンになってくれるのだ。場合によっては、コンビニの商品が勝手に売れていくように営業マンがいらないケースもあるくらいだ。

よって、営業マンがやるべきことは、「いかにその商品を魅力的に紹介できるか」が大きなポイントになる。その消費者が自分の目の前に現れた経緯がどうであれ、その商品が良いと思えば購入してくれるわけなので、商品の良さを120%わかってもらえるかどうかが売れるかどうかを左右する。

そうすると、商談時に必要なスキルは、プレゼン力、商材にまつわる知識、悩んでいるお客さんの背中を押すトークといったところになる。

無形商材を営業するときに必要なスキル

次に、無形商材を営業するときに必要なスキルについて説明する。

無形商材なので、文字通り形がない。見えない。よって、有形商材のように商品そのものが営業マンになってくれることは難しい。
もちろん、パンフレットなどの説明資料は準備があるだろう。しかし、パンフレットだけを見て、研修やコンサルティング、保険などの契約を決めるだろうか。みなさんの実体験としてもNOだろう。
つまり、必ず営業マンの商談力で補足しないと無形商材が勝手に売れるということはないはずだ。

では、営業マンはどんなスキルが必要なのだろうか。

あなたがコーチングを受けるとして、ちょっとこんな想像をして欲しい。2人のコーチにトライアルを受けたところ、それぞれに対してあなたはこんな印象をもった。

  • 著名経営陣の実績多数だが、あまりこちらの話を聞いてくれずにアドバイスもしっくりこないコーチ
  • 実績がまだない駆け出しだが、真摯に話を聞いて寄り添ってくれてアドバイスもしっくりくるコーチ

前者の実績多数のコーチが特別割引中で料金が同じとしたとき、あなたはどちらと契約したいと思うだろうか?

実績多数のコーチの方を信じて、しっくりこないアドバイスに従い続けてみるという考え方もあるかもしれない。だが、全体としては後者と契約したいと思う人が多い、もしくは、少なくともどちらにするか迷うのではないだろうか?
話を聞いて寄り添うことで、実績多数コーチと駆け出しコーチが同列に立てるのだ。

これが無形商材を営業するときに必要なスキルである。つまり、傾聴力、共感力、課題の発見からその解決策までをつなげる論理力といったスキルである。

有形と無形の違いにより成長するスキルが違う

有形商材と無形商材の違いに関わらず、商談は以下の流れで進み、成約に至る。

①名刺交換や来店など初回接触
②ニーズまたは購買欲求の明確化
③商品(サービス)選定
④質疑応答など最終調整
⑤成約

この流れと上記の有形および無形商材の営業に必要なスキルを見比べると、以下のようなことがわかる。

  • 有形商材では③④のステップに重きが置かれ、有形商材営業マンはおのずと商品説明や質疑応答の経験値が溜まっていく。
  • 無形商材では②が重要となり、無形商材営業マンはニーズを明確化させるためのトーク展開の経験値が溜まっていく。

このように、同じ営業マンと言っても営業していた商材により、蓄積していった経験値、ひいてはスキルが全く異なるのである。

容易ではない営業商材が変わるキャリアチェンジ

このように、営業していた商材が有形か無形かにより育つスキルは全く異なる。

転職や採用において、法人向け営業経験者か個人向け営業経験者かの違いや、新規開拓経験者かルート営業経験者かはよく注目されるが、この営業商材の違いはあまり重要視されていない。
しかし、ぜひこれらと同じかそれ以上に「どんな商材を営業していたか」にも注目してほしい。

有形商材→無形商材の際のハードル

有形商材の営業では、商材をアピールすることで成績をあげることができる。
しかし、無形商材を営業する際は、商材のアピールの前に課題感の共有、端的に言えば「この人に任せれば安心だ。」と思ってもらえるところにたどり着くことが至上命題である。

有形商材の営業経験者はこの経験が乏しいため、ここがまずはハードルになることが多い。
「商品さえ良ければ売れる。」という意識が抜けきらないのである。
先のコーチングの例のように、商品が良くてもすんなり売れていかないのが無形商材なのだ。

また、有形商材では、「お願いだから買ってください。」と頭を下げる営業をもし行っても、商品が良ければなんの問題もない。
その感覚が抜けず、「お願いだからコーチングさせてください。」という営業をするとどうだろうか?成約が取れないのはおわかりいただけるはずだ。
無形商材が成約に至るためにはお客さんの方が『お願いしたい』というスタンスになる必要があるのだ。

このように、有形商材と無形商材でお客さんとのあるべき立ち位置が異なることもハードルになる。

無形商材→有形商材の際のハードル

無形商材の営業では、お客さんのニーズや課題感の明確化、信頼感の醸成が必要不可欠なのは何度も述べた。
しかし、有形商材には、衝動買いというものも存在する。「なぜ買うのか?」ということを突き詰めると、逆に購買意欲が下がるケースも存在するのだ。

ニーズを掘り下げていくのではなく、その場のお客さんの感情、情動を大事にし、そのまま購買につなげていく。これは有形商材において成立する購買パターンであり、これを理解、会得しないと成立するはずだった契約をみすみす逃してしまう。

また、有形商材の営業においてあくまで主役は商品である。
実際、有形商材と無形商材の購入経験を振り返ってみると、ブランド品や車、家などの高額商品を除き、印象に残っている営業マンは無形商材の方が多いのではないだろうか?

それはニーズの明確化や信頼感の醸成という過程において営業マンの印象が強まった結果であり、有形商材ではそのプロセスの重要度が無形商材ほど高くはないため、結果として有形商材の営業マンは印象に残りにくくなってしまうのである。

この点に物足りなさを感じてしまう可能性があるのも、無形商材から有形商材の営業に移るときのハードルである。このハードルを感じないためには、よほど思い入れのある商品の営業に携わることが重要になってくる。

キャリアチェンジでの採用をする際のチェックポイント

以上のことを踏まえて、有形から無形、無形から有形へ、営業商材の特性を変える営業マン採用を考える人へ、実際に実行に移す前に考えて欲しいポイントを紹介する。

有形商材から無形商材にキャリアチェンジする営業マンを採用する際に考えるべきこと

  • その営業マンの成績が、販売している商品の力ではなく本当に本人の商談力によるものなのか
  • ニーズの明確化から信頼感の醸成、そして適切な提案を行うには相当なスキルが必要だがトレーニングできるスタッフが社内にいるか
  • 総じて、今までその営業マンが培ってきた営業というスキルを全否定しなければならない可能性があるが、採用する側とされる側ともにそれに耐えられそうか

無形商材から有形商材にキャリアチェンジする営業マンを採用する際に考えるべきこと

  • これから販売していく商品に愛着を持っていそうか
  • お客さんの話を聞いてニーズを明確化していく過程より商品を説明して理解してもらう過程の方が楽しいと思っているか
  • 総じて、自分という営業マンではなく自社の商品が主役であり売れていくことに喜びを感じられそうか

最後に…近年増えているIT商材について

冒頭でパソコンやスマートフォン上で動作する商材は目に見えるので有形商材であると定義した。しかし、厳密には無形商材の要素も多分に含んでいることを最後に説明しておく。

有形商材の強みは、目で見て触ることで良さがわかり、商品が営業マンになることだった。
その点でいえばパソコンやスマートフォン上で動作するサービスも、デモで使用感を体験するなどして有形商材として販売ができる。

しかし、中には、様々なバージョンやカスタマイズがあり、少し触っただけでは良さがわからないものがある。基幹システムなどがこのような部類だが、これは無形商材の要素が強く、ニーズの明確化や信頼感の醸成、適切な提案がなければ売れない。

よって、IT商材の営業マンを採用する際は、自社プロダクトが有形商材と無形商材のどちらの要素が強いかを吟味してどちらのバックグラウンドを持つ営業マンを採用すべきか決めるべきだろう。

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