要旨
「投資分析や意思決定プロセスにESG課題を組み込むことは、投資パフォーマンスの向上を図る上で欠かせず、受託者責任の観点からも求められる」とのPRIの考え方に賛同する機関投資家や金融機関は増加の一途を辿っており、ESG投資は世界的な潮流となっている。しかし、過去の実証研究を網羅的に照査したサーベイ論文によれば、実証研究の結論は様々で、ESG評価の有効性は明確には示されていない。その要因として、実証研究が実施された時期が2015年以前であり、現在ほどにはESG投資の機運が高まっていないことが挙げられる。他方、GPIFが採用するESG指数のパフォーマンスは良好で、先行きに期待が持てる結果と言える。
GSIAはESG投資を7つの手法に分類しているが、2020年時点で投資残高が最大となっているのはESGインテグレーションである。財務情報だけでなく、ESGなどへの企業の対応を非財務情報として取り込み、総合的に投資対象を評価する手法である。脱炭素などの気候変動対策や環境問題のほか、人権問題や女性登用などへの社会的な関心が高まる中で、ESG課題への取り組みが企業の財務パフォーマンスに影響を及ぼすとの認識が広がったことが背景にあり、過去4年間で2.4倍と残高の増加ペースは速い。
現時点では情報開示が不十分との指摘は多く、企業のESGへの取り組みを十分に投資判断に活かしきれていない可能性は否定できない状況だ。しかし、主要国・地域ではESGを含む非財務情報の開示拡充に向けた検討が進められている。将来的に非財務情報の開示が拡充され、比較可能性が向上すれば、ESG情報を活用する投資判断の精度が上がることも考えられる。その際には、ESGインテグレーションの平均的なパフォーマンスはESGを考慮しない投資を上回ることが期待される。