経営者が身につけたい「人を活かす経営の新常識」
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OECDが推奨する「生き延びる力」

現代に生きる私たちが初めて経験したコロナショック。世界的にワクチン接種が進み、一時は沈静化の方向もみられたものの、新たな変異種の登場や、感染再拡大の国が続出するなど、今後も予断を許さない状況です。
また、既に生じている経済活動の甚大な落ち込みによる影響からは逃れようもありません。私たちは、このコロナショックによる未曽有の危機の時代をいかに生き延びていけばよいのでしょうか。

この「生き延びる力」に関わって注目されるのが、OECD(経済開発協力機構)が2018年2月に公表した『OECD Learning Framework 2030』です。同報告は、2030年に向けて子ども達に求められる能力と、その育成内容、方法、学習評価を明らかにする作業の一環で発表されたものです。検討の背景には、今後はSDGsなどに象徴される社会課題に対峙して生きることや、AIやIoTなどの技術革命から、現存しない全く新しい仕事・技術を駆使する未知への適応力が不可欠になるという認識があります。

「生き延びる力」の定義は、「周囲に対してポジティブな影響を持ち、将来に影響を与え、他者の意図や行動、感情を理解し、自分たちが行うことの短期的及び長期的な帰結を予測することができる力」であり「変革を起こす力」とされます。これは「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマを克服する力」「責任ある行動をとる力」の3つから構成されるとします(図参照)。

経営者が身につけたい「人を活かす経営の新常識」

これらは、知識詰込み型のコンピューターやAIに代替される演算的な能力ではなく、多様な人を理解し、巧みにコミュニケーションを取りながら、共に価値を創り出し、社会課題を主体的に解決していく力です。「頭」の知能指数であるIQよりも、「心」の知能指数と言われるEQに通ずる能力とも言えるでしょう。これまでの知識偏重の受験戦争や詰込み型の教育だけではもはや通用しないのです。

このOECDの提言は2018年のものですが、目下最大の社会課題であるコロナ禍のなかで、まさに「生き延びる力」の重要性が高まっています。

30〜40代中堅に求められる青黒さ

では、これからのビジネスパーソンはどのように「生き延びる力」を身につけ、発揮すべきでしょうか。また経営者・管理職は、どのような方向に導き、支援すべきでしょうか。中堅世代とベテラン世代に分けて考えていきましょう。

まず中堅世代。ちょうど就職氷河期に就職した30代半ばから40代半ばが中心です。思うような就職や活躍が叶わずに時代を恨んでいるかもしれず、その気持ちはよくわかります。しかし、社会や会社への不満や批判ばかりでは何も始まりません。自分が、これからのウィズコロナ、アフターコロナの危機と対峙する職場の中核リーダーとなり、人と組織を動かしていく自覚を持つことが大切です。

その役割を果たすには、ぜひ「青黒さ」を身につけてほしいのです。それは、「青臭い」志と「腹黒い」戦略をあわせ持つことです。危機を乗り越えるリーダーを目指すには、自分の携わる事業やサービスが目指したいビジョンを、情熱をもって語れる「青臭さ」が欠かせません。

同時に、その実現に向けて組織を動かすためには、しっかりと戦略を立て、社内外のキーパーソンに健全な根回しをしながらタスクを遂行しきる、良い意味での「腹黒さ」も必要です。高い理想と計算高さを両立させる「青黒さ」こそ、次世代リーダーが活躍するための必須スキルです。

50代ベテランに求められる貢献心

会社の経営が厳しい時代に、ベテランの50代は本来会社を支える柱。もし、その人達が「会社は自分に何もしてくれない」と依存しているようでは、生き延びることは望めません。会社員人生も最終コーナーになると、会社に頼らず定年後も生きていく将来展望を考えるはずです。そして、自分には出来るという自信が欲しいところです。この自信を育むのに役立つのは、貢献心です。

貢献心とは、改めて顧客や組織や次世代への「お役立ち」に専心することです。“Give and Take”の力学を研究した米国の組織心理学者アダム・グラントは、仕事における人の行動を「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の3タイプに分類しています。

ギバーは、他人中心に物事を捉え、相手の求めている物を提供し、受けとる以上に与えようとする人。テイカーは、自分の利益を何よりも優先し、相手の必要より自己中心的に物事を捉え、用心深く、自己防衛的な人。マッチャーは、与えることと受け取ることのバランスを取り、中立的に行動し、相手の出方で助けたり、しっぺ返しする待ちの姿勢の人です。

職場では、ほとんどの人がマッチャーで、ポジションも給与も平均的です。注目すべきは、最もポジションと給与が高かったのが、ギバーの属性を持った人たちということ。重責を担い稼げるのは「与える人」なのです。

定年後の将来も見据えたベテラン世代は、もはや社内の職位に汲々とするテイカーやマッチャーに留まる必然はありません。会社や次世代に貢献するギバーを目指すことです。そのことが、ひいては職位によらない自分への信頼を集め、人望となり、定年後会社に頼らず生きていく自信にもつながるのです。

※本稿は前川孝雄著『人を活かす経営の新常識』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)及び『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)

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