本記事は、手塚貞治氏の著書『武器としての戦略フレームワーク』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
「論理」から「直観」の時代になって、ますますフレームワークが重要になる
なぜ「直観」が使われるのか?
人間の頭の働かせ方には、大きく「論理思考」と「直観思考」の2つがあります。
「直観(Intuition)」とは、「知識の持ち主が熟知している知の領域で持つ、推論、類推など論理操作を差し挾まない直接的かつ即時的な認識の形式」(ウィキペディア)のことであり、そうした直観による思考を本書では直観思考と呼んでいます。演繹や帰納のような合理的・分析的な論理によらない考え方と言うことができるでしょう。
直観思考の代表例は、「類推(Analogy)」です。「特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、それらの間の何らかの類似に基づいて適用する認知過程」(ウィキペディア)のことです。
たとえば、ある業界の事例を別の業界に当てはめてみる、といったことは日常茶飯事で行なわれています。また、そもそも経営における「戦略」という概念は、軍事用語からの類推です。経営も同じく戦いであるという点で類似しているということから、この概念が生まれてきたわけです。
しかし、ある業界で行なわれた成功事例が、別の業界でも成功するかどうかというのは、論理的に導けるものではありませんし、経営ですべきことが本当に軍事から導けるものかどうかはわかりません。
では、これらの類推に基づく直観思考は、無意味なのでしょうか。
もちろん、そうではありません。前述のように、人間には「認知限界」があるため、すべての事象を知り尽くすことができないからです。換言すれば、一人の人間が知り得る情報は、この世のごく一部でしかありません。そのため、必要十分な情報を揃えて論理思考によって合理的・分析的に解決できる問題は、そもそも少ないわけです。
しかし、必要十分な情報・データが揃わない場合でも、人間は日常的に意思決定をしていかなければなりません。ましてや、環境変化が不確かななかで、将来についての意思決定を行なうという経営の意思決定は、論理的に導けるものではないわけです。こうした経営の実務の世界では、少なからず直観思考を働かせているというのが実情です。「経営はアートでもあり、サイエンスでもある」と言われる所以でしょう。
「直観」が重要となっている
そして、ますます環境が激変している、このVUCA(将来の予測が困難な状況)の時代にあっては、過去の経験則や線形的(直線的)な未来予測はますます無効になりつつあります。過去の情報をもとにした分析では、将来の打ち手は決まりません。
また、あらゆる業界が成熟化するなかで、「イノベーション」がますます必要とされています。商品開発というものは、そもそも調査分析の結果から生まれるものではありませんが、今後ますます難しいものとなっていくことでしょう。
そこで大切になるのは、「直観思考」です。できる限りの論理思考を使って分析したうえで、新たな何かを生み出すには、直観による非線形な答えが必要となっているのです。
直観を働かせるにも「枠組み」が必要
そして、その直観思考にもフレームワークは有用です。
得てしてフレームワークは、モレなくダブリなく物事を考えるためのものということで、論理思考のためのものというイメージがあるようです。みなさんの中にも「フレームワーク=ロジカルシンキング」ととらえている方が多いのではないでしょうか。
もちろん、そのイメージは誤りではありませんが、論理思考だけでなく直観思考でもフレームワークは必要なものなのです。なぜなら、思考には何らかのきっかけが必要だからです。何らかのひらめきやアイデアを浮かび上がらせるには、ただそれを漠然と待ち続けるというのではなく、それ相応のきっかけが必要となるのです。
たとえば、創造性研究の分野でも、ロナルド・A・フィンケらの研究によって、適度な制約をかけることが創造性の高いアイデアの創出を促すことが示されています。つまり、「まったく制約がなく自由に考えてください」と言われるよりも、何らかの制約があったほうが思考の焦点を絞り込むことができ、かえって豊かな発想が生まれるというわけです。要するに、イノベーションの創造にも枠組みの重要性が示唆されているのです。
このように、直観思考であっても思考の枠組みはあったほうが望ましいと言えます。フレームワークの有用性は変わることはないのです。