本記事は、天田幸宏氏の著書『個人事業主1年目の強化書』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
退職金を全額投資してはいけない
「過度な見栄は破滅を招く」と心得よ
独立・開業の準備には、それなりにお金が必要です。
しかし、それらの用途を1つひとつ精査してみると、使わなくていいところに使っていることがけっこうあります。
つまり、ムダな投資です。誤解を恐れずにその正体を表現すると、「他者からよく見られたい」という見栄や虚栄心です。独立人生において、これらとうまく折り合いをつけることはとても大切です。
何を隠そう、私自身、長年この虚栄心に蝕まれてきた1人です。必要以上に大きなオフィスを借りたこと、年会費14万円もするプラチナカードを持ち歩いて公私の境がわからないほどに使いまくっていたこともそう。
事務所もプラチナカードも手放し、等身大のスタイルに戻った今は、心身がとても充実しています。
事業の鉄則「小さく生んで大きく育てる」
長年勤めた会社を退職する際に、退職金が得られます。それを事業資金の一部として使うことは大いにけっこうですが、全額投資となると話は別です。
そもそも退職金は家族を含めた退職後の生活のために使うのが前提のはず。成功を約束された事業など、世界中どこにもないのですから、退職金を当てにした事業計画は「破滅への一歩」と心得てください。
事業の鉄則は「小さく生んで大きく育てる」です。お金がなければ知恵を使いましょう。金融機関が貸してくれないのであれば、クラウドファンディングもできる時代です。そこで問われるのは、あなたの魅力と情熱です。
「経理のプロ」を味方につけよう
「どんぶり勘定」に陥らないルールを自らつくろう
独立して間もないうちに決めておきたいのが、毎月の売上や支出をどのように管理、把握していくのかということです。会社員時代と違い、自分のルールは自分でつくらなくてはいけません。
「どうかルールのない無法地帯だけは避けて」が、私の切なる願いです。
個人事業主の場合、はじめから税理士のようなプロに依頼する人は少なく、まずは自分で確定申告するケースが多いと思います。じつは、そこに大きな落とし穴が潜んでいます。
年に一度の確定申告の直前に、あわてて請求書や領収書の整理を行って1年間の経費を把握したところで、その作業は将来の糧となる経験にはなりません。
その一方で、日頃から売上や経費を正しく把握するような習慣を身につけると、事業の金銭感覚が身につきます。
何より、このような事務作業や経理業務に苦手意識をもったまま成長することは、個人事業主として生きていくうえで大きなハンデとなります。とくにお金に関することは、事業の生命線です。
不得意だからといって避けていると、事業の成否を握る重要な情報源も遠ざけてしまうことにもなるのです。
まずは「経理経験者」に相談してみよう
毎月のお金以外でも、「あとで、まとめてやればいい」という「先送り体質」や「どんぶり勘定の体質」は一度すると身についてしまいやすいです。
そこで、早い段階でぜひ導入してほしいのが、経理の仕組み化です。
仕組み化というと大げさかもしれませんが、要は毎月しっかりと情報を把握する習慣づくりです。クラウド会計ソフトも急速に進化していますので、いまや領収書をスマホで撮影するだけでデータ化される便利な時代です。
私が最も印象に残っているのは、金融機関からコンサルタントとして独立した方です。彼は、「朝一番に前日の金銭出納帳をつけることから1日がはじまる」と教えてくれました。そこまでやる人はめったにいませんが、とても大切なことだと思います。
加えて実践してほしいのが、身近にいる「経理経験者」に相談してみることです。経験者ならではのアドバイスやチェックポイントが聞けるはずです。