本記事は、天田幸宏氏の著書『個人事業主1年目の強化書』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
「請負派」か「独立派」でいくかを見極める
請負派は業界慣習のもと、下請けになりやすい
「仕事の獲得方法」はとても重要です。あまり考えず、業界の慣習に従ったまま仕事をはじめてしまうと、その流れに逆らえないことも少なくありません。
仕事の獲得方法は大きく2つに分けられます。ひとつは発注元から請け負うタイプ。もうひとつは、自ら顧客を創造する独立タイプです。一概にどちらがよいというわけではなく、まず両者の「違い」を明確に理解することが大切です。
では、それぞれの特徴を紹介していきましょう。請負派は安定して定期的に仕事を発注してくれる発注主がいれば、十分に仕事として成立します。しかし、それと引き換えになるのが、価格の決定権です。
さらに、その業界に歴史があるほど、業界の慣習のもとに下請けになりやすい特徴があります。一度引き受けた価格を上げていくのは、とても難易度が高いです。
そのため、請負派はスキルを高めて圧倒的な能力を売りにするか、徐々に独立派の領域を広げていく努力が必要になります。
一方、独立派は自由に価格を設定できるものの、顧客を自ら開拓しなくてはなりません。「1対5の法則」という言葉があるように、新規客の開拓は継続顧客のフォローの5倍コストがかかるといわれています。
また、顧客との取引をどのように継続させていくかを自分で構築しなくてはなりません。この部分をあいまいにしたりおろそかにしたりすると、毎月のように新規客を追い求める「負のスパイラル」に陥ります。
独立派の成功パターンは「独自市場」をつくること
私の経験上、独立1年目から独立派でいくのはリスクが高いのであまりおすすめしません。そのため、請負仕事でベースをつくりつつ、少しずつ独自の領域を模索していくのがベターです。ある程度、独自領域で手応えを感じたら、徐々に比率を上げていきましょう。
切り替える見極めのポイントは、新規で獲得した顧客と継続して取引できるような仕組みが構築できるかどうかです。よほどの営業の達人でもない限り、毎月のように顧客獲得に追われるようでは、心身がもちません。
「下請け仕事」は極力受けない仕組みをつくる
「下請け根性」が染みつくと、抜け出すのが困難に
かつて、私がとあるNPOの事務局長をしていたときのことです。当時、半数以上のメンバーが、フリーランスとして企業から仕事を請け負う人たちでした。
私はメンバーからの「ある申し出」に悩まされていました。その団体では月に一度の定例会議を行っていたのですが、ある時期から「自宅から事務局までの交通費を支給してほしい」という声が上がるようになったのです。
NPOは非営利活動ですから、そんな余裕はなく最初は丁寧に交通費を支給できない理由を説明していたのですが、一向に理解してもらえませんでした。
そこで、私はひとつの結論にたどり着いたのです。「これ以上、価値観が異なる人とは働けないな……」。よくよく調べてみると、交通費を要求してきたのは大半が「請負派」の人たちで、様々なシーンにおいて発注主から交通費が支給されていたのです。
のちに知ることになるのですが、経営学の父・ピーター・ドラッカーは「嫌いな人と仕事はできるが、価値観の合わない人とはできない」という言葉を残しています。
「下請け仕事は◯割まで」とルールを決めよう
極端な例かもしれませんが、下請け仕事を長く続けるひとつの弊害がここにあるように感じます。
発注主から指示された価格や環境で長期間仕事をしていると、いつの間にかマーケット感覚がマヒするだけでなく、安定した仕事量や交通費と引き換えに、本来最も大切にすべき「自主性」を失っているように感じるのです。
そこで、私がおすすめしているのは、下請け仕事の上限に一定の割合を設けることです。上限を決めることによって、残りを独自の商品やサービスで賄う必要性に追い込まれます。
このような強制力を持った仕組みをつくることが、独立人生を長く、豊かに続けるコツです。
どんな仕事もはじまりと終わりがあります。仕事のはじまりと終わりを相手の都合で決められるのか、自分で決めるのか。これは大きな違いです。
そして、発注主の顔色ばかりうかがうことではなく、顧客の声なき声に耳を傾けることを肝に銘じておきたいものです。