「腕が痛くて上がらないわ」80歳になった母が電話口でそう言った。
母は三度の飯よりゴルフが好きで、子育てを終えてからは「ゴルフ三昧」の日々を満喫していた。しかし、ここ数年は周囲のゴルフ仲間も年をとり、一緒にプレーする人がいなくなったこともあって、めっきりクラブを握ることもなくなっていた。そんな母が先日、近所の若い夫婦に誘われて久しぶりに練習場でクラブを握ったのだ。案の定、翌日は筋肉痛で苦しんだらしい。「やっぱり年には勝てないわね」母は笑いながらそう言った。「ほら、松山英樹選手がマスターズで優勝したでしょう。それとコロナの感染リスクが低いのでゴルフが人気なのよ!」母の声を聞くと、なんとなく筆者も明るい気持ちになってくる。
実際、日本や米国などではゴルフの注目度が高まっているようだ。日本ではゴルフが、いわゆる「三密(密閉・密集・密接)」にあたらない屋外型のアクティビティとして認知されているほか、米国においても女性や若い世代のゴルフ熱が高まっており、ゴルフ用品の売上高も好調である。さらに注目されるのはテクノロジーを駆使してゴルフ産業に新たな息吹を吹き込む「ゴルフテック」の台頭だ。
今回は新たなビジネス・チャンスとして注目される「ゴルフテック(Golf Tech)」の話題をお届けしたい。
米国のゴルフ人気、女性を中心に高まる
『米でゴルフ人気が右肩上がり、初心者の35%女性-用品会社の売り上げ増』ブルームバーグのヘッドラインにそんなタイトルが並んだのは2021年12月29日のことだった。米財団法人NGF(ナショナル・ゴルフファンデーション)の暫定データによると、2020年に米国のゴルフ場でプレーされたラウンド数は5億回以上に達し、2021年は前年比で最大5%増加、新型コロナウイルスが感染拡大する前の3年間(2017~2019年)の平均値と比べると、およそ20%増加する見通しである。
NGFの暫定データで特徴的なのは、女性や18歳以下のジュニアを含む若年層、および家族連れのプレーヤーの増加である。ゴルフ初心者に女性が占める割合は35%で、18歳以下の熱心なジュニア・アマチュアゴルファーに占める女性の割合は30%に達したという。
ゴルフ用品の販売も好調だ。米ゴルフブランドの「タイトリスト」や「フットジョイ」を傘下に置くアクシュネットの2021年第3四半期(7〜9月期)の純売上高は前年同期に比べ8%増加の5億2,200万ドル(約600億円)となったほか、同じく米ゴルフ用品大手のキャロウェイゴルフの純売上高も8億5,600万ドル(約989億7,136万円)に達した。ちなみに、キャロウェイゴルフは2021年3月に「ゴルフ×エンターテイメント」でマーケティングを展開するトップゴルフを26億ドル(約3,006億 2,939万円)で買収している(詳細は後述)。
「ゴルフ×エンターテイメント」でゴルフ産業に新たな息吹
今後の展開で注目したいのが「ゴルフテック」だ。日本でもパソコンやスマートフォンなどで「ゴルフナビアプリ」と検索すると、GPS(全地球測位システム)などを活用したゴルフ用アプリの情報がヒットするが、米国ではさらに進化した商品やサービスが登場している。ここでは3つの「ゴルフテック」を紹介しよう。
まず1つ目は、米コンピューターソフト企業のデータヒンジが提供するアプリ「GOLF AI」である。「GOLF AI」はユーザーがスマホで撮影したスイングを、ビデオ分析のソフトウェアとAI(人工知能)で解析するシステムだ。「GOLF AI」ではフォームの改善に役立つアドバイスや、目標に向けた進捗状況の記録など、ユーザーのモチベーションをキープする工夫が凝らされている。特にゴルフの初心者で苦労するのがフォームの改善であるが、「GOLF AI」を活用することで楽しくレベルアップを目指すことが可能となる。