日本郵政、豪企業買収で4,000億の巨額損失 中途半端な「グローバル展開」の末路
(画像=KoukichiTakahashi/stock.adobe.com)

お正月、今年も年賀状の配達で郵便局の配達員が大活躍した。しかし日本郵政は去年、「オウンゴール」で大きな失点を喫した。2015年に自ら買収した豪州企業で巨額の損失を計上し、結局、不採算部門を売却するに至ったのだ。改めて事の顛末を振り返る。

そもそもトール・ホールディングスとはどんな企業?

まず、日本郵政が買収したオーストラリアの物流大手企業トール・ホールディングスがどのような企業なのか、簡単に説明しておこう。

同社は「航空貨物(Air Freight)」や「鉄道貨物(Rail Freight)」、「海上輸送貨物(Sea Freight)」などを手掛ける国際輸送物流会社だ。倉庫サービスや危険物保管サービスも展開している。

創業は1888年と歴史があり、アジア太平洋エリアを中心にさまざまな国や地域約1,200ヵ所に拠点を有している企業だ。一度、トール・ホールディングスの公式サイト(https://www.tollgroup.com/ja)を開いてみてほしい。日本語版ページもあるので、同社の事業がよく分かる。

日本拠点も有している。経営再建中だった物流企業を2009年に完全子会社化し、2012年にその企業の社名を「トールエクスプレスジャパン」に変更している。

なぜトール・ホールディングスを買収するに至ったのか?

日本郵政はそんなトール・ホールディングスを2015年、6,200億円という巨額を拠出して買収した。日本郵政はこの買収を足掛かりに海外展開を本格化させる計画だった。

買収当時に公表されたプレスリリースを改めて読んでみると、まず「成長著しいアジア市場への展開を中心に、国際物流事業を手掛ける総合物流企業として成長していくことを目指しています」と買収の背景が説明されている。

さらに、2014年にフランスの物流会社であるジオポストと香港の物流会社であるレントングループとの資本・業務提携を結び、国際宅配便サービスを開始していることに触れつつ、「さらなるグローバル展開を図るために、豪州の大手上場物流企業であるトール社の株式取得を行うことを決定しました」としている。

ここまでの説明で、日本郵政が海外事業に力を入れていこうとしていることがよく分かるが、ではなぜ日本郵政にはそのような方針を掲げるに至ったのか。その大きな要因が、「国内の人口減少」と「インターネットの影響」だ。

この2つの要因により、日本国内の郵便市場は縮小傾向にある。日本郵政としては、さらなる売上チャネルと収益源の獲得を目指して、海外へ乗りだそうとしたということだ。

買収の2年後に約4,000億円の損失を計上

このような狙いがあって、グローバル事業に強みがあるトール・ホールディングスを買収したことについては合点がいく。しかし、日本郵政は同社を買収後、なぜ巨額の赤字を損失するに至ったのか。

ちなみに損失額については、買収の2年後の2017年3月期に約4,000億円の減損損失を計上し、2021年3月期にはトール・ホールディングスの不採算事業の売却に伴い、674億円の特別損失を計上している。

損失計上はオーストラリア経済の減速やコロナ禍が理由?

日本郵政側は巨額損失について、オーストラリア経済の減速を挙げているほか、最近では新型コロナウイルスの感染拡大も業績の悪化に拍車をかけたと説明している。しかし、本当にそれだけが理由なのか。

報道などによれば、日本郵政側はトール・ホールディングスを買収後、日本からの人材の派遣に消極的で、このことによって両社の間で業務の効率化が進まなかったという点が指摘されている。

通常、同業他社を買収する場合は、さまざまなリソースを共有することで事業コストを圧縮させるのが定石だ。しかし、日本郵政のトール・ホールディングス買収に関しては、この点が甘かったと指摘する声が少なくない。

また、そもそもトール・ホールディングスを買収する前に、十分な議論が尽くされていなかったという指摘もある。一部メディアは、「グローバル展開」という旗印の下でとにかく形式的な買収を急ぎ、買収後の戦略策定が不十分だった可能性に言及している。

生半可な事業戦略では欧米大手に太刀打ちできない

しかし日本郵政としても、一連の巨額損失を計上するに至った動きを後悔してばかりもいられない。大事なことは、しっかりとこのことを反省・検証し、教訓とすることだ。

ただでさえ国際物流・国際輸送の分野は、欧米の大手企業が熾烈な競争を繰り広げている事業領域であり、生半可な事業戦略では太刀打ちできない。綿密に戦略を練り、用意周到にM&A(買収・合併)を行ってこそ、勝ち筋が見えてくるはずだ。

日本国内の市場は今後も先細ることが目に見えている。そのような観点からすれば、グローバル事業の成功は日本郵政の目下の最優先事項と考えてもいいだろう。日本郵政の今後の動きに、引き続き注目していきたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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