「あなたが生きているこの世界は、コンピュータによって作られた仮想現実だ」
1999年公開の米国映画『マトリックス』の登場人物のセリフである。コンピュータが作りだした仮想空間(マトリックス)で人生を送る主人公が、人類を救う救世主として戦いに身を投じる姿を描いた本作は、全世界で4億6,000万ドル以上の興行収入を記録した。2003年には続編となる『マトリックス リローデッド』と『マトリックス レボリューションズ』、2021年には『マトリックス レザレクションズ』が公開された。ネタバレになるので詳細は避けるが、「いったいどれが本当の現実なんだ!(変な日本語だが……)」と思わず言いたくなるような、驚きに満ちたストーリーだった。
2003年に前作が公開されてから18年あまり。我々が生きる現実世界でも、映画『マトリックス』の技術が実現しつつあるように感じられる。映画と決定的に違うのは、脳にデバイスを直接接続する代わりにVR(仮想現実)ゴーグルを装着するだけで、簡単に仮想空間に入りこめること。そして我々が生きる世界の「アナザーワールド(もう1つの世界)」は「メタバース(Metaverse)」と呼ばれていることだ。
米金融大手のモルガンスタンレーやゴールドマン・サックスが「将来的に8兆ドル(約921兆2,636億円)規模に成長する」と予想するメタバースは欧米の株式市場でも人気のテーマだ。たとえば、2021年11月18日に米経済誌フォーブスが『メタバースで上昇期待の米国株、「VRとゲーム」の注目銘柄』とのタイトルでメタ(旧フェイスブック)やグーグルの親会社のアルファベット、スナップチャットの運営元のスナップなどを紹介、同時にマイクロソフトやディズニーなどの複数の企業がメタバースへの投資を開始したことを伝えている。
しかし、一方で意外と見落とされがちなのが中国企業の存在である。中国の調査会社、天眼査によると昨年1年間でテンセントやアリババなどを含む1,000社以上の中国企業が、およそ1万件のメタバース関連の商標登録を申請していたことが明らかになっている。2022年1月26日付のロイター通信は、専門家の話として「中国のメタバース産業は国内巨大ハイテク企業による投資が少なく、米国や韓国に遅れを取っている」とも伝えているが、人口14億人の中国でメタバースが本格的に普及すれば、莫大な利益を創出する可能性を秘めているといえそうだ。
今回は「中国のメタバース(Metaverse In China)」の話題をお届けしよう。