この記事は2022年2月9日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「はじめての不動産投資(3)-初心者には難しい不動産 (3)権利関係が複雑な不動産(前半)~不動産に関わる代表的な権利」を一部編集し、転載したものです。

不動産投資,権利
(画像=PIXTA)

目次

  1. 1 ―― はじめに
  2. 2 ―― 物権と債権の性質は
  3. 3 ―― 初心者が出合う代表的な権利
    1. 3 ― 1|所有権
    2. 3 ― 2|区分所有権
    3. 3 ― 3|賃借権
    4. 3 ― 4|抵当権
  4. 4 ―― まとめ

1 ―― はじめに

前回の、『はじめての不動産投資(3)(2)』 では「初心者には難しい不動産」3つのうち2つ目の「オペレーショナル・アセット」について述べた(*1) 。

3つ目は「権利関係が複雑な不動産」である。結論から述べると、権利関係が複雑な不動産には手を出さない方が良い。そもそも不動産の権利関係は一般的に難しいのだが、初心者であっても、不動産に関わる代表的な権利とその基本的な内容は知っておいたほうが良い。本稿では代表的な権利である所有権、区分所有権、賃借権、抵当権について概要を説明していきたい。

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(*1) 渡邊布味子『はじめての不動産投資(3)-初心者には難しい不動産 (2)オペレーショナル・アセット』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2021年11月24日)

2 ―― 物権と債権の性質は

まず、不動産に関わる具体的な権利を説明する前に、物権と債権の違いについて述べたい。権利は物権と債権に大別できる。簡単にいうと物権は物に対する権利で、債権は人に対する権利である。難しくいうと物権は、「一定の物を直接に支配して利益を受ける排他的な権利」で、具体的にいうと、この自動車は私のものなので、私が自由に使うという権利である。

物権は、民法などの法律に定められている権利に限られ2、同一のものに同じ内容の物権は成立しないとされている。簡単にいうと、Aさんが自動車を買って単独所有した場合、他人のBさんはその車を実は私の物とはいえないということだ。共有していれば別だが、ディーラーがBさんにもその車を売っていたとすると、トラブルになる。このような場合、自分が正しい権利者であると主張するには証拠(法律的には対抗力という)が必要となり、複数の物権が主張され、トラブルになった場合は、対抗力を備えた順序で優劣が決まる。

一方で、債権は、人に対する権利であって、特定の者(債務者)に対して一定の行為を請求する権利である。債権者が何かを要求できるのは債務者に対してであり、物に対して直接的に権利は行使できず、債務者にやってもらう必要がある。このため、物権と債権が併存している場合は物権が優先する。

まずはこの違いを踏まえた上で、不動産に関わる代表的な権利について説明していきたい。

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2 民法で認められている物権は、所有権、地上権、永小作権、地役権、入会権、留置権、先取特権、質権、抵当権、占有権の10種である。

3 ―― 初心者が出合う代表的な権利

3 ― 1|所有権

所有権とは、その名の通り、物を所有する権利で、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利(民法206条)をいう。つまり所有権は物権であり、不動産では一つの土地、建物それぞれに原則として所有権は一つしか存在しない。

不動産は一般的に高額であるため、単有(1人が所有権をもつ場合)だけでなく共有(Aさんの持ち分二分の一、Bさんの持ち分二分の一など、複数人で所有し、持ち分の合計は必ず1になる)となることが多く、土地が単有(夫が所有)、建物が共有(夫と妻で共有)といった状態もありうる。

不動産の所有権は登記することによって対抗力をもつことができるが、実は絶対的なものではない。真の所有者の知らないところで勝手に登記を移すなど、所有の実態がないのに登記を備えたとしても権利者となることはできない。また、登記より真実の所有関係が優先されるので、登記を信じて不動産を買ってトラブルになったとしても原則として保護されない。

3 ― 2|区分所有権

区分所有権は、マンションなどでの一般的な不動産関係の所有権である。まず、マンションの一室など、建物に構造上区分された住居などを対象とする区分建物(専有部分)の所有権である。これに加えて、マンションの玄関やホール等の建物の共用部分を利用する権利とマンションが建っている敷地の敷地利用権がついている。つまり一つの建物に複数の所有権が存在することになるが、例外的に所有権とされている。マンションでは土地と建物(区分建物と敷地)は原則として分離して売却できない。

なお、敷地利用権は、敷地上に区分所有建物を所有するための権利であり、敷地に対する権利としては所有権、賃借権などがある。マンションの敷地が借地権であった場合は、所有権である場合より、建物の価値は低くなる。また、敷地利用権は登記すると敷地権となる。

専有部分の所有権は一戸建てと同様に単有だけでなく、共有となることも多い。

区分所有権も登記で対抗できる。

3 ― 3|賃借権

賃貸借は、アパートや賃貸マンションや店舗などを借りる際に発生する。賃貸人がある物の使用及び収益を賃借人にさせることを約し、賃借人が賃料を支払うこと及び引渡された物を契約が終了したときに返還することを約する契約である(民法601条の要約)。賃借権とはこの契約において賃借人(いわゆる入居者)が得られる権利をいい、賃料を支払う義務を果たせば契約の範囲で物(アパート)を使用収益する(入居して普通に住む)ことができる権利をいう。

賃借権は家主との契約という人に対する権利なので債権ではあるが、賃貸人に比べて弱い立場である賃借人を保護するために例外として物権化している。賃借権が普通の債権のままだったとすると、たとえば、FさんがGさんから借りているアパートが、GさんからHさんに売却された場合、Fさんは他人であるHさんに賃借権を主張してアパートに住み続けることはできない。しかし、賃借権は登記することができ、加えて、土地の場合は建物の登記、建物の場合は引渡しがあれば対抗力を備えることができる。つまり、Fさんは引渡しを受けていれば(住んでいれば)Hさんにも賃借権を主張して、住み続けることができる。

なお、賃借人が自身の使用収益権を第三者に賃貸することを転貸といい、賃貸借のみより複雑な権利関係となる。

3 ― 4|抵当権

抵当権も物権であり、自宅やアパートを購入する場合に、金融機関からの住宅ローンやアパートローン等を借り入れすると、土地建物に抵当権が設定される。住宅ローン等の元本の返済や利息の支払いを延滞した場合、抵当権が行使され、その土地建物の所有権が貸し手である金融機関に移る、つまり土地や建物を失うというリスクが生じる。住宅ローン等は返す見込みがある無理のない範囲で借入し、延滞等をおこさないようにする必要がある。

4 ―― まとめ

以上、簡単に不動産に関わる代表的な権利について説明したが、不動産に関する権利の組み合わせは実際にはかなり多く、複雑である。しかし、筆者が今回紹介した代表的な権利以外に初心者が出会う可能性は低い。権利関係が十分に理解できない場合は初心者は投資すべきではない。少なくとも信頼できる専門家のアドバイスが不可欠であると考える。

次回は具体的な権利の組み合わせを不動産の類型とともに紹介してみたい。


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渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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