近年、食品スーパーの業界で買収が相次いでいる。クスリのアオキによる岩手の食品スーパーの買収、大阪で同業2社を買収したバローホールディングスなどだ。このような買収が相次いでいるのには、共通の背景があるのか。それとも案件ごとに事情は異なるのだろうか。考察してみる。
クスリのアオキ:岩手県の食品スーパー企業など2社を買収
早速、具体的な買収案件を分析していこう。まずは、石川県白山市に本社があるクスリのアオキのケースからだ。
「ドミナント戦略」のための買収
クスリのアオキは、中部、関東、近畿、東北の各地域でドラッグストアを展開している。創業は1869年(明治2年)と古く、親会社であるクスリのアオキホールディングスは東証1部上場企業だ。
クスリのアオキは2022年1月4日、岩手県一関市に本社を置く「ホーマス・キリンヤ」と「フードパワーセンター・バリュー」を吸収合併すると発表した。
ホーマス・キリンヤは、岩手県と宮城県で食品スーパーを6店舗、衣料品店を2店舗展開しており、フードパワーセンター・バリューはホーマス・キリンヤの店舗で販売する食料品や日用雑貨の仕入れを担っている企業である。クスリのアオキは岩手県に2020年に進出しており、この2社の買収で岩手県や宮城県における事業展開を盤石なものとする考えのようだ。
報道発表では「本合併により、当社グループの東北地区におけるドミナント(編注:集中的に店舗展開すること)を強化することで、今後、当社グループの一層の企業価値向上に努めてまいります」としている。
2020年から買収に乗り出す
ちなみにクスリのアオキは、2020年から食品スーパーの買収に乗り出し始めた。石川県金沢市内で展開するナルックス、京都府宮津市に本社を置くフクヤなどを傘下に収め、翌2021年には福島県と茨城県の食品スーパーも子会社化している。
バローHDの事例:大阪府の2つの生鮮食品スーパーを買収すると発表
2021年11月には、東海地方でスーパーマーケットやホームセンターなどを展開するバローホールディングスが、大阪府の2つの生鮮食品スーパーを買収すると発表した。「八百鮮」と「ヤマタ」である。
事業強化へ「新たなピース」を獲得した
この2社は生鮮品の取り扱いや販売に強みを有しており、バローホールディングスはこの2社のノウハウを得て、自社展開する生鮮専門店の業績向上を図る考えのようだ。要は、自分たちがより食品スーパーとして強くなるための「新たなピース」を獲得した形である。
PPIHの事例:2019年1月にユニーの完全子会社化を発表
ドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)も食品スーパーの買収に積極的だ。2019年1月、総合スーパーを展開しているユニーを完全子会社化したと発表した。
ユニーの買収は、ドン・キホーテの店舗を増やすことが目的の1つだ。ユニーが展開するアピタやピアゴの店舗を一部、「MEGAドン・キホーテUNY」に転換することなどを掲げている。
自社のノウハウでユニーの企業価値を向上
もちろん、買収したユニーの事業を伸ばせるという自信もパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス側にあった。具体的には、「アミューズメント性の強い時間消費型の店舗展開」といったノウハウを活用すれば、ユニーの企業価値を向上させることができると、買収の報道発表の際に明言している。
また、ドン・キホーテで培われた「インバウンド市場への対応ノウハウ」もユニーの今後の事業に生かすことができると判断したという。
買収の理由は三者三様だが……
このように、食品スーパーの買収に関するニュースとして近年、大々的に報じられた3件の事例を紐解くと、理由は三者三様であると言える。
クスリのアオキはドミナント戦略の強化のため、バローホールディングスは事業における「武器」を増やすため、そしてパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの場合はシナジー効果を生むため、といった具合だ。
しかし、マクロ的に食品スーパーをみると、別の背景も見えてくる。総合食品スーパー・食品スーパーでは「イオングループ」が最大手であり、イオンへの対抗策として事業規模を大きくしようと動いている食品スーパーも少なくない。
また近年は、在庫管理の最適化や省人化に向けたテクノロジーの導入がコスト削減において重要となっているが、それらの仕組みや技術の導入コストは、大規模展開している食品スーパーの方が相対的に軽くなる。複数の店舗で同時導入できるからだ。
一社でこのような仕組みや技術を導入しようとするとコスト的な負担が重く、それなら導入しない方がいいということになってしまう。そのような事情も、業界再編の引き金の1つになっていると考えられる。
あなたの街の地場系スーパーも買収される!?
買収が加速する食品スーパー業界。あなたの街にある地場系のスーパーも、いずれは別のチェーンに買収され、店名が変わることになるかもしれない。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)