表明保証に関する損害賠償の必要性
表明保証に違反した場合、悪意がなかったとしても損害賠償を請求されるのだろうか。表明保証に違反した場合における損害賠償の必要性について判例を含めて解説していく。
リスクはあるが必ず損害賠償を請求されるとは限らない
表明保証に違反していた場合、故意または過失がなくても、買い手から損害賠償や補償を請求されるリスクがある。
なお、損害賠償と補償は、買い手に生じた損害を補てんするために金銭を支払う点は同じだ。損害発生の理由が違法行為であれば損害賠償、適法行為であれば補償という言葉が用いられる。
表明保証に違反したとして損害賠償を請求されたとしても、必ずしも損害を補てんする義務を負うとは限らない。裁判では、売り手が十分な情報開示をしていたか、買い手が十分な調査を行っていたかといった観点から判決がくだされる。
売り手は、想定されるリスクについてしっかり情報開示することが大切だ。誠実に買い手と向き合ってM&Aを実行すれば、結果的に表明保証違反で損害賠償や補償を請求されるリスクを下げられるだろう。
表明保証に関連した損害賠償を巡る判例
表明保証条項が盛り込まれたM&Aで、M&A後に買い手が損害を被り、表明保証違反で売り手を訴えた判例がある。2つの判例の争点と判決を確認してみよう。
1つ目の判例では、買い手が表明保証違反を知り得たのか、買い手が表明保証違反を知り得たとしたら売り手は表明保証責任を免れるかという点が争点となった。
売り手が故意に情報を隠していたこと、買い手が表明保証違反に事前に気づくのは難しかったことから、売り手は結果として損害賠償義務を負った。
2つ目の判例では、売り手から提示された情報をもとに、買い手が将来のリスクを予見できたのかが争点となった。
買い手は売り手から提示された情報や現地調査などによってリスクを予見できたはずだとみなされ、売り手は結果として損害賠償義務を負わなかった。
表明保証のトラブルを減らす方法
売り手は、勇退後に損害賠償や補償を請求されるリスクを低減したいと考える。買い手は、表明保証違反が発覚して損害賠償や補償を請求しても、売り手が応じてくれるかわからないというリスクを抱えている。
売り手と買い手のトラブルを減らすために、表明保証保険の利用が検討できる。
売り手向けの表明保証保険では、買い手から表明保証違反で補償請求がなされた場合、保険会社から補償を受けられる。買い手向けの表明保証保険では、表明保証違反が発覚した場合、売り手に請求しなくても保険会社による補償を受けられる。
表明保証保険をうまく活用すれば、売り手と買い手双方のリスクを低減できるだけでなく、M&A後も良好な関係を維持できる。
ただし、デューデリジェンスが実施されていない場合や、あらかじめ表明保証違反の事実を知っていた場合など、一定の要件を満たすときは補償を受けられない。保険期間の設定では、M&A契約で補償請求できる期間と一致させておくと安心だ。