本記事は、小松麻美氏の著書『マンガで学ぶ! 営業の超基本』(フローラル出版)の中から一部を抜粋・編集しています
商談は「後出しジャンケン」で確実に勝ちにいく
よくいわれることではありますが、商談では、商品の強みばかりを売り込んではいけません。これまでお話ししたように、お客様にとっての「ベネフィット(利益)」を意識して、「課題を解決する提案」を行うのが基本です。
そのために、商談前に情報収集をし、顧客分析を行い、課題と自社商材を使った解決法について仮説を立て、具体的なトークを組み立てます。
ただし、用意した仮説をシナリオどおりに披露してはいけません。それはまるで、あなたが注文してもいない料理を、料理人が「あなたはこれがお好きでしょう?」と用意して待ち構えているようなものです。その予想が当たれば感動を呼びますが、もし外れていたら「押しつけ」になってしまいます。
このようなやり方は「賭け」の要素が抜けきれていません。営業はギャンブルではありませんから、確実に勝つ(契約をいただく)提案をすべきです。
そのために、商談は「後出しジャンケン」で進めることをおすすめします。相手の出す手を把握する前に自分の手を出してしまえば、勝てる確率は3分の1です。だから、確実に勝つためには「後出し」であるべきなのです。
後出しをするからには、そもそも話しすぎてはいけません。ユームテクノロジージャパンの調査で商談時の「話す・聞く」の割合を調査したところ、「聞く」が6割以上と答えた営業パーソンは、ハイパフォーマーでは60.7%、ローパフォーマーでは46.0%と差が見られました。
商談は用意した提案を披露する場ではなく、用意した仮説の「答え合わせ」をする場です。そのためには、自分ばかり話すのではなく、お客様に話していただかなくては始まりません。
×用意した仮説をそのまま提案する、話しすぎる ○用意した仮説をもとに、お客様の話を聞きながら答え合わせをする
たとえば、このような形で質問し、お客様に答えていただきながら、本音を引き出し、探り、課題に関する合意を得ていきます。
・「答え合わせ」のトーク例
「○○の業界では、□□といった課題をお持ちの企業様が多いと聞いております。御社はその点、どのようにお考えでしょうか」 「御社の○○という目標を達成するためには、□□することで、△△という状態になることがベストではないかと考えましたが、そのような方向を目指していらっしゃるという認識で間違いないでしょうか?」
このように、事前の準備と、現場でのヒアリングを通じて相手のニーズを確認し、事前の想定の答え合わせをしていく。その結果、課題を解決する「手」として、自社の商品やサービスを「紐づけ」をする。
そうすることではじめて、お客様の課題が浮き彫りになり、具体的なプレゼンへと進めていく準備が整うのです。
ヒアリングは「拡散」「深掘り」「収束」の3ステップで探る
ことヒアリングというと、とにかくお客様から必要事項を聞き出そうと、質問ばかりしてしまう人もいます。場合によっては、事前に用意した質問リストに沿って、ひたすら質問をぶつけてしまうケースも少なくありません。
しかし、ヒアリングの本質は「聞き出す」ことにあるのではありません。あくまでも、お客様の課題を把握し、最適な提案をするためにあるのです。
つまり、「探る」ということです。
もし、お客様から情報を聞き出そうとして、質問リストに沿って話を進めていたらどうなるでしょうか。きっと、相手は不快に感じます。とくに商談時は初対面のことも多く、そうした杓子定規な対応は「自分たちのことを理解しようとしていない」「ただ情報が欲しいだけなんだ」と思われてしまいがちです。
事前に用意した質問リストの中身は、商品の提案に関連するものが大半です。それをそのままぶつけていたら、一方的という意味では、話しすぎる営業と変わりありません。相手に寄り添おうとせず、資料を見て質問ばかりしていては、うまくいかないのも当然なのです。
一方で、売れる営業はお客様をきちんと見ています。相手の目を見て、相手の話に耳を傾け、興味を持ってメモをとる「傾聴」の姿勢です。
そのうえで、お客様が理想とする未来を想像し、ヒアリングの中で課題を解決するための情報を探っていきます。そしてそれらの情報をもとに、最適な提案をするための仮説を再構築していくのです。これが、ヒアリングのあるべき姿です。
ヒアリングは、「拡散」「深掘り」「収束」の3ステップで行います。
たとえば、リクルーティングをすすめるシーンで考えてみましょう。
まず、「社員は何名くらいいらっしゃいますか?」「現在、人手は足りていますか?」「過去に募集に使われた媒体はなんですか?」「そのときは、よい人材を採用できたという実感はございましたか?」など、話を横に広げる「拡散」をします。
また、そこで得られた回答をもとに、とくに相手が課題を感じている点について、「人材が足りないと感じるのはなぜでしょうか?」「どのような人材が、どのくらい必要かプランはお持ちでしょうか?」「いつまでに採用したいとお考えですか?」など、話を縦に掘り下げる「深掘り」をします。
さらに、拡散と深掘りで得た情報から課題の取りまとめ(収束)を行い、自社の商品やサービスを有効活用する方法を提案していきます。
このような流れでヒアリングを組み立てると、商談は成功しやすくなります。
ヒアリングを通して課題を探り、現状から理想までの道筋が描ければ、次回の商談で、お客様の心に「刺さる」情報をご提供することができます。また、課題を言語化することで、お客様が社内で提案しやすくなります。そのため、ヒアリングがうまくいけば、多くのプレゼンは通ります。
「商談をしたが、お客様の課題がなかった」というときは、課題を引き出せなかったか、アプローチ前のリストづくりや顧客分析が間違っていたかのどちらかです。前者の場合はよりよいヒアリングの仕方を学んで身につけ、後者の場合は、リストづくりや顧客分析を見直してみてください。
商談は「イエスをもらえる質問」から始めよう
売れない営業ほど商談時に「何か課題はございませんか?」「お困りのことはありませんか?」といった質問をしてしまいがちです。
「課題」を欲しがるばかりに焦ってストレートな質問をしてしまうのですが、これはお客様が「ありません」と答えた瞬間、試合終了になるリスクの高い質問です。
関係が浅い相手にそこまで心を開いてくれるお客様はいませんし、お客様が課題に気づいていなければ、この質問ではどうがんばっても「課題」にたどり着けません。また、情報を引き出そうと焦るあまり、「事業の業績はいかがですか?」「ご予算はどのくらいでしょうか?」など、まるで尋問のような質問をするのもよいやり方ではありません。
では、どうするかというと、商談の冒頭では「お客様が答えやすい質問」をします。
たとえば、「毎年、定期的に中途採用をされていますか?」といった事前に調べることも可能な質問を投げかけ、「お客様が答えやすい雰囲気」をつくります。
また、信頼関係をつくるために小さなイエスを積み重ねる質問も有効です。このようなテクニックを「イエスセット(Yes Set)法」と呼びます。
イエスセット法は、本命の質問の前に小さなイエスを積み重ねることで、お客様を「自分は相手に同意している」「自分は納得して話を進めている」という心理状態に導きやすくなります。
先ほどの「毎年、定期的に中途採用をされていますか?」もそうですし、「御社では人材不足が課題なのですね」など、事実を確認するための質問も、「はい、そうです(イエス)」と答えやすい質問です。
アウトバウンド営業では、「イエスorノー」で答えられる質問や、「A or B or C」など、いわゆる「クローズド・クエスチョン」をするのが基本です。
問い合わせをいただいた場合など、もともと購買意欲が高いお客様であれば、「何」「なぜ」「どのような」など、自由回答を引き出す「オープン・クエスチョン」を活用しても問題ありません。上手に使い分けていきましょう。
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