本記事は、平尾丈氏の著書『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』(ダイヤモンド社)の中から一部を抜粋・編集しています

正解ではなく、別解を目指せ

評価しない,丸,まる,バツ
(画像=Rhetorica/PIXTA)

正解にはもはや価値がない

ビジネスにおいて、絶対に成果が出る正解は、もはや幻想です。

これからは「誰もが思いつく実現可能な選択肢」を選んでいるだけでは、人が無価値になる時代がやって来ます。その傾向は、情報化時代のさらなる進展、SNSなど個人のメディア化、ロボット化、AI化などによって、拍車がかかっていくはずです。

日本は、絶妙に守られている国です。

GDPはアメリカのように1位ではなく、中国に抜かれて長く守ってきた2位の座を明け渡したとはいえ、依然として世界第3位の座を守っています。

陸路で国境を接する国のない島国で、日本語という特殊な言語を使うことで他言語の侵入が抑えられてきました。気候も温暖で、台風や地震が多いとしても住環境としてはかなり良好な部類に入ると思います。

経済的にも強く、安全面や住環境に優れているので、高度成長を達成してからは、日本人はがむしゃらに頑張らなくてもある程度の生活を手に入れることができました。

ところが、アジアの国々から日本で一旗揚げたいとやってくる人が増えています。グローバル企業はさまざまな取引手法によって日本市場を手に入れ始めています。今後はさらにグローバル企業との競争も激しくなり、人間だけではなくロボットやAIと戦わなければならなくなります。

そのとき、誰もが到達し得る正解を出しても競争に勝つことはできません。

誰もやらないような、より創造的な打ち手を繰り出さなければ、勝負にならなくなっていきます。これまでは正解で何とかなっていた人たちが、どうにもならなくなって路頭に迷う時代になるという仮説を私は持っています。

すでに、企業の世界はそういう戦いになっています。

同じことをやっていても、一瞬で競争に負けてしまいます。新しく何かを発明したとしても、追いつかれるスピードが速すぎる。強い打ち手を強い方法でやると、最初は高い価値を出せますが、誰もが同じようなことを考えるので「それでいいんだ!」「おれもそう考えていたよ!」となって陳腐化が早まります。

とくにITの世界は、すぐに模倣されてコモディティ化(一般化)してしまいます。

継続してそのビジネスに取り組もうとしても、すぐに誰かが出てくる。

一瞬は正解で勝ったとしても、価値を維持できず、幻のようになくなってしまう

一瞬のうちに、実像が虚像になってしまうから、正解は幻なのです。

「知識が正確に覚えられているか」を測定する試験に慣れすぎている

世の中は想像以上に複雑で、予測できないこと、管理できないものばかりです。自分以外の人にもすべて思惑があり、複雑に動いていて、しかも膨大な人数がいます。

このような唯一解や絶対解がない世界で生きているにもかかわらず、問題を無理やり簡素化、簡略化しているからこそ、正解が出せるわけです。ほとんどの学校のテストは「問題をつくる人が決めた答え」を当てていく作業なので、正解が決まっています

そのため、日本人は子どものころから決まった答えがある問題について考えたり、ただ物事を覚えたりするだけの勉強法が大半です。

ところが、世の中はもはやそれでは通用しません

また、情報化社会によってインターネットやSNSが浸透し、情報伝達が速くなりました。より良いやり方が模倣され、それが拡散するスピードも極めて速いので、すぐに価値を出せなくなったり、差別化が図れなくなったりしてしまいます。正解が、正解ではなくなるスピードが、加速度的に速くなってきているのです。

価値や差別化は需給バランスで決まります。果実の大きさに対して何人が食べたかで決まるルールのゲームです。より多くの人が食べに来ると、正解という果実はなくなって当然です。遅れてきた人は食べられない。これは経済の世界で必ず起きていることです。

これからの世の中は、正解を出すことに頭を使うのではなく、自分の答えを考えるために頭を使うことが求められます。世の中では生きる力、自立する力が大事になってくるので、正解を求める力だけでは自立できなくなってしまいます。

つまり、自分の答えを正解にする力が強い人、問いを発見する力が強い人、誰も思いつかないような他の方法論を考える力の強い人が生き残る世界です。

実際、すでにそういう世界に入ってきていると感じることが年々増えています。

仕事も早く、精度も高く、膨大な量もやる。

しかし、仕事はできるのに、問いを立てられない人が増えているのです

自分で問いを立てることができなければ、「何をやったらいいですか?」と相手に依存する指示待ち人間になってしまう。自分自身で問題解決ができないと、問題を発見し、解決できる人に従うしかなくなってしまいます。

そのような風潮には、危うさを感じざるを得ません。

問題発見と問題解決能力は、生まれながらにして持っている地頭などの能力によるものと誤解している人が多いようです。しかし、それはまったくのでたらめです。後天的な努力でできるようになるものです。

問題を自分で見つけ、自分なりの答えを生み出し、検証する力が必要である

生産性で戦っていた時代は、余計なことを考えず、ひとつのやり方を突き詰めることで評価されました。しかし、いまは労働人口も増えていなければ、生産量でも勝てなくなっています。資源もない日本は、クリエイティブに頼らざるを得なくなりました。

マーケットシェアで戦っていた時代は、複数の企業が同じ分野に集中してシェアを取りに行っているので、過当競争が生み出されてきました。しかし、差別化要因がまったくないのに、シェアに集中するのは限界があると思います。

そこで問われるのが個性です。

個性は、個人の経験や遺伝、環境によってそれぞれ変わる複雑系です

「個性」「問題の発見」「それを解く方法」をすべて掛け算にすることができれば、唯一の正解が生まれる確率はほとんどなく、さまざまな方法で答えにたどり着けるはずです。

何より、私は「個性のある答え」があふれる世界のほうが豊かだと思います。

イノベーションは多様性から生まれます。みんなが同じことをやっても絶対に進化はしません。それぞれが個々の観点に基づいて問題を発見し、答えを考えたほうが突然変異が生まれる確率ははるかに高くなります

つまり、イノベーションは別解から生まれるわけです。それによって社会が良くなると私は信じています。それで結果が出れば、いっそう仕事が楽しくなるのは明白です。

常識を打ち破る別解で課題を突破し、圧倒的な成果を出す必要がある

不確実性の高い時代、世の中は正解のない問題だらけです。

正解では解決できない課題が増え続ける社会だからこそ、人によって答えが違うという前提に立ち、それぞれが別解を探していくべきだと思います。

たとえば、こんな問いに対して正解はあるでしょうか。

「社会貢献をしながら、ビジネスとしても成立する会社をつくるにはどうすればいいか」

「少子高齢化のなかで、誰もがハッピーになる事業承継にはどのような形があるか」

これはほんの一例ですが、世界を見渡すと難しい問い、矛盾をはらんだ問いが、数多く解決できていないままです。

みんなが同じ幸福もなければ、みんなが同じ美的センスもありません

答えは人それぞれ。そこに新たな解が生まれるのではないでしょうか。

起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法
平尾丈(ひらお・じょう)
株式会社じげん代表取締役 社長執行役員 CEO。1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast 50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under a Billion」に選出。単著として本書が初の著書。

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