本記事は、平尾丈氏の著書『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』(ダイヤモンド社)の中から一部を抜粋・編集しています
解くべき問題を発見する「8M」
問題発見力を高める8つの視点について見ていきましょう。下の図3にある「8M」が問題発見のカギです。
(1)目的(なぜやるのかを明確にする)
問題を発見するには、目的を探さなければなりません。
なぜその問題に向き合うのか、その目的を明確にすることで、問題の軸、本質が発見できると思います。
目的を持てないのは、仕事の意図を把握していないからです。
仕事が与えられたときに「上司に言われたから」「仕事を振られたので」となんとなく取り組んでいても、目的や意図は見えてきません。
「なぜその仕事をするのか」 「なぜ自分がやらなければならないのか」
これらについて深く考える必要があります。
まずは自分で考えてください。それで目的が理解できれば、その目的を達成するために仕事をしてください。わからなかったり、疑問があったりする場合には、上司や先輩に質問してください。
私もリクルート時代から、徹底的に聞きました。聞きすぎて怒られたこともあります。
「いいからやれ」
そう言われたときも、安易に納得せず食い下がりました。
「なんで『いいからやれ』なんですか?」 「だったら、ぼくがやらなくてもよくないですか?」
生意気で面倒くさい部下だったと思います。
でも、これは非常に大事なことです。目的もわからないまま仕事をしても、得るものはありません。ただの作業マシーンです。
何のためにやるのか、なぜ自分がやるのかがわかれば、その仕事がどのような仕事の一部なのか、その仕事を仕上げた先に何があるかなど、全体像が把握できます。
全体像が把握できれば、その仕事の価値や意味がわかります。
仕事の価値や意味がわかれば、その仕事にどのように取り組めばいいかがわかります。
全体の価値がわかれば、仕事のやり方が変わってくるのです。何のためかがわかったほうが、人間は折れません。
レンガ職人の有名な逸話の通り、レンガを積むだけの仕事なのか、歴史に残る大聖堂をつくる仕事なのかによって、仕事に対する重要度の認識が変わります。目的を理解することで自分の仕事の重要度を上げていく作業が必要です。
反対に、仕事を命ずる上司にも考えさせるきっかけになります。
「なぜこの部下にこの仕事をやらせなければならないのか」 「この仕事をどのように仕上げてもらいたいか」 「この仕事をやらせることで、部下にどのようになってもらいたいか」
上司に質問することから始めないと、問題に含まれる「真の問題」が特定できません。
真の問題がわからなければ、目的にはたどり着けません。自分がその仕事をすることが目的ではなく、この仕事をすると何を達成できるかが目的なのです。
(2)目標(理想を明確化する)
目標は目的を実現するための手段であり、構造的には目的の次のレイヤーに位置します。
ここでいう目標は、会社や上司に設定される「売上〇〇円」などの目標ではありません。先ほどの真の問題を解決するためのあるべき理想の状態を、目標として自分で設定する必要があります。
たとえば、先ほどのレンガ職人の目的が「歴史に残る大聖堂をつくること」である場合、「1,000年耐えるレンガをつくること」が目標になるかもしれません。
目標がない人は、目的を設定した後に、社会や会社の役に立つことにフォーカスするといいでしょう。それが自分の強みにつながってくることも少なくありません。
よくこんなセリフを耳にしないでしょうか。
「会社がつまらない」
こういう人に、自分の会社の社長はどのようなことで悩んでいて、何をどのように変えようとしているか知っているのか尋ねると、ほとんどの人から答えは出てきません。
自分探しばかりをしているのではなく、社会が何を求めていて、会社が何を求めていて、会社の社長や役員が何を考えているかについて思慮深く考えてください。目標を定めるうえで、この思考は非常に大事な役割を担ってきます。
なぜこの仕事が自分に降ってきたのかもわかり、その仕事を自分がやることによって会社はどのような理想を実現するのかも考えられるようになります。
目標を考えるとき、未来にフォーカスするのもひとつの方法です。
日本人は「温故知新」に偏りがちです。昨対比◯%アップなど、過去実績の延長で目標を定めるパターンが大半です。もちろん、それはそれでいいと思います。
ただ、将来どうなるべきか、どのように便利になるのか、未来から逆算して目標設定したほうが、目的の達成は担保されると私は思います。
また、未来に成長するであろう新しい業界には専門家がいないので、スタートラインは誰もが同じです。他の人が入り込んでいない「優れたマイノリティ」になるほうが価値が高く、その座を獲得できる可能性もあります。
未来は、とくに若い人にとって有利な世界です。年配の上司や役員たちがわからない世界が数多くあり、大きく成長しそうな分野を獲得できる可能性もあります。ユーチューバーやライブ配信を行うライバーは若い人の独壇場です。他にもそうした世界はあるはずです。
(3)問題(ギャップから問題を把握する)
理想の状態である目標が設定できると、いまの状態とのギャップが問題として現れてきます。しかし、漠然と問題を意識するのではなく、問題の「解像度」を高めて理解することが重要です。
・スピードを要求しているのか ・膨大な量を要求しているのか ・コストを低くしろと要求しているのか ・売上を急激に上げろと要求しているのか ・顧客の数を増やせと要求しているのか ・価格設定を変えろと要求しているのか
どのようなルールで、どのような種類で、何をする問題なのか、かみ砕けるだけかみ砕きます。数値にできるものはすべて数値化し、構造化し、パラメーター化することでシンプルにわかりやすくします。
そのうえで、そもそも問いが間違っている可能性があることを前提とし、違和感を持つことが大切です。
(4)昔(かつて問題を解いた人の情報を収集する)
問題を把握した後に、過去に同じような問題を解いた人やケースがあった場合、その情報をくまなく収集します。
・過去トップの人はどのくらいの水準か ・それを異業種に当てはめるとどれくらいの水準か ・それはどのような要因で決まるのか ・量で決まるのか ・早さで決まるのか
過去の「強い人」の要素を細かく分析し、どのようにして勝ったか、どのようにして成果を出したかを見極めます。
この点は、大きく差がつきます。なぜなら、ほとんどの人が「過去問(=過去の問題)」に当たっていないからです。言われた仕事をなんとなく始め、時間内でできるところからやり、わからないところは空白で提出する。まるで学校のテストです。できるところから手をつけるのがテストの鉄則なので、そのやり方の呪縛から逃れられていません。
テストであれば、それで80点が取れれば合格です。しかし、仕事の場合は点では合格ではないことに気がつかなければなりません。
むしろ、仕事では重要な問題を解いたほうがいい。その時間を確保するためにも、問題を把握するためにも、すでにその問題に近いところに迫った過去問に当たるのは最低限の準備です。
問題解決のプロといえば、コンサルタントが思い浮かびます。彼らは新しい問題に取り組むとき、一定の時間をかけてあらゆる情報をインプットします。この準備は早ければ早いほどいいと思います。
私も未経験の業界については、短期間でおおよその流れをつかみます。1週間もあれば、どのような問題でもスタートラインには立てると思います。完璧は求めず、だらだらとやっても意味はありません。
そのうえで、周辺の情報にも目を配ります。多くの人が自分と問題しか見ていませんが、周りに何人いて、誰が同じことをやっていて、過去には何人やっていて、誰が優れた成果を上げていて、その理由は何かを考えます。そうすることで視野が広がり、問題の本質に迫ることができるのです。
世の中に存在する問題は、99%過去問、あるいは過去問の相似形でしかありません。だとしたら、事前に過去問に当たる作業は絶対にやるべきです。過去問に当たったうえで、その先の1%の問題の本質に対する準備に集中する。そうすれば、問題を解決し、高い成果を上げられるようになると思います。
可能であれば、過去に問題を解いた人に会いにいくべきです。
そういう人に会うと、その人と自分との差分が浮き彫りになります。結果だけ見て判断するのではなく、その人の強み、特徴や圧倒的な成果をすべて言語化できるように意識すると、差分を把握することができます。
一次データは情報の宝庫です。二次データでは本当の情報も差分もわかりません。情報量を多くするため、キーマンや当事者本人には直接会ったほうがいい。ただ、地方に住んでいるなど、直接会うのが難しい人は、二次データでも構わないので多面的に探っていかなければなりません。
ここで重要なのは、過去の強い人に会っていろいろ教えてもらったからといって、その人と同じようにやろうと考えないことです。真似をすることに、競争優位性はありません。
むしろ、過去の問題を解き方を含めて把握したうえで、それとは別の自分独自のやり方を考えることに意味があります。
過去問を聞いた時点で、その情報は陳腐化してしまいます。誰かがアクセスできる情報は、他の誰かも聞いているはずです。その時点でコモディティ化し競争優位性はないので、それを超えるやり方を考えていきます。
その際、収集した過去の強い人のデータが役に立ちます。
・売上がどのくらい上がったかなどの「規模」
・何人の顧客にリーチしていたかなどの「範囲」
・過去の強い人が持っていた武器の「強さ」
・何人が幸せになったか、何人が感銘を受けたかなどの「深さ」
そうしたポイントを見ます。ほかに効率性や拡張性をチェックし、過去に強かった人のデータをさらに強化したうえで、そのアウトプットがいまの時代にどこまで通用するかを考えていきます。
(5)自分(マイセルフ) (6)周り (7)マーケット
世の中は有限なので、リソースにも限りがあります。ヒト・モノ・カネの経営の三資源は、企業だけでなく個人にも当てはまるので、次のような条件を明確化します。
・自分の強み・弱みはどのようなものか ・仲間はいるか。何人動かすことができるか ・コストはどれぐらいかけられるか ・時間はどれぐらいかけられるか ・顧客は誰か ・競合は誰か
他にも、組織のコミュニケーションラインはどうなっているか、上司からどう見られているかなど、会社の構造も熟知しておく必要があります。
問題を発見し、解決するまでの時間は無制限にあるわけではありません。制限時間のなかで限られた「手札」をすべて明らかにしたうえで、何をどのように使えば最適になるかを考えなければ、なかなか成果は出ません。
たとえば、競合先の強靭な人たちの成果を聞いたときに、もう勝てないと思うか、チャンスはあると思うかを考えます。
「自分の強みがあれば勝てるか」 「仲間と戦えば勝てるか」 「お金をかければいいかもしれない」 「長い時間をかければいいかもしれない」 「競合が弱いかもしれない」 「お客さんに刺さるポイントはどこか」 「お客さんが欲しがるものの希少性はどの程度か」
そのときの顧客が誰なのか、そのときの課題は何なのか、個別ケースによってあらゆることが変わってくるので、しっかり考える必要があります。
(8)未来(今後の課題を予測する)
少ないとはいえ、現状分析、過去問の分析をやる人がいないわけではありません。しかし、未来予測をする人はあまり多くはありません。やろうとしてもわからないからです。
問題を発見するときは、過去と現在だけでなく、現在と未来との変化やギャップに注目するとポイントが浮かび上がる可能性が高まります。
「未来のことは誰にもわからない」
そう言われても先を読み、世の中はどう変わっていくかを予測することが必要です。今後の企業の課題、産業の課題、社会の課題を予測します。
その材料として使うのは、何でも構いません。未来を描いた漫画でも、SFの世界でも、たとえ荒唐無稽に見えたとしても、実現しない可能性は100%ではないからです。
現実的な資料として、公的な調査やシンクタンクの調査、白書など未来を予測しているものは参考になります。ただ、書かれたことを 鵜呑 みにするのではなく、自分の集めた情報と照らし合わせながら「こうなるかもしれない」「それはないだろう」など、自分なりの判断や予測を溜めていく必要があります。
蓄積していくデータとして重要なのはファクトです。しかし、普通に生活していて手に入れられるファクトは、自分の周囲の一次情報しかありません。それでは範囲が狭いと言わざるを得ません。そこで、二次情報でも構わないのであらゆる分野のファクトを手に入れる必要があります。
現在は国や地方公共団体、民間も含めてさまざまな統計や調査、アンケート、研究成果などが公開されていて、ファクトを簡単に手に入れられます。手に入れたファクトによってこれから伸びるマーケットを探したり、衰退していく産業を探したりすると同時に、そこから派生する問題とどこまでリンクできるかが重要です。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます