スーパーゼネコンで清水建設が一人勝ち!? 掲げる「デジタルゼネコン」の実態
(画像=ponta1414/stock.adobe.com)

日本にはスーパーゼネコンと呼ばれる建設会社が5社ある。この5社のうち、清水建設は「デジタルゼネコン」というキャッチフレーズを掲げ、建築事業と土木事業における「デジタルなものづくり」を目指している。いわばゼネコンのDX化とも言える動きだ。

「デジタルゼネコン」を掲げている清水建設

企業としてのさらなる成長に向け、「DX」(デジタルトランスフォーメーション)がさまざまな業界で目下の課題となっている。建設業界も例外ではなく、ゼネコン各社は徐々に事業のデジタル化を進めている状況だ。

中でもその動きが一際目立つのが清水建設だ。「中期デジタル戦略2020」の中で「ものづくりをデジタルで」「デジタルな空間・サービスを提供」「ものづくりを支えるデジタル」を3つの柱とし、デジタルとリアルのベストミックスを追求している。

清水建設は2021年4月、経済産業省が定める「DX認定企業」に選定され、その2ヵ月後には東京証券取引所などが選定する「DX銘柄2021」にも選ばれた。同社の最近のデジタルゼネコン的な動きを3つ紹介していこう。

1つ目の柱「ものづくりをデジタルで」とは?

1つ目の柱である「ものづくりをデジタルで」では、建築物をつくるにあたって、企画・設計・竣工といった過程でデジタルを積極的に導入している。

例えば企画では、屋外気流シミュレーションや大空間空調シミュレーションなどのツールを活用し、施行においてはロボットによる作業や3Dプリンターの導入などにも挑戦している。すでに3Dプリンターを使い、大規模コンクリート柱を建築した実績がある。

AR(拡張現実)技術を導入していることにも注目したい。同社は2021年3月、「Shimz AR Eye」を開発・実用化したと発表した。このShimz AR Eyeは、携帯端末上で3D(3次元)の設計図とリアルの映像を合成し、完成イメージを現場で可視化できるシステムだ。

2つ目の柱「デジタルな空間・サービスを提供」とは?

「デジタルな空間・サービスを提供」が中期デジタル戦略の2つ目の柱だ。このコンセプトの実践例としては、大規模賃貸オフィスビルへの建物OS(オペレーティングシステム)「DX-Core」の実装などがある。

この建物OSをオフィスビルに実装したことで、専用ポータルサイトで館内施設の混雑状況などを確認できるようになったほか、会議室予約といったサービスも建物OSを通じて提供できるようになったという。

さらに、近年実用化の動きが進んでいる自動運転タクシーや自動配送ロボットを建物設備と統合制御するシステムも構築している。

3つ目の柱「ものづくりを支えるデジタル」とは?

そして最後の柱が「ものづくりを支えるデジタル」だ。このコンセプトは「インフラ基盤」「データマネジメント基盤」「業務システム基盤」という3つの基盤で構成されている。

例えばインフラ基盤では、全国の作業所にデジタルサイネージを導入し、本社などからの申し送り事項などを従業員にデジタルサイネージを通じて通達できるようにしている。内線電話の環境も刷新し、勤務者全員にスマートフォンを配布している。

3つのコンセプトの中では最も地味に感じるかもしれないが、このような細かな点のデジタル化の積み重ねが、業務改善や作業効率の底上げに効いてくる。

業務効率を上げるために、グループ全体でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を展開していることにも注目だ。RPAは経理や事務などの定型作業を自動化する技術で、これらの作業を自動化できた分、従業員が付加価値の高い業務に従事することができる。

先行投資はかさむが、将来は「1人勝ち」の状況に?

DXは最初にコストがかさむ。新たな仕組みやシステムの開発、導入にお金がかかることは当然だ。しかし、先行投資が企業の業績を圧迫するものの、中長期スパンでみればその企業の成長に資すると考えられている。そのため、いまはDXに躊躇している場合ではない。

そして前述の通り、清水建設もデジタルゼネコンをコンセプトに掲げて積極的にDXを推進しているだけに、先行投資の金額はかなり積み上がっているはずだ。今後数年では目に見えた成果は出てこないかもしれないが、一方で将来の業績には大いに期待が持てる。

特に「デジタルな空間・サービスを提供」の取り組みに注目したいところだ。建物内では自動配送ロボットがいち早く実用化されるとみられている。公道を走行する配送ロボットとは異なり、基本的には厳しい規制やルールに縛られることがないからだ。

中でも、自動配送ロボットを建物施設と連携できるオフィスビルで、いち早く実用化が進むだろう。階をまたぐ移動ではエレベーターと自動配送ロボットの連携が不可欠だからだ。このようなことを見越して、清水建設はDXを推進しているものとみられる。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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