自家用車を持たない未来が訪れる? 自動車メーカーが岐路に直面
(画像=scharfsinn86/stock.adobe.com)

自動車メーカーが岐路に立たされている。将来的に自動車の販売台数が減っていくことが予想される中、「自動車を製造・販売するだけの企業」のままでは事業縮小を余儀なくされてしまうからだ。では、自動車メーカーはどう「モデルチェンジ」を果たせばいいのか。

自動車の販売台数はいずれ減っていく

まず前提として、なぜ自動車の販売台数が今後減っていくと考えられているのか、その理由について触れていこう。

短期的な視点だと、しばらく自動車の販売台数は増えていくと考えられる。世界の発展途上国では、まだ自動車を所有できるほど所得が高くない人が多く、このような人たちの所得が上がっていけば自動車を購入できるようになり、販売台数を押し上げるとみられている。

しかし中長期的なスパンで考えると、「自動運転車」の登場がこの潮流を変えていくと考えられる。自動運転車は「人間を運転から解放する」というイノベーションだが、真の価値は「シェアリング」にあると考えられている。

自動運転車をタクシーとして走行させる場合、人件費が不要になることで運行コストがかなり減少する。そのため、今よりもタクシー運賃がかなり下がり 、結果として人々は自動運転タクシーを頻繁に利用するようになると考えられる。自家用車を所有するよりも財布にやさしいからだ。

つまり、自動運転車を多くの人でシェアすることになり、世の中で販売される自動車の販売台数は減るというわけだ。

各社が「サービス」の開発に乗り出し始めている

自動車の販売台数が減る未来を予想し、自動車メーカーは今から手を打っておく必要がある。別の収益源を確保しなければ、冒頭触れたように将来的に事業規模の縮小を免れられなくなるからだ。

では、具体的にはどのような戦略が有効なのだろうか。1つ考えられるのが「サービス」の提供に乗り出すことだ。例えば「自動運転タクシーサービス」や「自動運転シャトルサービス」などが挙げられる。

自社で製造した車両を使って移動サービスを提供し、その移動サービスから収益を得るというスキームだ。実は日本の自動車メーカーも、すでにこのようなサービスを将来実現するために実証実験などの取り組みを開始している。

日産:国内勢でいち早く自動運転タクシーの実証に着手

日本の自動車メーカーの中で、自動運転タクシーの実現に向けた取り組みをいち早く始めたのは日産自動車だ。IT大手のDeNAと手を組み、2017年1月からサービス展開に向けた事業開発を始めた。2018年3月には一般モニター参加型の実証実験を実施している。

日産とDeNAはこの取り組みに「Easy Ride」という名称をつけ、その後も実証実験を断続的に実施した。Easy Rideの公式サイトは2020年8月で情報の更新が止まっているが、今も水面下で事業開発の取り組みが進められているのかもしれない。

ホンダ:GMと手を組んで日本でサービス展開へ

ホンダの自動運転技術は世界の自動車メーカーの中でもトップクラスだ。条件付きで自動運転が可能な「自動運転レベル3」の技術を搭載した市販車を、2020年3月に世界で初めて発売している。そしていよいよ、「サービス」の展開もスタートさせようとしている。

ホンダは2021年9月、GMとGM傘下のCruise(クルーズ)と共同で「自動運転モビリティサービス」を日本で展開することを目指すと発表した 。栃木県にあるホンダの施設内に実証実験の拠点をつくり、サービスの実現に向けて技術を高めていくとしている。

トヨタ:e-Paletteを活用した移動サービスを将来展開?

トヨタに関しては、自動運転シャトルを使った移動サービスを将来展開するのでは、との見方が強い。その理由は、トヨタは自動運転EV(電気自動車)シャトル「e-Palette」(イーパレット)の開発に力を入れているからだ。

e-Paletteは2021年、東京五輪の選手村で導入され選手や大会関係者の「足」として活躍した 。この取り組みを商用展開するかどうかについては、まだトヨタから何の発表もないが日本を代表する自動車メーカーだけに期待感は強い。

時代の流れに合わせたモデルチェンジの必要性

ちなみにトヨタに関しては、すでに「MaaS」サービスを展開していることを知っておきたい。

MaaSとは「Mobility as a Service」(サービスとしてのモビリティ)の略で、一般的にはさまざまな移動手段を統合するサービスのことを指す。トヨタはMaaSサービスとして「my route」 というアプリを展開しており、徐々に利用可能エリアを拡大している。

このように自動車メーカー各社は「サービス」分野に乗り出し始めている。その背景にあるのは冒頭触れたような危機感であり、今後もサービス分野での取り組みを強化していくと考えられる。

ここまで見てきたように時代の流れに合わせてビジネスのモデルチェンジを果たせない企業には、悲惨な未来が待っているかもしれない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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