「持続化給付金制度」は、コロナ禍で売り上げが落ちこんだ事業者を救済するために設けられた。これまで約5兆5,000億円が給付された一方で、11億円超の不正な受給が明らかになった。
コロナ禍での「救済策」である持続化給付金
持続化給付金とは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて売り上げが急減した中小企業や個人事業者を救済するための給付金だ。経済産業省の中小企業庁が実施主体となって行った。
対象は2020年1月以降、売上が前年同月比50%以上減少した事業者で、フリーランスやNPO法人も含まれる。支給上限は売上高の減少分で、中小企業では200万円、個人事業者には100万円が上限である。確定申告書類の控えや売上台帳の写しをオンラインで提出し、申請する仕組みだった(現在は受付を終了)。
経産省の統計によると、約441万件の申請があり、うち約424万件の対象事業者に対して総額約5兆5,000億円を支給しているという。業種別では、建設業や宿泊業・旅行・飲食サービス業、卸売業・小売業が多かった。
多数の不正受給が社会問題に
申請後、最短2週間で入金された持続化給付金は、経営難に陥った事業の継続に役立ったと評価されている。一方で不正受給が相次いで発覚して問題になった。
持続化給付金の不正受給とは?
経済産業省が挙げている不正受給は、以下のような行為だ。
・事業を実施していないのに申請する
・各月の売り上げを偽って申請する
・売り上げ減少の理由がコロナ禍によるものではないのに申請する
同省は、不正受給している個人や法人を見つけたり勧誘を受けたりした場合は、情報提供窓口に連絡するように喚起している。
不正受給の現状と経産省の対応
経産省の発表によると、2022年4月27日時点で明らかになった不正受給は1,186者、総額11億9,000万円以上に及ぶ。不正受給と認定された者には給付金全額と延滞金、さらにその合計額の2割相当額を加えた金額の返金を請求し、950者以上がすでに全額を納付した。
同省は、不正の認定に際し一定期間に対応がない者は、HP上に氏名や住所を公表している。悪質なケースは原則すべてを詐欺罪として刑事告発する方針だ。また、受給要件を満たしていないのに誤って受け取っていた場合には自主返還を受け付けている。これまでに1万5,373件、総額165億円以上が自主返還された。
不正受給の実例
問題になった不適切な受給や不正の実例にはどのようなものがあるのか。刑事事件に発展し、実刑判決となった事案もある。
元国家公務員が不正受給で懲役刑
東京地裁は2022年4月、個人事業主を装った虚偽申請で給付金を詐取したとして詐欺罪に問われた男に、懲役3年6月の実刑判決を言い渡した。男は独立行政法人国立印刷局の職員で、国家公務員だった(逮捕後に懲戒免職)。
判決によると、男は詐取の方法を同僚らに教え、不正受給を促していた。さらに、仲介料を目的として、SNS(会員制交流サイト)で申請方法を拡散するなどの宣伝も行っていた。
元副総務相スタッフも詐欺罪で起訴
2021年3月には、熊田裕通元副総務相の事務所スタッフだった男らが給付金を不正受給した疑いで逮捕、その後起訴された。被告らは、給付金に関するセミナーで「受給の抜け道」「グレーゾーン」と不正を促すような発言をしていたとも報道されている。
JRA関係者らが不適切受給
日本中央競馬会(JRA)の騎手や調教師などが給付金を受給していたことも問題になった。騎手らはコロナ禍で収入が減少したと申告していたが、実際は対象期間中に中央競馬の中止はなく、影響はほぼなかった。不適切な受給だったとしてJRAは170人を処分し、返還手続きを行った。
不正が多発した背景は?
多数の不正受給が横行した要因はどこにあるのか。
上記の事例に共通しているのは、虚偽申請の方法を教えて知人を勧誘したり、SNSで拡散したりして、複数人が同時に不適切な給付を受けていることだ。若者を中心に、口コミやSNSで知り、犯罪だと認識せずに詐取していたケースもある。
実際に、官公庁や報道により不正受給の具体例が周知されると「(対象外だが)もらえると思って受給してしまった」という旨の問い合わせも多くあったという。
また、不正横行の一因には、厳格な審査よりも迅速に給付が行われるスピード感を重視した制度設計が挙げられる。オンラインで簡単に手続きできる利点が、裏目に出た形だ。また、フリーランス事業者など対象を幅広く設定したことで、不正の抑止が効きにくくなったとも指摘されている。
経産省や警察は、現在も不正受給の調査を続けている。貴重な国の財源が本来届くべきところに適切に給付されるために、それぞれが制度を正しく理解することが重要だ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)