本記事は、新井一氏の著書『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

なぜ優れた人ほど「起業」に失敗してしまうのか?

失敗
(画像=maccc/stock.adobe.com)

会社員として優秀な成績を挙げている人の多くは、努力はもちろんのこと、お勤めの会社の文化や商品、事業の進め方などが、自分の適性に合っていた人です。

もちろん、それはとても素晴らしいことなのですが、起業する場合には、会社員としての自分と、経営者になる自分を、少し違った視点で見る必要があります。

社員として会社で学んだ仕事のやり方は、その会社でのやり方に過ぎません。さらに、これから事業を始めるあなた個人には、その会社の持つ看板、かばん、顧客など、全てが存在しません。そもそも、同じフィールドに立っていないのです。組織の一員ではない個人としてのあなたは、資金や時間が限られているだけでなく、ビジネスに必要な「信用」が全くないところからのスタートになるのです。

会社での自分を前提に考えていると、起業してうまくいかないとき、「なぜだろう? 会社ではこれでいけるのに……」と、戸惑ってしまったり、自信を失ったりしてしまいます。実務においても、特に転職経験がない人は、一つの会社でのやり方しか経験がないので、思うような結果が出せなかったり、頭が固くなってしまったりすることがあるのです。

ある知り合いの起業アイデアをチェックしたときのことです。

その知り合いから送られてきたメールには、PDFとPowerPointの添付ファイルが付いていました。開いてみると、PowerPointには文字がびっしり。PDFには表やデータの数字がたくさん書かれた、壮大な事業計画書でした。

ビジネスアイデアを人に伝えるためには、説明や根拠となるデータを示す資料が必要です。しかし、資料を出す相手によって、求められる情報は異なります。

おそらく、彼がお勤めの会社では、上司にそのような大量の資料を出すことが当たり前になっているのでしょう。しかし、私のような部外者が、初めてそのビジネスプランを目にしたときに、そんな資料を読み込むでしょうか? 残念ながら、よほど暇な人でない限り、そんなことに付き合ってはくれません。

このケースで言えば、私に見せる資料は、多くてもA4用紙1~2枚には、まとめてほしかったということです。人が自分に割いてくれる時間は一瞬です。たとえばInstagramで、「いいね」するかどうかを判断する時間は0.013秒ともいわれています。直感的に伝わらないものは、関心を示してもらえないのです。

起業の恐怖心と向きあう方法

優秀な人ほど、いろんなリスクが頭に浮かび、「起業をしたら失敗するかもしれない」という恐怖心を持っています。そんな人は、自分の中にある恐怖にどう立ち向かえばいいのでしょうか? 究極には起業に「楽しさ」を見出すことですが、その域に達するまでの、「恐怖との向きあい方」について考えてみましょう。

会社員感覚が抜けないうちは、許可や指示を得ないと安心できなかったり、「間違えたくない」「失敗したくない」といった考えになりがちです。

私も会社員時代には、「後から文句言うんだったら、先に正解を教えてくれよ。指示通りにやるからさ……」と思っていました。起業に対する似たような不安や考え方は、誰でも持ってしまうものだと思います。

起業に関して言えば、この「失敗したくない」という気持ち(恐怖)は、「なるべく早くお客様を持つこと」で減らせます。

こう言うと、「えっ、いきなりお客様を持ったら、さらに失敗してしまうのでは?」と思う人もいるでしょう。はい。失敗してもいいので、なるべく早くあなたのお客様を見つけてください。もし見つからないのであれば、値段を下げても家族でも知り合いでもいいので、最初のお客様になってもらってください。

なぜお客様を持つと「失敗への恐怖」を低減できるのでしょうか? それは、そこから、具体的な改善点や反省点がたくさん見つかるからです。恐怖の原因は、「漠然」にあります。何となく、「何か失敗するかもしれない」と思っているので怖くなるのです。

未経験のことは、誰でも怖いものです。しかし、お客様を持つことで問題点が具体化され、その対策を取ることができるようになります。対策をしていくことで、恐れは少しずつ消えていきます。

それでも恐怖心が払拭できない人は、同じように起業を目指している仲間のやり方を見せてもらうといいでしょう。実際に仕事をしている人を見れば、「こんな風にやるんだ!」とか「こんな程度でいいんだ!?」という感覚が生まれます。この感覚が大事なのです。

もし、周りに参考にできる人がいないのであれば、自分の起業アイデアと似た商品、サービスを買ってみるのも手です。その商品やサービスを体験すれば、同じように、「ここまでやればいいのか。だったら自分も大丈夫だ。そして、この部分は今の自分には無理だから止めておこう!」という「具体的な感覚」を持つことができます。

なお、「怖さ」よりも「正解を知りたい」という気持ちが強く出てしまう場合は、自分で試行錯誤する必要のない、「指示されたことを納期までにきちんと仕上げる作業」にあなたの適性がある可能性もあります。そんな方は「やってあげる系」のビジネスを試してみましょう。

ここで、元大手企業の社長秘書をしていた、Fさんの事例をご紹介しましょう。

Fさんは、大手企業に新卒で入社して以来ずっと、役員秘書室での業務を担当してきました。秘書室に若い社員が増えてきたこと、会社の業績が低迷し始めたことで、将来に不安を感じたFさんは、起業する道を模索し始めました。

Fさんは当初、仕事で学び身に付けてきた〝ビジネスマナー〟を教える講師になることを目指し、研修メニューや動画講座などの開発に着手しました。しかし、自分の中の違和感に気づきます。なぜか手が動かない。起業のことを考えるだけで気が重くなり、体調すら悪くなる。Fさんは、私に苦しい胸の内を話してくれました。

「新井さん、私には起業は向いていないと思いました。研修プログラムや動画のことを考えると頭が真っ白になって、めまいがしたりするんです……。」

会社では秘書室長として、社長や役員のお世話をし、お客様をおもてなししながら、部下の育成までやっているFさん。「こんなに優秀な人が、起業に向いていないと言うのか?」と私はとても不思議に思いました。

Fさんは、「自分自身のことになると、何もわからなくなってしまう」のですが、会社の秘書業務なら素晴らしい動きをすることができます。尊敬する上司に頼まれたことはきちんとやってあげたいし、こんなこともしてあげたら喜ばれるだろうと、いろんなことが思い浮かぶ人なのです。

私は、「その性格をそのまま起業ネタに使えますよ」とアドバイスしました。

相談の結果、Fさんは、「秘書を雇うほどでもないけど、お願いしたい細かい業務がいっぱいある社長」に向けて、「小さな会社の秘書代行サービス」を設立して独立しました。毎日、尊敬する経営者のために、心のこもったサービスを提供しています。

COLUMN 独立後に病気になったらどうなる?

会社員であれば、病気や怪我をしても「有給休暇」や「休職制度」を利用して、しばらくお休みすることができます。休職中も傷病手当金を受け取れるなど、制度も整っています。一方で、独立している場合には、簡単に休むことはできません。休めばそれだけ収入が減り、長期間離脱すれば、お客様も離れてしまいます。日頃からの健康管理が、人一倍大事になることは言うまでもありません。

独立したら、心の健康にも今まで以上に気を配る必要があります。「独立したら嫌いな上司や人間関係から解放されて幸せなのでは!?」と不思議に思うかもしれませんが、そこには、会社の人間関係とは別の心労があるのです。

・自己責任の重さ
・収入が不安定
・業績不振で資金繰りに追われる
・相談相手がいなくて孤独
・関係者の裏切り
・仕事優先による家庭不和

経営が厳しい時ほど休みが取れず、プレッシャーがかかります。社長が不安な顔をすることはできず、「強くあるべき」と期待され続ける日々です。そんな境遇も楽しんで、「だから人生は面白い」と笑い飛ばせるかどうかは、あなた次第です。

COLUMN 不安とはチームで向き合う

起業18 フォーラムが行ったネットリサーチで、経営者/自営業/自由業の方々が持つ不安は、「収入が不安定」が最も高く、約半数がそう感じていることがわかりました。

不安に対してはチームで向き合うのがイチバンです。信頼できるパートナーを紹介し合える体制があれば、数字的にも、精神的にも楽になることができます。

税理士や司法書士など、いわゆる士業の先生も、お互いに顧客を紹介し合う仕組みを持ち、クライアントを増やしています。

調査日2021年12月23日
対象者条件会社員(正社員・契約・派遣社員)61s 経営者・自営業・自由業51s

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(画像=『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』より)
起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?
新井一(あらい・はじめ)
1万人の起業をプロデュースした「起業のプロ」。1973年生まれ。会社員のまま始める起業準備サロン「起業18フォーラム」主宰のほか、インターネットからの集客術に特化した起業家向けマーケティング支援などを行う。社会との関わり方に問題を抱え、高校・大学と海外スクールに単身就学。帰国後、日本企業に就職するも、人嫌いを克服できず、さまざまな失敗を繰り返す。社会になじめず、会社になじめず、自分の居場所を探して、15年間、会社員をしながら事業を続け、独立後は「起業のプロ」として起業家を育てる。特徴は「人生を変えたい」と願う会社員はもちろん、自立を目指す主婦からニート、フリーター、落ちこぼれまで、起業とは程遠いと思われがちな人材を一発逆転させてきたこと。「一緒に考える起業支援キャリアカウンセラー」として高い評価を受けている。

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