本記事は、新井一氏の著書『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

好きなことで起業するときに気をつけたいこと

しんどい
(画像=sorapop/stock.adobe.com)

「私、絵を描くことは大好きですが、描き続けるのはしんどいかも……」

これは、「好きなことで起業した人」が陥りがちな思考パターンです。特に自分のスキルを売りにする場合によくあるので、注意が必要です。

しかし、好きなことで起業しようとしているのに、なぜしんどくなってしまうのでしょうか? 自分の好きなことで起業するのは、そんなに大変なことなのでしょうか? いいえ違います。

ひと言でいうならば、この方は「会社の基準に引きずられていた」のです。

このご相談をいただいた女性は、デザイン会社に勤めていたこともある人で、絵がとても上手でした。素人の私から見ると、立派に商品化できるクオリティなのです。しかし、彼女は満足しなかった。なぜでしょうか? それは、「会社で求められている仕事と、自分で好きな絵を描いて売ることが、ゴチャゴチャになっていたから」です。

会社では、会社が求める方向性で、会社が求める絵を描かなくてはなりません。絵を描くことが義務であり、常に高いレベルの作品を求められます。一方、自分の事業であれば、義務を感じる必要はありません。好きな方向性で、好きなように描いて、それを評価してくれる人を相手にすればいいのです。

すでに何か商品を売っている人であれば、お客様の顔を思い浮かべてみてください。会社のお客様ではありません。あなたの商品やサービスを買ってくれた、あなたのお客様です。

そんな「自分を評価してくれる人たち」を、もっと満足させてあげたいと思ったら、また創作意欲も湧いてくるのではないでしょうか?

イラストレーターとして活動したいとおっしゃっていた彼女は、イラストを描くことを義務と捉えてしまっていました。なので、「思うように描けない」「何を描いたらいいのかわからない」「上手な人の絵を見るとへこむ」など、つらくなってしまっていたのです。

もし、あなたが好きなことで起業しようとしているときに、「しんどい」という気持ちになってしまったら、深呼吸をして、「自分を縛っている基準」から離れてみましょう。そして、「何のために起業するのか」を、思い出してみてください。

起業を目指したけどモヤモヤが残る、そんなときは?

私たちは、何かが引っかかって前に進めない状態になったとき、何ともいえない気持ちになり、心の中が「モヤモヤ」してきます。言葉にできない何かを、脳が感じているのでしょう。

そのモヤモヤを解消するために、私たちは、カウンセリングを受けてみたり、セミナーを受けてみたりします。モヤモヤ状態が嫌なので、原因の特定や解決方法を探すための行動を起こすのです。

しかし、原因が複雑に絡まっているときや、自己解決できる域を超えている場合には、あえてそっとしておくほうがいいこともあります。

「私、このままでいいのかな?」という気分のときには、原因を特定して自分を責めてしまうと、精神的に追い込まれてしまいます。「あの時こうしていれば(後悔)」「あの人がいなくなれば(変えられないこと)」「私が変われば(簡単にはできないこと)」など、つらい感情が出てきてしまうからです。

そんな場合には、無理に解決しようとするよりも、ありのままに、好きなことをして、きっかけを待ちつつ自然に身をゆだねるほうが、きっと楽になれるはずです。

私自身、性格に問題があり、子供の頃から会社員時代に至るまでずっと、人とうまくお付き合いすることができませんでした。正直、今でも苦手です。大人になってからも続く人間関係の悩みに疲れ、さまざまな解決策を模索し、そうした学校にも通いました。そこで学んだラポールテクニックを会社で試すと、「あいつキモイ」と言われる始末(笑)。どうにもなりませんでした。

私はたまたま、その〝つらさのエネルギー〟が、ブログで自分を発信することに向かいました。アクセス数が増え、ビジネスになり、プライベートは充実していきましたが、根本的に何も変わっていない私は、ある時ついに会社に居られなくなり、逃げるように退職しました。

原因を特定し、それを解決したわけではありません。環境が変わった今、私は相変わらず人とうまくやれませんが、それでもブログを書きながら、毎日、気楽に生きています。無理に解決しようとして、自分を曲げる必要はないのです。

「好き」にとらわれ過ぎない

「好きでやりたいと思っていたけど、いざ、やってみたらそうでもない。本当は好きじゃないのかな……(涙)」

これも、好きなことで起業準備を始めた人がぶつかる壁の一つです。壁というほどの悩みではありませんが、深みにはまってしまうと抜け出せなくなることがあります。好きだと思っていたことが、「実は好きじゃないのかもしれない」と感じてしまい、自分がわからなくなってしまうのです。

そんなときには、自分の「好き」の定義を見直してみましょう。

たとえば、

・好きなものを毎日食べているだろうか?

・お味噌汁は好きだけれども、「今夜はお味噌汁だ!」とテンションMAXになるだろうか?

・海外から戻った時、「日本のお米っておいしい」と思わなかっただろうか?

「好きなことで起業」というと、「好き」に焦点が当たり過ぎてしまい、「究極の好きなこと」を探してしまう人が多いです。ですが、そんなに肩肘張るようにして、「本当に好きなこと」を探さなくても結構です。そもそも、そんなに大好きなことは、お金を払ってでもしたいでしょうから、ビジネスにならないかもしれません。

「そこそこ好きで苦にならない」「たまにメチャクチャ欲しくなる」、そんなことで大丈夫です。「仕事にするほど好きなのか?」と重たく考えてしまうと、「実はよくわからない」「好きだけどお金になるとは思えない」など、そこでまた迷ってしまいます。

たとえば、あなたがサウナに通っていて、あの〝整う感じ〟がとても好きだとしましょう。スパを建設して経営することはできなくても、「こんなサウナハットがあったらいいな」とか「こんな小物入れがあったら、サウナに行くときに便利なのになぁ」とか思うのなら、海外から仕入れたり、手作りしたりして販売できるかもしれません。海外に人脈があれば、企業と提携して、日本製の檜サウナを輸出するなども考えられます。

物販に興味がなければ、YouTubeチャンネルやnoteでサウナを紹介したり、サウナ比較&口コミサイトを立ち上げれば、広告費を稼げるかもしれません。「サウナは好きだけど、そこまで詳しくないよ」と思うなら、サウナサークル運営、サウナ合コン主催、何だっていいのです。

ところが、次のような状況になってしまうことがあります。あなたの仕事が忙しくなり、サウナに行く機会が減ってしまいました。気づけば以前ほど、「サウナに行きたい」と思わなくなってきました。そこで迷いが生じます。

「本当は、サウナが好きじゃないのかもしれない。これを起業ネタにしちゃいけないんじゃないか……」

別にいいじゃないですか。また通えば、きっと楽しいですよ。何度行っても、「全然楽しくない」と思うならやめて、違うことをすればいいじゃないですか。そのために、小さく、家族に迷惑をかけない程度で始めているのですから、大丈夫です。

起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?
新井一(あらい・はじめ)
1万人の起業をプロデュースした「起業のプロ」。1973年生まれ。会社員のまま始める起業準備サロン「起業18フォーラム」主宰のほか、インターネットからの集客術に特化した起業家向けマーケティング支援などを行う。社会との関わり方に問題を抱え、高校・大学と海外スクールに単身就学。帰国後、日本企業に就職するも、人嫌いを克服できず、さまざまな失敗を繰り返す。社会になじめず、会社になじめず、自分の居場所を探して、15年間、会社員をしながら事業を続け、独立後は「起業のプロ」として起業家を育てる。特徴は「人生を変えたい」と願う会社員はもちろん、自立を目指す主婦からニート、フリーター、落ちこぼれまで、起業とは程遠いと思われがちな人材を一発逆転させてきたこと。「一緒に考える起業支援キャリアカウンセラー」として高い評価を受けている。

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