駐車場管理やカーシェアリング事業を手掛けるパーク24が「空飛ぶクルマ」の関連事業に乗り出す。あいおいニッセイ同和損害保険、総合商社の兼松、英国で空飛ぶクルマの実現に取り組むSkyports社と共に、バーティポート(垂直離着陸機用のターミナル) の開発に向けた業務提携に関する覚書を締結した。
離発着場の適地を調査
「関西エリアで同社が管理している駐車場を対象に、離着陸や充電の拠点となるバーティポートに適した場所を特定するために共同調査を実施する」と4社連名で発表した。さらに、パーク24が手掛けているカーシェアリングサービスを活用し、出発地点や目的地と離着陸場の間を結ぶ移動手段を提供する検討を進める。
パートナー企業であるSkyports社は、エアタクシー用の離着陸インフラの設計や構築、運用を実施しており、全世界でビジネスを展開している。日本国内では兼松と資本業務提携を結び、事業を展開する。あいおいニッセイ同和損保は空飛ぶクルマ関連の保険の提供や手配を行うほか、空と陸をシームレスに統合するMaaS(Mobility as a Service)の開発を目指す。
このようにして4社が連携し、空飛ぶクルマが走るためのソフト、ハード両面の整備を進める。
パーク24の佐々木賢一取締役はプレスリリースの中で、同社のブランドコンセプトが「モビリティリンク」で、あらゆる交通手段がつながり、モビリティの利用者である人と街がつながり、地域が魅力あふれる場となることだと紹介した。「バーティポート事業は、モビリティリンクというタイムズのブランドコンセプトに欠かせない事業になるものと期待しております」とコメントしている。
そもそも「空飛ぶクルマ」とは
国土交通省が2021年3月にまとめた資料によると、一口に「空飛ぶクルマ」と言っても、現在のところ明確な定義はない。無人小型機の「ドローン」を人間が乗車できるよう改良したもの、EV(電気自動車)にプロペラや自動制御システムを加えたものなどが一例となる。
「空飛ぶクルマ」は、ヘリコプターと比べて整備費用が安く、騒音が小さく、自動操縦で運転士が要らないものになるだろう。また、今回の計画に関していえば、垂直に離発着できるタイプなら、バーティポートの候補地を選ぶ自由度も高くなる。
政府は、2025年に予定される大阪での関西万博の舞台となる大阪の夢洲(ゆめしま)と関西エリアの3空港、大阪市内などを空飛ぶクルマで結び、来場者らを輸送したい考えだ。利用者には瀬戸内海や関西圏の都市部の上空の眺めを楽しんでもらい、万博後には全国各地で普及させることを目指している。
2050年の世界市場規模は122兆円!?
国ぐるみで取り組みを後押しする背景には、市場規模の拡大予測が一役買っているとみられる。
民間シンクタンクの矢野経済研究所が作成したリポートによると、空飛ぶクルマの世界市場規模は2025年に146億円と見込まれる。これが2030年には6兆3,936億円になり、2050年には122兆8,953億円にまで大きくなるという。実に25年間で8,417倍に拡大する計算だ。
市場の成長ぶりが急速すぎるようにも見えるが、リポートでは単に上空を移動する手段としてではなく、観光や競技など新たな業界を巻き込んで付加価値を生み出せると述べている。
もっとも、現状は法制度の整備が追い付いていない。上述のようにインフラ面も圧倒的に不足しており、仮に空を飛ぶ安全で安心な技術が確立しても、すぐに運航を始めることは難しいと言える。
パーク24による意欲的な試みに注目
そこで登場するのがパーク24だ。同社の駐車場と言えば、黄色の下地に黒文字で「Times」と記された看板が目印である。2021年10月末時点では国内で1万7,879カ所もの駐車場を運営している。
コインパーキングは繁華街や駅前に多く設けられている。そうした立地では数台程度しか止められない小規模な駐車場も多いが、垂直に離着陸する車体であれば、バーティポートの候補となる駐車場も多くありそうだ。
足元ではコロナ禍により、繁華街や駅前にある駐車場の需要が低下している。同社の2022年10月期の連結売上高は2,511億円あるものの、駐車場利用が低迷する中、2期連続で営業損益と経常損益、最終損益が最終赤字となった。
2022年に入り、新型コロナウイルスへの世間の恐怖心は徐々に薄れ、日常生活が戻り始めている。ただ、アフターコロナ、ウィズコロナ時代に消費者行動がどう変化するかは見通しにくい。パーク24による空飛ぶクルマ事業への参画は、外部環境が大きく変化する中、既存の事業や経営資源を活用し、まだ世界的に方向感の定まっていないビジネスに取り組む意欲的な試みと言えそうである。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)