誤送金問題はあなたの身近にも? 金額や振込先を間違えた時の対処法
(画像=koumaru/stock.adobe.com)

2022年4月、山口県阿武町役場による誤送金が話題となった。金額が4,630万円と大きく、振り込まれた町民が「すべて使った」と当初、返還を拒否したためだ。インターネットバンキングの普及などで手軽に振り込める環境が整う中、個人はもちろん企業にとっても誤送金は身近な問題として注意しなければならない。

金融機関に「組み戻し手続き」を依頼する

国民生活センターの公式サイトによると、誤送金をしてしまった場合、まずは自分が振り込みに利用した金融機関Aに対して「組み戻し手続き」の開始を依頼する(=①)。「組み戻し」とは返金のことを指す。

その後、金融機関Aは、誤って振りこんだ口座のある金融機関Bに対し、同様に返金を依頼する(=②)。そして金融機関Bは、誤って入金があった口座の持ち主に返金手続きの了解を得て(=③)、返金に向けた具体的な手続きを進める(=④)。こうした一連の組み戻し手続きには、通常、1,000円程度の手数料がかかるようだ。

上記の組み戻しの流れは、あくまで振り込みを受けた側が素直に返金に応じることを念頭に置いているため、順調に手続きができるとは限らない。実際、阿武町の事例で問題となったのが、③の段階である。

4,630万円を受け取った阿武町民は、入金から1ヵ月後に逮捕されるのだが、当初は金融機関の依頼に応じる構えを見せたものの、土壇場で協力を拒否した。その後に「すべて使いきった」という趣旨の主張を繰り返したため、回収が難航したのだ。

返金が難しい背景に「プライバシー問題」も

阿武町の誤送金はあまりに金額が大きく、一般的な事例としては扱いにくい。ただ、自分の口座に入ってきたお金を「実は間違いだったから返金して」と言われたら、「間違って振りこんだ人が悪いだろう」と手放すのが惜しくなる感情自体は、理解できる人もいるだろう。

その結果、受け取った人が返金を拒否するに至った場合はどうなるのか。国民生活センターによると、法的に返金を請求する際は、大前提として誤って振り込んでしまった相手を特定しなければならない。

ところが金融機関は通常、預金者のプライバシーの保護を図る必要があるため、「相手は●さんで、住所は▲です」と簡単に個人情報を出すことはない。

その場合、誤送金を行なった側は、「不当利得返還請求訴訟」という民事訴訟の手続きに則って返金を求めることになる。具体的には、訴訟手続きをして裁判所に間に入ってもらい、誤送金の相手先の情報を開示してもらう方法をとることになる。その際、専門家として弁護士に訴訟手続き等の代行を依頼をする。

誤送金トラブルに有効な対策はあるのか

阿武町が開いた住民説明会では、住民から業務上の怠慢を指摘する厳しい声が相次いだ。誤送金した対象が、税金を基にした新型コロナウイルス対策関連の給付金であり、振り込みを誤ったのが行政職員だったため、当然と言えば当然だ。

一企業での誤送金がこれほど大きな社会現象になることはないかもしれない。しかし、法的手続きが必要になれば会社の負担は大きく、誤送金をした当事者は社内で後ろ指を指されかねないため、誤送金を防ぐに越したことはない。

そこで、一般的な誤送金の対策を考えてみよう。誤送金などの間違いを100%防げるような対策はないため、最も基本的なのは業務内容を理解している複数の人間でチェックすることだ。

阿武町の事例では、送金処理を担当したのが異動してきて間もない若手職員で、データのやり取りは「フロッピーディスク」を使っていたとされている。現代の日常生活で、フロッピーディスク使うケースは稀であろう。特に、経験の浅い職員にとってなじみがないであろうツールを使う場合、誤りがないか二重三重にチェックするのが不可欠である。

また、何重ものチェックに加え、事務処理を担う世代にとって抵抗感の少ないツールを活用するのも大切だ。阿武町の事例では、銀行側の要望であったとされているが、慣れない機器を使う時ほどミスが起こりやすい。データの受け渡しに物理的なツールを使っている場合、変更に当たって相手方との調整が必要かもしれないが、その手間をかける価値はあるだろう。

送金手続きはできれば窓口で依頼を

阿武町の事例では、誤ったのは送金金額だったが、実際の誤送金には口座番号を間違ってしまうケースもある。

この点では、窓口で振り込み依頼を行うことが一種の対策になる。窓口では振込先の口座番号だけでなく、名義人(個人、法人)も記入する。第三者である金融機関の窓口担当者も巻き込んで、ダブルチェックをしているようなものであり、仮に口座番号を間違えても、名義人が異なるため金融機関側でミスに気付いてくれる可能性がある。

あまりにチェックの項目や回数が多くなると、事務作業の効率が悪化する。阿武町の例を見る限り、とにかくチェック機能を増やすというよりは、質の高いダブルチェック、作業者が使い慣れたツールでの処理といった点に力点を置くのが良さそうだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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